[KATARIBE 29712] [HA06N] 小説『マメシバン計画、膨張す』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 27 Jan 2006 23:57:34 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29712] [HA06N] 小説『マメシバン計画、膨張す』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200601271457.XAA88447@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29712

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29700/29712.html

2006年01月27日:23時57分33秒
Sub:[HA06N]小説『マメシバン計画、膨張す』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
マメシバン計画、妙なところから人員を増やします。

*******************************************************
小説『マメシバン計画、膨張す』
=============================
登場人物
--------
  東治安(あずま・はるやす)
   :吹利県警警備部巡査部長、不可視の東。犬にたとえるとドーベルマン。 
  形埜千尋(かたの・ちひろ)
   :吹利県警総務課職員。県警内の情報の元締め
  薗煮広矢(そのに・ひろや)
   :吹利県警広報部。明らかに就職先を誤ったノリノリ企画人。
  桃実幸(ももざね・こう)
   :吹利県警生活安全部課長。昼行灯、もしくはしっかり狸。
  葛城比呂(かづらぎ・ひろ)
   :吹利県警刑事部巡査、九州の人。犬にたとえるとシベリアンハスキー。 

本文
----

 陰謀、というものは、何も国家間や企業間で大掛かりに企まれるばかりでは
ない。

『……おとーさん、あのね』
 久し振りに聞く声。携帯を持ったまま、部屋から廊下へと移動する。
『きょうね、ほいくえんでね、マメシバンみたの』
 午後五時過ぎ。灯りは点っているものの、廊下はかなり薄暗くなっている。
『ふーりけーさつ、って、おとーさんのおしごとのとこなのって、いくちゃん
にいったの』
 子供特有の、息の使い方がまだうまくいかないような声。それに頷いてやり
ながら、これもまた多分妻の計画だろう、と、思う。少なくとも子供からの電
話を無下には切らないだろう、という……そういうことなのだろう、と。
『そしたらね、いくちゃんがね、おとーさんでてくるのっていったのね。でも
ね、おとーさんいなかったの』
 しょんぼりとした声は……しかしある意味とんでもない提案をもちかけてき
たものである。
『おとーさん、マメシバン、しないの?』

            **

「あぁ。それで珍しく、落ち込んでたんかぁ」
 生活安全部の桃実課長が苦笑した。

 電話の言葉に絶句した、その一瞬を発見(?)されたのが運の尽きという奴
である。ずるずると形埜千尋と薗煮広矢に休憩室に引きずり込まれ……引きず
り込まれた先に、湯呑を持った桃実が居たわけだが。

 それにしても恐ろしいほどの情報収集力と推理力である。東が口に出したの
は『マメシバン?……いや』くらいのものだった筈なのだが。

(なーに、娘さんから電話?ああ、そいえばお嬢ちゃん保育園だもんねえ、マ
メシバン見てても可笑しくないよねえ)
 うんうん、と、頷きつつ、千尋は下から見上げるように東のほうを見て、最
後ににんまりと笑った。
(お嬢ちゃんから、マメシバンに出てって頼まれた?)
 何故、その一言でそこまで見抜くのだ。

「出てあげたら?子供さん喜ぶよ?」
 ほい、と、備え付けの湯呑みにお茶を汲んで、渡す。それと一緒に千尋が真
顔で言った。
「あずやんも、家族には弱いなぁ──まぁ、うちの強面連中あらかたそうやけ
どねぇ」
 ごくごく暢気に、桃実が茶々を入れる横で、最近九州からやってきた刑事部
の葛城がくつくつ笑う。
「子供はつよかねー」
 とりあえず、『不可視の東』に『マメシバンやってー』と言えるのは、彼の
娘くらいのものである。

「……そういう訳にはいきませんので」
「あら、なんでよ」
 ちょっとむっとしたように千尋が切り返す。
「そりゃ、刑事がマメシバンでほのぼのじゃぁ格好もつかんやろ」
「世間的にどうこうは現在問題じゃあないでしょ」
 どこからか引っ張り出した芋けんぴの袋をぱりぱりと開けて皆に勧めながら、
千尋は桃実に切り返す。細い菓子をタクトのように振りながら、言葉を続ける。
「大体一度や二度、マメシバンに出たくらいで、東さんがほのぼのするもんか」
 ……それ、ぜんぜんふぉろーになってねー……と、千尋に面と向かって言う
人物は県警には居ない。
 言うのが怖いというより……言っても無駄なんである。

「東さん、ゆーとくけどね、今の一時は10年後の一年の悔いになるよ」
 片手に湯呑み、片手に芋けんぴ。実に暢気な格好のまま、ざかざかと千尋は
言葉を重ねる。
「おとーさんはどれだけ頼んでも出てくれなかったって、一年はねちねち言わ
れるよ?」
「…………」
 流石に言葉に詰まったまま、一向に減らない湯呑みを東が握り直した時に。

「くわっ!これだこれだこれだっ!」
 パイプ椅子一つ置いて座っていた薗煮が、いきなり立ち上がった。
「欠けていたピースが!」
 えらい勢いでエキサイトするのを、後の4人が唖然として見る。その視線に
全く構うことなく、彼は叫んだ。
「悪の博士!」
「はいはい、薗やんはちぃとだまっとき」
 やれやれ、と、桃実が片手を振って彼を黙らそうとした……のだが。
「おお!」
 ぽん、と、手を打ちざま、その努力を一瞬で無にする奴も居たりする。
「そいえば、居なかったね、その役は」
 あーあ、と、桃実が溜息をつき、葛城がくく、と、笑う。そのどちらにも、
毎度のことながらてんで気がつくことなく、薗煮は握り拳で叫ぶ。
「ウルフ将軍!ボクサー閣下!そして……ドーベルマン博士!!!」
「…………」
 なぜドーベルマン、と、内心突っ込んだ東をちろっと見ると、千尋はにっこ
りと笑った。
「……とりあえず、さ。ちょいっと一瞬、顔出すだけでもやって、子供さんに
『出たよ』って言ってあげたら?」
「…………」
「子供さん……喜ぶよ?」
 すっと真顔に戻って、そう言う。
 からかっていないだけに……性質が悪い。

 桃実は可笑しそうにこの二名の対決を眺めている。
 葛城はとうとう湯呑みを持ってパイプ椅子数個分先に避難して、笑いをこら
えている。
 で、肝心の薗煮は。
「大丈夫!?!」
 どこが大丈夫なんだ、との突込みをかっ飛ばす勢いで。
「気合をいれてモノクルと素敵な白衣っぽい衣装をお作りします!!!」
「………………」
「あずやん、腹が決まったみたいやねぇ」
 やはり飄々として呟く桃実のほうに、東が視線を動かしかけた、時に。

「確かこの前の、子供さんの……何か会にも出損なってなかった?」
「!」
 なぜそれを!……と、口には出さないあたり、流石ではある。あるのだが。
 その一瞬の揺れを、千尋は見逃さない。
「そういうさ、ずーーーっとお仕事ばっかのおとーさんが、自分のわがまま聞
いてくれるって、子供はほんっとうれしいもんよ?」
「………………」
 弱味を見切り、相手の揺らぎを捕らえ、絡め手で攻める。
 ……いやな相手である。

 それでも。

(……あの子の保育園の学芸会よ)
(あなたに会いたがってるわ)

 結局その会も、行くことが出来ないまま。

(おとーさん、マメシバン、しないの?)

「…………考えさせてください」
「おおおお!!!!よっしゃあああ!!!!ドーベルマン博士!!!」
 言った途端に、パイプ椅子を蹴り飛ばす勢いで薗煮が拳を宙に突き上げる。
 桃実課長も、すでににこにこと東を見ている。
 考えさせてください、の時点で、つまりがとこ……東氏相当負けである。

 しかし、敵はそこで手を緩めないのである。

「考えさせて下さいたって……考えてどうこうって問題じゃないっしょ?」
 形埜千尋の過去も、案外謎である。かなり前に夫と死別し、以降女手一つで
子供二人を育ててきた。一人は地方の国立大学に入学し、もう一人も高校で結
構頑張っているらしい。その実績という裏打ちのある彼女は、飛び切りの裏の
無い笑顔を浮かべて東を見やった。
「子供さんのわがまま、ちょっとは聴いてあげなよ、おとーさん」
「…………」
 その一言が、胸に痛い。

 葛城が首を伸ばすようにして、やりとりを見ている。
 薗煮のほうはもうすっかりマメシバンモードに移行して、うんうんと考え込
んでいる。
 そしてこの場でもう一人、子育ての先輩たる桃実課長は。
「そうそう、適度にかまったらんと、うちの阿呆みたいにヒネてしまうよ?」
 ……追い討ち、である。

 それにしても。
(なぜ、私がドーベルマン博士に……)
 流石にひっかかった東の内心を読んだのかなんなのか、千尋がうーむと考え
込んだ。
「しかし、ドーベルマンというより……ってか敵方なんだから犬じゃなくて、
この人だと……なんだっけ、あの、毛のない猫」
 いやそういう問題かーと、誰かが突っ込む前に、ぽん、と手を打つ。
「……ああ、スフィンクスだ!」
「んーと、エジプトのあれ?」
「いや、猫の種類でね。猫なのに毛が無くて、一瞬うわっと思うけど、でも良
く見るとかわいい」
「──カナダで生まれた猫やったっけ?」
「ドーベルマンがいやなら、そっちでもいいねー」
 …………いや根本が違う。

 何でまたそうやって、わざわざ犬や猫にたとえるのだろうか、とか。
 そういうよくわからん宇宙刑事モノをやろうなどと言い出したのか、とか。
 いろいろあるのは事実だが。

 けれども。
 
(子供はほんっとうれしいもんよ?)

 その一言は、何よりも重くて。

「…………今回だけならば、やりましょう」
「よっし!」
 ぐっと千尋が拳を握り、遠くで見ている葛城がにっと笑う。
 薗煮は……いつの間にやら消えている。

「親子の会話が増えるのはえぇことやね」
 のんびりと、出がらしのお茶を注ぎつつ、桃実課長が言う。
「娘なんかいずれ家を出てくもんやから。手元にいるうちに可愛がったらんと」
「…………ええ」
「あずやんの娘さん、幾つやったっけ? 来年、小学校やったかな」
「……四月に小学校です」
「それは楽しみやなぁ」
 湯気にあごを当てながら、にこにこと笑う。
「うちの父さんマメシバンに出てるんだよ──なんて、自慢の種やろうねぇ」
 うむうむ、と、頷くと、一言。
「気ぃ抜いて出られんなぁ」
「…………」
「それに、お父さんにお願いしたら出てくれたってのが、またポイントね」
 ようやく手に持った芋けんぴをぽりぽりと齧っていた千尋が一言加える。

 なんか抜け出せなくなっているんじゃ?と東は思い始めた。
 そのとおりである(おい)。

「そいや、千尋さんはなにかせんの?」
 ひょい、と桃実が千尋を見やった。
「あたしは裏方。予算とかそういうのも含めて」
 ころころっと笑って、千尋は答え……付け加えた。
「兼、スカウト、ですかね」
「あぁ、なるほどなぁ。それは適役やねぇ」
 くつくつと笑う桃実の傍らで。

「…………」
 では、今の一幕すべて、罠だったのか、と、東が蒼白になりかけたところで。
「って東さん。あーたの場合は、別にはめよーと思ってなかったからね」
 すぱん、と、一言告げてから、千尋は少し肩をすくめて。
「子供さんを泣かしちゃあ、お父さんはいかんでしょ?」
 ざっくり殺し文句で仕上げる。
 こうなると……東としては、黙るしかない。
「子供さんが喜ぶことだし……何か文句ある?」
「………………いいえ」
 ずい、と、詰め寄られると……それしか言いようが無い、といったところか。
「でしょーが」
 かんらからから、と千尋が高笑いする横で、桃実もくつくつと笑っている。
 が……この場合、次の『追い込み』は、その桃実から来た。

「そいや、奥さんにも埋め合わせせなあかんよねえ」
 ぴく、と、東の眉のあたりが動いた。
「…………一応は」
 多少は埋め合わせをしている、と、言いかけたのを見事に無視して。
「そんじゃ撮影の時に来て貰うとかは?」
「…………」
 無言になった東を、千尋は非常に興味ありげに見上げた。
「一応は、何?」
「…………多少なりとも、埋め合わせはしています」
 抑揚の無い声だが、言葉の端々に焦りのようなものが含まれる。その焦りを
あっさり見切って。
「それ、東さん基準、それとも奥さん基準?」
「…………」
「いーじゃん、どうせ撮影の時って時間食うしその割に進まないし。奥さん呼
んで見てて貰ったら?」
「………………」
 言葉は無いが内心大焦り、の東に向かって。
「……何か問題?」
 千尋は小柄である。その小柄な背を生かして、ぐっと下から見上げて、その
言葉を放つ。
 はっきり言って……迫力はある。

「………………いいえ」
「んじゃ決まりっと」
 なぜ、こんなことに……と、内心滝汗三斗状態の東をあっさりと放り出す格
好で。
「広報課にゆーとくわ、じゃねー」
 手をぱたぱたっと振ると、汚れた湯呑みを回収し、そのまま部屋から出てゆ
く。何も言えずに東はそれを見送った。

「……まあ」
 飄々とした声が、傍らで。
「千尋さんにかかったらどうにもならんわなあ」
「………………身にしみます」
 くつくつ、と、桃実は笑ったが、
「まぁ、家族サービス思て、精進しい」
 湯呑みに残ったお茶をしゅっと吸い込むと、そのまま立ち上がり、ぽんぽん、
と東の肩を叩く。そしてそのまま湯呑みごと、やはり桃実課長も部屋から出て
ゆく。
「………………」

            **
         
 後に。
 マメシバンの中でも、妙にコアな人気を誇った『ドーベルマン博士』は、こ
のような経緯にて参加決定となったわけであるが。
 その感想を聞かれて、東は一言だけ明言したという。

 形埜千尋を敵に回してはいけない……と。

時系列
------
 2005年12月末、くらい。第一回目のマメシバンビデオが出回った後。

解説
----
 がっつりハードボイルド、不可視の東さん、千尋に完敗す、の巻(おい)。
 とりあえず、お嬢ちゃん喜んで携帯に電話してくると思います、ええ。
*********************************************

 てなもんで。
 最後のほう、ドーベルマン博士に『コアな人気』がでるかどーかは
実はまだわかりません<またんかい
 でも大丈夫。いざとなったら真帆がファンになりますからっ!<問題発言

 ではでは。
 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29700/29712.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage