[KATARIBE 29711] [KMN] 小説『古書の匂』

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Date: Fri, 27 Jan 2006 00:10:47 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29711] [KMN] 小説『古書の匂』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年01月27日:00時10分47秒
Sub:[KMN]小説『古書の匂』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
影歩む街です。
ふきらんの話の、お銀視点。
ちょいと書いてみました。

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小説『古書の匂』
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登場人物
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 来間貴彦(くるま・たかひこ):http://kataribe.com/KM/01/C/0011/
  古本屋「孤隠堂」店主。正体は文車妖妃。
 お銀(おぎん):http://kataribe.com/KM/01/C/0010/
  書店「雪風」店主。正体は元店主の飼い猫であった猫又。

本文
----
 
 最初に鼻腔を突いたのは、かびたような癖のある匂いだった。


 妖怪というものを、そう多く知るわけではない。しかし書店雪風の店主を営
みつつ考えるに、案外妖怪には本好きが多いのかもしれない。
(そこそこ来る奴に2名ほど居るしさ)
 確かに、本は娯楽としては安いものに入る。比較すれば人間よりも長い寿命
を持ち、かつ世間にばれないように生きようとする場合、妖怪たちは定住を避
け、定職を避けて生きがちになるらしい。その場合、どうしても、普通の人間
より手元不如意になることが多い……とは、その常連のうちの一人の言葉であ
る。パソコンを買いネットに繋ぎ……とやるよりは、本屋に来て立ち読みして
いるほうが余程手間要らずの安上がりであり、自然手元不如意な妖怪が好む時
間の潰し方になるらしい……のである。

 まあ、理屈はともかく、雪風に来る客の中に、幾人かの妖怪が居ることは確
かである。
 そして、現在からからと硝子の引き戸を開けて入ってきた客もまた。

(……こんだ何者だってのかね)
 つん、と、鋭いような異臭。妖怪と呼ばれる存在が近くに居る時に鼻腔を突
く刺激臭。
 しかし同時に、お銀に届く匂いがある。少し湿ったような、重い……
(どこで嗅いだ匂いかね)
 レジの前でお銀は目を細めた。
 
 文庫本の棚の前で、その客は丹念に背表紙を見ている。途中から指を宙に浮
かせるようにして、丁寧に題名を読む。おそらく何か探す本があるのだろう。
 ……にしても。
(妖怪の匂いってだけじゃあ……ないねえ)
 昔良く嗅いだ匂いだ。水華が抱えたずっしりと重い包みの……

 と、お銀は目をぱっと開いた。

(古本かい!)

 一度だけ水華に抱えられて連れて行かれたことがある。古本屋の中はどこか
湿った、どこか古臭い匂いに満ちていて、お銀はとうとう水華の手を蹴飛ばし
引っかくようにして、外に逃げ出したものだ。

(古本の……本の妖怪なんて居るのかねえ)
 ふむ、と、改めて自分の周囲をぐるっと見やったお銀の目の前で、客は嬉し
そうな顔になった。ああ、あった、との小さな声と一緒に、背表紙に指をかけ
てそっと本を引っ張り出す。手に取った本を何度も撫でているうちに、その表
情は、にへらっとふやけたようになり……またふと元に戻る。
(本の前で百面相をする妖怪、ねえ)
 無論同類であるからにはある程度の興味はあるが、それ以上にこの百面相は
面白い。無表情のまま見据えるお銀の視線の先で、しかし客は何となく居心地
悪げにもそもそと肩を動かした。
(……判るようだね)
 ならば下手に警戒させる必要も無いし、その危険を冒す必要も無い。先程ま
でやっていた本の在庫の確認の仕事に、お銀は意識を戻した。


 両手にしっかりと抱えた本ごと、客はレジにやってくる。
「いらっしゃい」
 バーコードに機械の先を近づけ、レジに入力。
「5680円ね」
「あ、はいはい……」
 積まれた本に紙のカバーをかける。まとめて揃えて紙袋に入れながら、小銭
を掬い上げるように数える客の手元を一度嗅ぐ。
 やはりつん、と、妖怪特有の鋭い刺激臭。そしてずしりと重い古い紙の匂い。
 この客に染み付いている……妖怪の、匂いとでも言うような。
(本の妖怪なんていたっけね)

「はい。ありがとう」
 本を揃えて紙袋に入れ、手渡す。
「どうも」
 何となく妙な顔になったまま、客はぎこちなく頭を下げて店を出てゆく。か
らからと引いて、また後ろ手で閉めた硝子戸の外で、その客はひょい、と、振
り返った。

 何を見たのかは、お銀には判らなかった。


時系列と舞台
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 書店 雪風にて。

解説
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 『古本屋、本屋に行く』の、お銀視点の話。
 妖怪だってのは判ったようですが……文車妖妃ってのは、恐らくお銀の語彙に
無いんじゃないかと(苦笑)
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 てなもんです。
 うん、お銀もそこそこ妖怪のことは勉強したでしょーけど、
文車妖妃がぱっと出てくるほどには知ってないだろーとのことで。
 ちなみに、以前書いてから、ここまでの間に、一応、橋姫とは知り合いに
なっているようです。
そこらは………ええ、また書きますから堪忍してー<またんかい

 ではでは。
 


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