[KATARIBE 29710] [OM04N]小説『迷い猫』

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Date: Thu, 26 Jan 2006 01:06:59 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29710] [OM04N]小説『迷い猫』
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/OM04/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
00:20 <Role> rg[hukira]HA06event: 子猫(雄)が戸惑っていた ですわ☆

敢えて鬼舞の方で書いてみました。
……むしろ、人間の方が戸惑う結果に(汗
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小説『迷い猫』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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 ニャア、と鳴き声がして時貞は庭に目をやった。庭は特に手入れをしている
わけでもなく、様々な植物が無秩序に生えている。
 庭の隅には柿の木が植えられていて、鳴き声はその辺りから聞こえてきた。
 時貞が凝視していると木の根本にある草むらが揺れて、そこから一匹の猫が
顔を出した。
「猫、か」
 時貞はふわりと立ち上がると、庭に降りてその猫の方へと歩いていく。猫は
動きもせず、じっと彼を見ている。
 やがて、手の届く位置まで来ると時貞はその猫を両手で抱えて目の高さまで
持ち上げた。猫は持ち上げられているのに慣れていないのか、時貞の手の中で
もがくようにして暴れる。しかし、体が小さいので彼の手から逃れることはで
きないでいた。
「厄介なものが迷い込んできたな……」
 その猫の顔を見て時貞は苦笑いを浮かべた。
 誰かが猫を飼っていれば、その話は時貞の耳にも入ってくるのだろうが生
憎、近頃はそのような話は聞かない。
 しかし、飼っている猫がいなくなれば騒ぎになるであろうから、それを待つ
という手がないわけではない。
 問題はそれまでこの猫をどうするかということであった。
 時貞は一人でこの屋敷に住んでいるので、留守の時に猫の世話をする者がい
ない。
 どうしたものか、と手の中で暴れている猫を見ながら時貞は考えていたが、
やがてあることを思いついて、しかし、溜め息をついた。
「あいつに頼むか」
 そう言って、時貞は猫を抱えるようにして持つと望次の屋敷へと向かって
いった。
 日はまだ高い位置にあり、通りには人の姿が多くある。猫が珍しいらしく、
彼らは時貞の腕の中でもがいている猫を遠くから見つめていた。
 時貞はその視線が気になって、抱えていた猫を袖の中に放り込んだ。
「ニャッ」
 猫は声を上げて暴れたが、袖はふわふわとしていてちゃんと立つことができ
ずもがいている。そして、ビリと布が裂ける音がした。
「しまった」
 猫が爪を立てて袖をひっかいたのである。時貞は渋い表情を浮かべると、袖
ごと猫を抱え込んで動けないようにしてしまう。袖の中で猫が鳴いているが気
にしない。
「おう、お前か」
 望次の屋敷に入ると門のすぐ側で彼が弓の手入れをしていた。
「何のようだ?」
「いや、ちょっとな……」
 そう言って時貞は袖の中から子猫を取り出す。望次はそれを見て呆気にとら
れたような表情を浮かべた。
「猫ではないか」
「そうだ。猫だ」
「どうしたのだ?」
「いや、俺の屋敷に迷い込んだようでな」
「ふむ」
 望次は恐る恐る子猫の頭に手を乗せる。少し撫でてやると、くすぐったそう
に猫は目を細めた。
「それで、どうするのだ?」
「飼い主が見つかるまで預かっていてもらいたいのだ」
「俺がか?」
 望次は驚いて、自分を指さした。
「お主のところだと、常に誰かがいるからな。俺のところだとそうはいかん」
「まあ、それはそうだろうが……」
 戸惑う様子を見せつつも、相変わらず彼は子猫の頭を撫でている。
「よろしく頼む」
「……分かった」
 時貞は良かった、と言うと抱えていた猫を望次に渡した。
 時貞が抱えていたときとはうって変わって、望次の腕の中で猫は大人しくし
ている。
「なんだ、猫もお主の方が良さそうに見える」
「そ、そうか?」
 戸惑っている様子の望次を見て、時貞は少し微笑むと体を反転させた。
「帰るのか?」
「うむ。では、また」
「お、おう。また」
 さっさと帰っていく時貞の後ろ姿を眺めて、望次は溜め息をついた。

解説
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 当時猫は非常に珍しいものでした。

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