[KATARIBE 29705] [KM01N]小説『メール送信』

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Date: Wed, 25 Jan 2006 00:06:25 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29705] [KM01N]小説『メール送信』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200601241506.AA00160@hikaru-h8akl379.blue.ocn.ne.jp>
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:32 <Role> rg[hukira]HA06event: 郵便配達のおじさんがメールを送ってく
るのに出くわした ですわ☆

でした。ちょっと微妙……
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小説『メール送信』
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登場人物
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 来間貴彦(くるま・たかひこ):http://kataribe.com/KM/01/C/0011/
  古本屋「孤隠堂」店主。正体は文車妖妃。

本編
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「こんばんわ、小包です」
 古本屋『孤隠堂』の引き戸を開けて入ってきたのは郵便配達の男性だった。
外はかなり冷え込んでいるのか、入ってきた途端、彼が掛けている眼鏡が一気
に白く曇った。
 店の中はエアコンが効いていて暖かい。レジの向こうに座っていた来間貴彦
が読んでいた本から顔を上げて、はいはいと返事をした。そして、彼の眼鏡を
見て苦笑いを浮かべる。
「外は寒いですか」
 郵便配達の男性はぐずりと鼻を鳴らした。
「風がね、きついんですよ」
 それを証明するかのように店の引き戸が風に吹かれてカタカタと震える。彼
はレジまでやってくると、脇に抱えていた段ボール箱をレジ台の上に置いた。
「印鑑をお願いします」
「あー はいはい」
 貴彦は座ったまま体を反転させて、後ろにある棚の一番上の引き出しから印
鑑を取り出した。
「よ……と」
「はい、ありがとうございます」
「いえ、ごくろうさまです」
 男性は貴彦から伝票を受け取って、店を出ていった。
 貴彦はレジ台に置かれた段ボール箱に目をやった。伝票の送り主の名前には
京都にある古本屋の名前。内容の欄には「本」とだけ書かれている。
 ガムテープを剥がし、そっと段ボールを開ける。ふわりと少し乾いたような
古本独特の匂いが鼻をくすぐり、貴彦は少し微笑んだ。
 カタカタ、と再び店の戸が音を立てる。顔を上げて入り口を見ると、先ほど
の郵便配達の男性が店の前で携帯電話をいじっていた。
 外は既に暗く、携帯電話のディスプレイの明かりが男性の顔をぼんやりと照
らしている。貴彦は入り口まで行くと戸を開けた。
「外は寒いでしょう。どうぞ中に入ってくださいよ」
「あ……すいません」
 へこへこと頭を下げて彼は再び店の中に入る。
「いやぁ、娘がね携帯電話を欲しいって言うから買ってやったんですよ。来年
高校生だし」
 彼はカチカチと携帯電話のボタンを押しながら言った。
「へえ、そうなんですか」
「で、買ってやったら、毎日メールくれるんですよ」
「良い娘さんじゃないですか」
 貴彦がそう言うと、彼は照れ笑い半分、苦笑い半分の笑顔を見せた。
「まあ、それは嬉しいんですけどね、如何せん私は携帯電話を持っていても
メールなんてしたこともなかったから返事を打つのが大変ですよ。早く返して
やらないと、帰ったときに文句言われたりしますし」
「ははっ。それは大変だ」
 貴彦が微笑む。
 よし、と言って男性は携帯電話を閉じるとポケットにしまった。
「じゃ、どうもすみませんでした」
 そう言って頭を下げると、男性は店を出ていった。
 配達用のバイクのエンジン音が遠ざかり、やがて聞こえなくなると貴彦は溜
め息をついた。
「メール、か……」
 そう言って少し寂しそうな表情を浮かべる。
 メールにも人の思いが込められていないわけではない。しかし、実際に人の
手によって書かれた手紙に比べるとその思いは何となく無機質なものに感じら
れる。
 やはり手紙はいずれか無くなってしまうのだろうか、と貴彦は思い、もう一
度溜め息をついた。

時系列と舞台
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ある冬のこと。孤隠堂にて。

解説
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時代の波は妖怪に厳しく。

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