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Date: Tue, 24 Jan 2006 01:37:25 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29703] [HA06N]小説『雪の花』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
久しぶりに三十分一本勝負。但し、題を決めていないのでノーカウント。
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小説『雪の花』
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登場人物
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高瀬夕樹（たかせ・ゆうき）：http://kataribe.com/HA/06/C/0581/
高校生で歌よみ。創作部所属。
本編
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朝起きてみると、窓の外がやけに明るい。ひょっとして、と思いながら布団
から出るといつもよりやけに寒く感じられる。
「ああ、やっぱり……」
夕樹は目の前に広がる光景を見て溜め息をついた。
一面の銀世界、というには少し雪が足りないが、それでも道路はほとんど雪
に覆われている。空は薄曇りでまだ雪がちらほらと降っていた。
「うわ、寒っ」
風が吹き付けてきて、慌てて窓を閉めた。
ストーブに火を付けてから、制服に着替える。当然、部屋はそんなにすぐに
は暖まらないが朝食を食べ終わる頃には丁度良い温度になっているだろう。
着替え終わって、居間に行くと既に朝食の用意ができていて、祖父が新聞を
読んでいるところだった。母は台所に立っている。
「おはようございます」
二人に向かって挨拶をして自分の場所に座る。
「今日は早めに出発しなさい」
お茶碗を差し出しながら母が言う。夕樹は頷いて、朝食に取りかかった。
今朝の寒さでお湯が出なくなったらしく、冷たい水で顔を洗って震えながら
部屋に戻ると、起きたときにつけたストーブが部屋を十分に暖めていた。
時計を見ると、いつもだったらまだ出るまでに余裕がある時間。しかし、一
応さっさと出発することにした。
ストーブを消すのが惜しくて、しばらくその前で手をかざして立っていたが
「よし」と気合いを入れてストーブの火を消す。
マフラーをいつもよりきつく巻き、手袋をして鞄を持って準備完了。
玄関で行ってきますといって、玄関のドアを開けた。
外に出て空を見上げると、ふわりふわりと舞い降りてくる雪。ずっと見てい
ると遠近感が狂って頭がくらくらしそうになる。
「雪と言えば……」
夕樹は周りに誰もいないのを確認して、軽く息を吸って脳裏にある和歌を思
い浮かべた。そして、その情景を静かに展開させる。
「冬ながら空より花のちりくるは雲のあなたの春にやあるらむ」
歌を詠じながら、彼は周囲の空気がほのかに暖かくなるのを感じていた。
再び空を見上げれば、降ってくるのはほんの少しだけ桜色に染まった花びら
のような雪。
息を吸えば、微かに感じる花の匂い。
空耳のような鶯の鳴き声。
十数秒ほど経って、ふっと彼を包んでいた空気が元の冬のものに戻った。そ
して、大きく一つ息を吐く。
「春はまだだよなあ……」
呟いて、夕樹は学校へと足を進めていった。
サクリ、サクリと雪を踏む感触が靴を通して伝わってくる。
遠い空の向こうもやはり薄い雲が広がっている。
まだ一月。春は当分の間、見えそうにない。
時系列と舞台
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2006年１月。雪の降った朝。
解説
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たまには異能を使ってみたり。
ちなみに、本編で引用した歌は
「古今和歌集」 巻第六 冬歌330番 清原深養父のものです。
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