[KATARIBE 29702] [OM04N]小説『回想』(修正版)

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Date: Tue, 24 Jan 2006 00:38:43 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29702] [OM04N]小説『回想』(修正版)
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ふきらです。
[KATARIBE 29699] [OM04N]小説『回想』のヘッダが間違っていたので(汗
修正がてら、ちょっと追加しました。

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小説『回想』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):鬼に懐疑的な陰陽師。

新月の夜
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 望次は一人、自宅の縁側に座って酒を飲んでいた。
 時折吹いてくる風が彼の横に置いてある燭台の炎を揺らし、それにつられて
床にできた彼の影も揺れる。
 空を見上げると満天の星空。しかし、月の姿はない。
 屋敷の塀の向こう側から何者かの足音が聞こえてきた。このような月のない
夜に出歩く者はそうそういない。いるとしたら、よほどの酔狂者か、或いは人
でないか。
 足音がちょうど塀を隔てた彼の真正面で止まった。
「ふん。不動明王の真言とは、人の分際で小賢しい」
 足音の主がぼやくように言ったその言葉に望次は声を出さず苦笑を浮かべ
た。
 不動明王の真言とは彼が肌身離さず身につけている符に書かれた文字であ
る。悪鬼を払うその功徳が望次をこのような類のものから守っている。
 この符は彼の友人である時貞が書いたものである。彼自身は鬼というものを
他の人々のように素直に受け入れようとはしないが、彼の書く符は間違いなく
鬼に対して効果を持つ。
 望次は時貞と出会ってしばらく経ったときの会話をふと思い出した。確か、
鬼の仕業だと噂されていた人殺しに対して時貞が人の仕業ではないかと言い出
した時のことであった。


「なあ、時貞。どうしてお前はそう人の仕業だと言い張るのだ」
 望次の問いに、時貞は真剣な表情で彼の顔を見た。
「では聞くが、人を罰する法はあるか?」
「当然ではないか。何を今更……」
「では、鬼を罰する法はあるのか?」
 望次の言葉に重ねるようにして、時貞は更に問う。
「……ないな」
「だからだ」
「何がだ?」
「俺が人の仕業だと言い張る理由だ」
 そして、時貞は口を閉ざす。望次は彼が言わんとしていることを考えてみた
が、まるで思い当たらない。
「どういうことだ?」
「……まあ、気にするな。単にそういう性格だということにしてくれ」
 そう言って彼は照れを隠すように望次から視線をそらした。
 望次はその答えに納得するはずもなかったが、何となく問いつめてもはぐら
かされそうな感じがしたので、これ以上尋ねることはしなかった。


 出会ってから結構長い年月が経ったような気がする。出会ったときは二人と
も、それぞれ陰陽寮、検非違使庁の一番下っ端であったが、今はどちらもそれ
なりの役職に就いている。
 これまで、幾度も互いに助け、助けられを繰り返してきた。そして、これか
らも繰り返していくのだろう。
 望次は何となく感傷的になっている自分に気が付き苦笑いを浮かべた。塀の
向こうの足音は既に聞こえなくなっている。
 彼は杯に残っていた酒を飲み干すと燭台を持って立ち上がり、屋敷の中へと
入っていった。
 やがて燭台の火が消され屋敷は闇に包まれる。空には相変わらず無数の星が
散りばめられている。


時同じくして
------------
 時貞は自分の屋敷で文机に向かっていた。机の上では符が一枚、青白い炎を
上げて燃えている。その下には紙が敷かれているが、その紙には炎は燃え移ら
ない。
 屋敷には彼以外に人はおらず、筆を動かす際に起こる衣擦れの音だけが微か
に聞こえていた。
「む?」
 時貞は顔を上げて庭の方に目をやった。屋敷の前の通りから足音が聞こえて
くる。そして、塀の向こう側がぼんやりと明るくなる。松明でも持っているの
であろう。
 このような月の出ていない夜に珍しい、と思いながら時貞は再び文机に目を
戻した。
 不意に風が吹いて、部屋の中の符が何枚か少しだけ浮いた。
 その時である。
「うわっ」
 塀の向こう側から叫び声が聞こえた。
 どさりと何かが落ちる音がし、次いで、「鬼だ」という声と人が駆けていく
音。
 そして、塀の向こう側が静かになる。
 しばらくしてから、時貞は持っていた筆を置くと溜め息をついた。
 立ち上がって縁側に向かう。先ほどまで明るかった塀の向こう側は既に真っ
暗である。
「また、鬼か」
 そう言って彼はフンと鼻で笑った。
「どうせ風で飛んできた布を見間違えでもしたのだろう。馬鹿馬鹿しい」
 腕組みをして庭を見つめる。部屋に置いている符の炎が作る影が庭にぼんや
りと映る。
「……もっとも、見てもいないのに決めつけるのも問題か」
 苦笑。
 部屋に戻り、文机に肘をついて座る。
 机の上で燃えている符はほとんど炭と化していて、残りはほんのわずかしか
ない。炎も小さくなり、部屋の壁を照らすことすらできないでいる。
 ほとんど真っ暗な部屋の中で、彼はかつて望次に「何故鬼の仕業とされる事
を疑うのか」と尋ねられたことを思い出した。
 その時は微妙にずれたことを言ってごまかしたような気がする。それは全く
的外れというわけではないが真実ではない。
 今更教えるつもりはないが、仮に真実を教えたとしたらあいつは何と言うだ
ろうか、と考えているうちに机の上の炎が消えた。
 完全な闇。
 時貞は仰向けになってゆっくりと目を閉じた。

解説
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 これぐらいの怪異は慣れているような感じの望次。
 そして、相変わらず現実的な思考の時貞。

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