[KATARIBE 29693] [OM04N]小説『立ち話』

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Date: Sat, 21 Jan 2006 20:26:54 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29693] [OM04N]小説『立ち話』
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ふきらです。
おにばな。『赤の姫』での馳男のとった行動を人の側から見た話です。

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小説『立ち話』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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「聞いたか」
「ああ。また出たらしいな」
 時貞と望次は朱雀大路を並んで歩いていた。都はざわめきに包まれていて、
道を行く人は相変わらず多い。
 道ばたで話している人の会話からは「赤ん坊が」や「鬼が」という言葉が聞
こえてくる。昨日起きた赤ん坊の連れ去りの話は一日も経たないうちに人々に
知れ渡っているようであった。
「お主はその場には行ってないのか?」
 時貞が尋ねる。
「ああ。休みだったので屋敷にいた。見てきた連中から話を聞いたのだが、か
なり無惨なやられ方だったらしい」
「ほう。詳しいことを知りたいな」
 時貞は目を細めた。望次は先ほど聞いた話を思い出すようにして語り出し
た。

 昨日、夕方から夜になろうとしている境目の時のことだった。検非違使の詰
所に取り乱した様子で一人の男が飛び込んできた。男の身なりから彼が身分の
低い貴族であることが見て取れる。
 最初、その男の言っていることが要領を得なかったので、水を飲ませて落ち
着かせてから再び話を聞いたところ、どうやら彼の妻が自宅で殺されていると
言っているらしい。
 話を聞いた検非違使たちは急いでその男を連れて彼の家へと向かった。
 家に着いたときには周囲はすっかり暗くなっており、検非違使の一人が近く
の家から松明を一つ借りると、その彼を先頭にして、家の中へ足を踏み入れ
た。
 中はむわっとした嫌な匂いが充満している。一番最後に入ってきた先ほどの
貴族の男はその匂いにやられ、急激な吐き気に襲われたのか、慌てて家の外へ
と転がり出た。
 検非違使たちは眉をひそめながらも辺りを調べていると、土間で倒れている
女性を見つけた。松明を近づけ、その姿が明かりに照らされたとき彼らはわず
かながらもうめき声を上げた。
 女性の顔はつぶされていて、右腕の付け根がほとんどちぎれかかっていた。
 検非違使たちは次に男の家の中を調べた。家具などが荒らされた形跡はな
い。
 彼らは外に出ると、出ていった男に何か無くなっているものがないか尋ね
た。すると、男はハッと顔を上げ、検非違使たちに赤ん坊はいなかったかと聞
いた。家の中を調べたが赤ん坊の姿はなかったと答えると、男はがっくりと膝
をついて項垂れた。
 念のため、検非違使たちが再び家の中に入り隈無く探したがやはり赤ん坊の
姿はなかった。

「やはり、鬼の仕業だろうか」
 望次が呟いた。時貞はその横顔をちらりと盗み見る。
「どうだろうな」
 その言葉に望次は驚き、歩みを止めた。そして、彼の方に体を向ける。
「お前、まさかこれも人の仕業だと言うんじゃないだろうな」
「言い切るつもりはないが、そうかもしれないという考えは捨てきれない」
 そう言う彼の顔を見て、望次はあきれた表情を浮かべた。
「なぜそう思う? あんな無惨に人を殺し、赤ん坊を連れ去っているのだぞ。
赤ん坊を連れ去る目的は生き肝を食らうためではないかと噂も流れているでは
ないか」
「別に生き肝を求めるから鬼だと決めつけるわけにもいかないだろう」
「では何か。人も赤ん坊の生き肝を食らうというのか?」
「医者も坊主も見放すほどの病に効くと言われているがな」
「馬鹿な」
 望次が苦々しげな表情で言う。
「そう信じている奴もいるというだけだ」
「信じられんな……」
「まあ、しかし、ただの人攫いというわけではなさそうだな。赤ん坊なんて手
の掛かるだけで役に立たない」
「むぅ……」
 望次は腕を組んで、複雑な表情を浮かべた。時貞は相変わらず涼しげな表情
を浮かべている。
「ところで、陰陽寮はどうするのだ? こっちはこの件は鬼の仕業だというこ
とでそっちに話を回すと決めたようだが」
「ああ。どうやら上の方が動くらしい」
「上の方というと……安部の一族か」
「うむ。何か知っているようだったな」
「何を知っているのだ?」
「それは知らん。だが、あれが動くということは結構大事だということは分か
る」
「お前はどうする?」
 その質問に時貞は口の端をつり上げた。
「向こうは俺のことを分かっているからな。この件に関して俺がすることは何
もない」
「そうか」
 二人はそれっきり黙ったまま道を歩いていく。
 やがて、時貞は用があるからと言って途中で望次と別れた。手を挙げて挨拶
を交わし、去っていく時貞の後ろ姿をしばらく見てから、望次も自分の屋敷へ
と向かっていった。

解説
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『赤の姫』での馳男の行動をこちら側からの視点で見てみました。

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