[KATARIBE 29692] [HA06N] 小説『新年の光景』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sat, 21 Jan 2006 01:36:48 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29692] [HA06N] 小説『新年の光景』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200601201636.BAA68902@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29692

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29692.html

2006年01月21日:01時36分48秒
Sub:[HA06N]小説『新年の光景』:
From:久志


 久志です。
 戸萌葛海のお話です。ちょろっと本宮家の設定に触れてみたり。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『新年の光景』
==================

登場キャラクター 
---------------- 
 戸萌葛海(ともえ・かつみ)
     :戸萌家当主の孫娘。ボクっ子眼鏡な中学三年生。
 その他親族の人たくさん

年明けて
--------

 一月一日。
 新しい年の幕開け、なのである。
 お布団の外は極寒の世界、今年の冬はものっすごく寒い。
 でも、のんびり寝正月――というわけにはいかないのだ。

「葛海お嬢さま、お起きになられました?」
「はぁーーいっ、起きてます起きてまーすっ」

 お部屋のドアをノックする音に続いてお手伝いのキワさん(ボクが赤ちゃん
の頃からずっとお世話になってる第二のお母さんなのだ)の声が響く。
 ああ、お布団さまお名残惜しい。でも今日はのんびり寝てるわけには行かな
いのだ。振り切るように勢いつけて布団をめくり上げると、枕元に用意してお
いたはんてんを羽織って起き上がる。

「あけましておめでとうございます、葛海お嬢さま」
「おはようっ、キワさん。あけましておめでとー」

 ぺこんと頭を下げて用意してもらったタオルを受け取る。

「奥様はもう下で先に本家へお出かけの支度をされてますから、お嬢さまはお
着物の支度をすませてから大奥様と本家にご一緒にしてくださいね。着付けは
お手伝いいたしますから」
「はぁい」

 ぱたぱたと世話しなく歩いていくキワさんを見送って、もこもこのスリッパ
に両足をひっかけてつめたーいながーい廊下を歩いて洗面所へ向かう。

 年の初め、本家さん家で本家分家一族そろって集まる新年のご挨拶。

 ボクの実家である戸萌家。
 自分で言っちゃうのもナンだけど実は結構名のあるいいとこのお家なのだ。
といっても本家じゃなくて分家らしいんだけど、けどどっちも家系図を手繰る
と江戸時代まで行くという(びっくりだよね)歴史のあるお家なんだって。
 で、古いお家なだけあって、しきたりとか格式とかイベントとか昔からあれ
これうるさいのだ。毎年毎年やれ新年だやれ節句だと、一族の人達(すっごい
たくさん)が集まって宴会だのお祝いだので大騒ぎなんだよね。でもボクとし
てはおじさんおばさん達にお小遣いをいただけたり、とっときの晴れ着とか着
られるから、別段そんなに嫌でもないんだけど。
 でも、お手伝いさんや本家さんの奥様方、分家のうちのお母さんはお食事の
支度やら座敷の準備に借り出されておおわらわなんだって。ボクももちょっと
大きくなったらお手伝い組に借り出されちゃうらしい、古いお家も大変だ。

 顔洗って、歯磨いて、キワさんに軽くお化粧してもらって、肌着と襦袢は自
分で着れるから晴れ着はキワさんに着付けしてもらって、そっからお隣の本宮
本家でご挨拶して……新年早々、のんびりする暇まったくなし。

 着づらいとか苦しいとかいうけど、ボク自身はそんなに着物は嫌いじゃない。
 長襦袢までは自分で着れるから、そっから下で着付けかな。枕元に用意して
おいた和装下着、普通のよせあげブラとは違う(もっとも寄せるとこないんだ
けどさ、ふん)胸をペタンコにする和服用ブラジャーと、真っ白な足袋をする
すると足に履いて、下は裾よけ(ノーパンじゃないぞ、残念)に上に肌襦袢を
羽織って、ひんやりどころじゃないくらい冷たいんだけど、やっぱり衣装を調
えるとやっぱり気持ちもすーっと新しくなる、やっぱり女だよね。
 ほんのりピンク色の長襦袢に袖を通して伊達締め締めて。よし、ばっちり。
これも日頃のお稽古の賜物なのだ。


「葛海お嬢さま、苦しくありませんか?」
「はぁい、大丈夫〜」
 流石に晴れ着も自分で……というわけにはいかないんで、一階の急造着付け
部屋でキワさんにあれこれ調整してもらいつつ、お人形さん状態。
「本当、着物がお似合いになりますね、お嬢さま」
 姿見に映ったボクを見てにこにこと笑うキワさんに悪気はまったくないんだ
けど、正直ちょっと微妙かも。着物が映える体型といえば聞こえはいいけど、
詰まるとこスットントンの寸胴って意味なんだよね、実際。いーんだけどさ。

 新年、もうすぐ高校。
 願わくはもっと大人っぽくなれますようにっ!


ご挨拶
------

 というわけで本宮本家。
 分家と本家っていっても、実は目と鼻の先にお屋敷があったりするんだよね。
おっきな門の前にはボクの背の高さほどもある門松がどどんと二つ飾ってある。

「あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」

 門前にはもう親族さん達が何人も本宮本家に集まってきている。でもお屋敷
の門くぐってからが長かったりするんだ、これがまた。

 玄関を通って長い長い廊下を歩いた先、障子を奇麗に取り払った大広間。
 ほんっとにだだっ広いというか、奥までばばーっと小卓と座布団がきっちり
と並べられて本宮本家方の席の両脇に戸萌分家方、青梅分方の席と奇麗に区分
けされてる。座布団につっかけないように裾を捌きながら戸萌方の席へとひょ
こひょこと移動する。上座には一番の権力者さんであるおばあちゃま、その隣
から長男にあたるお父さんお母さん、お兄ちゃんとボク。続いて伯母さま夫妻
とその娘さん夫婦と夏に生まれた赤ちゃん(衝撃の事実、ボクは実は叔母さん
なのだ)

 ずらっと並んだ席がきっちり埋まったあたりで、おばあちゃまがすっくと立
ち上がった。賑やかに盛り上がってた親族さん達がしーんと静まり返っておば
あちゃまに集中する。

「みなさん、あけましておめでとうございます」

 マイクも無いのにすとーんと響くおばあちゃまの声。びしっと背筋も正しく
神妙な顔になる親族さんたちをじろりと見回す姿はなんか後光が差してるとい
うか、実質本家分家でも一番の権力者さんなんだーってのがよくわかる。思わ
ずボクも背筋のばしちゃうよ。

「これから新しい一年を迎えるにあたり……」

 でも、こー、なんというか。

「心を新たにして……」

 おばあちゃま、お話長い……

「本家分家共々、ますますの発展を……」

 普段のお稽古で正座には慣れてるんだけど、がっちり晴れ着で長時間正座は
ちょっと結構辛いぞ。こっそりと他の親族さん達にぐるっと視線を巡らせると
ボクと同じようなうんざり顔が結構居る。

 本宮家親族さん達。
 大きく分けると本家さんである本宮、分家であるボクの実家の戸萌、そして
ちょっぴり新しく分かれたという青梅の三つ。なんというか、昔じみてるけど
それぞれに格式とかいうものがあるみたい。当然一番高いのが本家さんの本宮、
ついで一番古い分家で本家とも血縁関係の多い戸萌、両家から見ると一段下に
なるのが青梅。なんか堅苦しい話だよね、古典の世界みたいだよ。
 なんでも昔から本家がらみのお家騒動や跡目争いとかが色々あったとかで、
当主とか跡取りが誰とかいうのは結構重大なことらしい。今年のおばあちゃま
のご挨拶が特に長いのは本宮本家さんに青梅の末っ子くんが跡取りとして本家
に養子入りした事に関しての長い長い説明があるせいなのだ。

 ボクが生まれるずっと前、本当は本家さんの正当な跡取りの人はちゃんとい
たのだ。視線を巡らせた先、本家方の末席に背筋も正しくきちんと正座してい
る尚久おじさま、本家さんの長男さんでボクのお父さんの従兄に当たる人。
 ヒトコトで言うと英国紳士みたいな、いかにもジェントルマンといった雰囲
気の素敵なおじさま。おじさんくさくないというか、お父さんみたいにお腹出
てないし、おでこ涼しくないし、髪の毛油っぽくないし。スーツ姿もぱりっと
似合ってて、くたびれた雰囲気全然ないし……別にお父さんが嫌いなわけじゃ
ないけどね。

 で、尚久おじさま。本来なら本家長男として本宮本家を継ぐはずだったのだ。
 でもこれが、おじさまが大学生の頃に出会った奥さん(すっごい奇麗な人な
んだよ)にひと目で恋に落ちて周囲一同の反対を押し切って、手に手をとって
駆け落ちしたというのだ、すっごいロマンチックじゃありませんか。
 なーんて、当時の関係者じゃないからボクも気楽なこと言えるんだけどさ。
やっぱりそういうの憧れちゃうよね。

 ボクも春には高校生、素敵な恋はできるかな?


時系列 
------ 
 2006年01月01日
解説 
----
 本家分家のお正月の集まりに出席する葛海。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 もっと書きたかったけど力つきた。
継続して書かないと衰えるデスヨ……



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29692.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage