[KATARIBE 29688] [HA06N] 『解る、の壁』

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Date: Thu, 19 Jan 2006 01:23:00 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29688] [HA06N] 『解る、の壁』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年01月19日:01時23分00秒
Sub:[HA06N] 『解る、の壁』:
From:ごんべ


 ごんべです。

 一気に書いてしまったがタイトルも紅の口調や態度も一考の余地はあるかも。
 類型的かも知れない。

 とりあえず暫定で流します。


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小説『解る、の壁』
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本編
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 時は某日昼休み、処は吹利市合同庁舎の一角。

「あたしを拾ってくださった方に言うのも、何ですけど」

 小学生にしか見えない少女が、既に社会人となって中堅にさしかかるであろ
う青年に詰め寄っている姿は、傍から見て誤解を与えないとも限らない図では
ある。

「あたし、神楽森さん達のこと、すっっごい胡散臭いと思ってますからっ」

 もっとも、青年の方は柳に風と流す風情でやんわり平然と受け止めている。
 どうやら、少女の機嫌を損ねたらしい。

「胡散臭いというのは、相手のことが解らなかったり、解っても理解できなかっ
たり、危険なものを感じたり、そういう時に使う言葉ですよ?」
「……ですから、何?」
「時任さんは私たちのことをよく解っているじゃないですか」
「ひとが牛丼を頼むのを本人の前で予告する人がいたりすることの、どこが
胡散臭くないのっ!?」

 原因はそこか。

「失礼ですが時任さんは、どうもオカルト方面のことに偏見を持っていらっしゃ
るようですが」
「目の当たりにすれば、普通の反応でしょっ?」
「炎が理由もなく消えたり点いたりすることも、普通の人から見ればオカルト
ですよ?」
「……う」
「原理は問いませんし、判りません。時任さんの力も、時任さん自身が考えて
おられるオカルトに由来するかも知れない」
「……ぐ」

 どきりとして思わず守勢に回ってしまった紅をあえて深追いせず、神楽森は
紅の目を見つめて落ち着いた声で言葉を継ぐ。……どうやら言葉の勢いと弁舌
の巧みさとは、比例しないものらしい。

「世界は広く、ひとつながりで、多重に重なっています。世界を構成する理屈
は、一つではないんですよ。それらを含めて、皆等しく世界の一部なんです。
そのことを理解するために、あなたは一番近いところにいらっしゃるじゃあり
ませんか。きっと、そのうち理解できると思いますよ」

 人の良い微笑みを浮かべて紅の肩をぽんぽんと叩くと、きびすを返して去っ
ていく神楽森。慌てて追いかけて反駁しようとするが、口がぱくぱく開くばか
りでうまい言葉が出ない。

「……うーっ……」

 追い打ちをかけるように、キーンコーンカーンコーン、と、午後の始業のチャ
イムが鳴る。

「うがー、昼休み全部食っちゃったじゃないのっ!」

 ぱたぱたと慌てて自分の持ち場……神楽森の部署へと戻っていく紅。

 すっかり神楽森の掌の上にいることを、知らぬは本人ばかりなり。


(終)


解説
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 自分のことは棚に上げて、オカルト方面にはあまり免疫の無い紅の、日常の
ひとこま。

 紅の口調や感情表現のテストを兼ねています。


時系列
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 2006年1月中旬までのどこか。もしかしたら2005年の後半とかかも知れない。


登場人物
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時任 紅 (ときとう・こう)
   :吹利市の嘱託で、技能職に分類される少女。実は妙齢、19歳の女性。
   :「技能」を使う仕事の無い時は、神楽森の部署などでアルバイトと
   :して手伝いをしている。熱を操る異能者。
   : http://kataribe.com/HA/06/C/0604/
神楽森 (かぐらもり)
   :紅を含む何人かの異能系技能職を現場監督する立場の吹利市職員。
   :言わば紅の上司に当たるわけだが、そういう態度をちっとも取らない
   :というのは実は破格の扱いでは無かろうか。
   :もっとも、彼自身どこか得体が知れなくはある。


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ごんべ
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