[KATARIBE 29686] [HA06N] 小説『安眠』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 18 Jan 2006 00:44:51 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29686] [HA06N] 小説『安眠』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200601171544.AAA28793@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29686

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29686.html

2006年01月18日:00時44分50秒
Sub:[HA06N]小説『安眠』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
酔っ払いな勢いで書いてます。
ので、突っ込み禁止(えうえう)
*********************************************
小説『安眠』
===========
登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 

本文
----

 二本の腕を組み合わせて作られた空間の中で丸くなって眠る。
 世界の中に居る限り、ぶつからずには居られない不安や心配、そういったも
の全てから、完全に護られて。
 いいのかな、と、時折思う。こんな風に甘えていいのかな、邪魔にならない
かな、って。
 ただ、それ言っても、『いいよ』の一言で済ませる人だから。
 時折……ほんとに思う。このまんま甘えてたら自分はどこまで甘えっぱなし
になるか判らない。どうやったら……せめてこの人の迷惑にならないか。
 ……小人閑居して……役に立たないことを考えているのかもしれないけれど。

             **

 ふっと浮き上がるように目がさめた。
「…………いや、大丈夫」
 静かな声。
 なかなか開かない目をこすってあけると、相羽さんが携帯で話していた。
「わかった」
 目が合うと、大丈夫、というように少し笑う。そのまま手を伸ばして頭を撫
でる。
「明日は無理でしょ。繋ぎを取るまでは泳がしたほうがいい」
 あ、お仕事の電話……ってことは、聞かないほうがいいに決まってる。慌て
て起き上がろうとしたのを、頭を撫でていた手が止める。
「そういうこと……じゃ」
 そのままひょい、と、携帯を切って。
「起こした?」
「……お仕事?」
「いや、連絡」
 一瞬顔に出たのだと思う。相羽さんは携帯を枕元に置くと、空いた手を伸ば
した。頬をそっと撫でる、手。
「大丈夫。明日は休みだから」

 時折……壊れ物になったような気がする。というか相羽さんて絶対、あたし
のことを『自分より弱い、壊れ易い』と思ってる気がする(いや、実際、相羽
さんよりか、あちこち弱いだろうって言われればその通りなんだけど)。
 でも、一応これで一人暮らしは長い。一人暮らしの条件の一つに『とりあえ
ず健康が基本』ってのがあると思う、ってのは、これはあたしの意見だけど、
とりあえずこれだけ長く無事に一人暮らししてるんだから。

「……相羽さん」
「何?」
「妙な、質問なんだけど」
 不思議そうにこちらを見る。その視線を捉えて。
「相羽さん……あたしのこと、壊れ物の宝物みたいに思ってない?」
 
 数瞬の間。
 そして、相羽さんはくつくつ笑い出した。

「壊れ物とはおもってないけど」
 背中に廻って、そのまま引き寄せるように抱き締める手。こつん、と、額を
軽く合わせて。
「大切なのは、確かだよ」

 眼鏡がないと、あたしは自分の顔も判らない。鏡に映った『眼鏡の無い顔』
の全体を見えるほどに、遠くから見れないのだ。
 その、あたしの目で判るくらいに、近距離で。

「…………でも」
 何と言えばいいのか、少し迷う。
「でも多分、相羽さんが思ってるより、あたしは頑丈だし、壊れないし、叩い
ても平気な奴だよ?」
「そんなの分ってるよ」
 間髪居れずに返事があった。
「だったら……あたしだって寝なくてもそこそこもつし、心配しないでも良い
と思うんだけど」
「わかってるけどさ、やっぱり大事だから」
 ……やっぱり……過剰なくらい、過保護にしてるってことじゃないか。

「お前がさ」
 不服そうなのが伝わったのだろう。相羽さんがこちらを見る。
「俺が頑丈だから心配するなっていって、心配しなくなる?」
 ……それを昨日の今日で言いますかあなたはっ!
「怪我して帰ってきてるくせにっ」
 真っ白な包帯で巻かれた手。頬を撫でていたその手を捕まえる。
 よく考えたら、どんな怪我をしてるか……あたしは見てもいないのだ。
「ああ、まあね……」
 相羽さんは苦笑する。
「そんでも、なんもないだろうってわかってても、やっぱ心配」
「……なんもないだろうって、判ってない分、あたしも心配です」

 包帯できっちりと巻かれた手。額の傷。
 頬の絆創膏だけは、既に外れている。擦り傷くらいで、まあ、そこまで酷い
ものではないことは、流石にわかる。
 だけど。

 
 ふ、と。
 包帯を巻いた手が、こちらの手をすり抜けた。
 そのまま背中にまわった手が、しっかりと抱き寄せる。

 どれだけの我侭も、どれだけの無茶も、全く構わないかのように。


 甘えることは罪悪であると思っていた。
 人に頼ることは極力避けようと思っていた。
 無論、頼ることは必要だし、あたしには不可欠だったけど。でも。
 必要以上の借りは作るまいと思ってた。

 ……どうして、かな。
 どうしてこんなに、この人に頼るのが普通になったのかな。
 どうして。

「……相羽さん」
 ご飯作らないと、とか、お風呂の用意がしてない、とか、思った。
 でも、それを圧倒するように……とろとろと、眠かった。
 だから。
「ん?」
「甘えさせてくれて、ありがとう」
「……ああ」
 手を伸ばす。出来る限り伸ばして……抱き締めた。
「……大好き」

 
 相羽さんはどこにも行かない。
 あたしから離れてどこにも行かない。
 二本の腕が交差したその隙間の空間で、あたしはすっかりとくつろいでいる。
 そして……

 小さな笑い声。そして額を撫でるような、感覚。


 明日、休みだよね、と、訊いたような記憶がある。
 大丈夫、ちゃんと休みだよ、と、答えが戻ったような記憶もある。


 とんとん、と。
 くっつけた頭から、伝わる、心音。

 世界の中で、一番安心なところで。
 あたしはその夜、ぐっすりと眠った。


時系列
------
 2006年1月5日深夜

解説
----
 先ず、絵ありき、のこの話。
 久志さんの『先輩と真帆』のイラスト見てて……何となく、の話です。
************************************************************

 てなもんで。
 あ、ちなみに、この話の先輩ばーじょんを、ひさしゃんが書くことになってまふ。
 (と、言質取ったり<をひ)
 であであ。
 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29686.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage