[KATARIBE 29679] [HA06N] 小説『放たれる黒い羽 side. 千香』(前編)

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Date: Sun, 15 Jan 2006 22:42:32 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29679] [HA06N] 小説『放たれる黒い羽 side. 千香』(前編)
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MOTOIです。
「放たれる黒い羽」を千香視点から。
少々長くなりそうなので、前後半に分けて書いてみます。

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小説『放たれる黒い羽 side. 千香』(前編)
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登場人物
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 黒影千香(くろかげ・ちか)
  :知佳の心の闇から生まれた知佳の分身。高飛車。
 白神知佳(しらかみ・ちか)
  :千香の本体。優しい性格。気弱。


眠る黒
------
 私は……チカ。
 知佳から生まれた。だけど、知佳とは違う。

 知佳は、気が弱すぎる。
 あんなにすごい力を持っているのに。あんな大きな体を持っているのに。
 なのに、子供たちに虐められるなんて、有り得ない。

 私は、知佳とは違う。
 この体は、虐められるためのものじゃない。
 私の体は、あんな子供たちよりもはるかに優れているのだから。

 でも、私は、起きることができない。
 私は、知佳の心の中に眠ったまま。
 知佳の心の優しさ、そして純真さが、私を強く押さえつけている。
 私は、外には出られない。

 外に出ることができれば、あんな子供たちに制裁を加えてやれるのに。
 でも、私は、起きることができない。

 私は……チカ。
 今はただ、知佳の中で眠るだけ。


夢の中
------
 ある日のこと。
 私は、自分の力が大きく、強くなるのを感じた。

 今まで私を押さえつけていたものが、まったく苦にならない。
 これなら、外に出られる。
 もう、知佳の心の中で眠る必要はなかった。

 私を押さえつけていた知佳の白い力を跳ね除け、外へ出る。
 そこは、知佳の夢の中。
 私は、真っ黒な闇となって、知佳の体を覆いつくす。

『あなたが知佳ね』
「だ、だれ?」
『背が高くて、胸が大きい……知佳ちゃん』
「お、大きくなりたくて大きくなったんじゃないもんっ」
『どうしてそんなに嫌がるの? みんな羨ましがってるのに』
「だ、だって……みんなにからかわれるし」

 まったく、どこまで弱気なのだろう。
 情けないことこの上ない。

『からかわれる? ふっ、あんなガキどもの言うこといちいち気にしてどうす
るのよ。みんな本当は羨ましくてしょうがないに決まってるわ』
「そ、そんなことないよぅ」
『どうしてもからかわれるのが嫌っていうなら……あなたのその力で黙らせれ
ばいいじゃない』
「あ、あう?」
『殴るなり投げ飛ばすなり……その怪力があれば思いのままでしょ?』
「だ、だめーーーーっ!! おともだちにそんなことしちゃだめなのっ」
『あなたができないって言うなら、私が代わりにやってあげましょうか?』
「え? え?」

 私は、知佳とは違う。
 知佳にはできなくても、私ならば簡単にできる。

「ええっ!? ……わ、わたしとおんなじ顔になった!?」
 私は、知佳と同じ姿になって見せた。
 知佳は、どうやらパニックになっているようだった。

「私はチカ。あなたと同じ、ね」
「あ、あううぅ!?」
「理解できないって感じね。まぁ、そんなことはどうでもいいわ。とにかく、
私は自分の体を手に入れたのよ」
「あう……」

 そう、私は、知佳の体を手に入れたのだ。
 これからは、私が知佳になる。

「これから、あなたをからかうような連中を懲らしめにいくわ。一度懲らしめ
れば、あなたの力に逆らうような人は存在しないわよ」
「こ、こらしめる?」
「そう。まずは挨拶代わりに軽く一発。それでも懲りないようなら、腕や足の
一本くらい折ってあげようかしら」
「だ、だ、だ、だめだめだめーっ、そんなことしちゃだめなのーっ」

 駄目なんて言ったって、もう遅いわ。
 この体は、もう私のもの。
 夢から覚めたら、私が知佳になる。あなたは私の心の中で眠り続けるのよ。

 そのはずだった。

 がしっ!!

 え?
 ちょっと、どういうことなの?
 あの弱気な知佳が、私に対して……

 これは……まったく想定していなかった。


夢から覚めて
------------
「う……ここは?」
 また、知佳の心の中に閉じ込められてしまったのか?

 いや……違う。
 音が聞こえる。寒さを感じる。モノが見える。

 「ここは……間違いなく、外の世界だ」
 何故だろう、知佳の心を乗っ取るのは失敗したはずなのに。

 ふと横を見ると、ベッドの上で、知佳がうなされていた。
 ……え? 知佳?
 私は、知佳の心の中の闇のはずなのに……?

 自分の体を見て、驚いた。
 高い背、大きな胸。それは、知佳の体そのものだ。
 しかし、知佳はベッドの上。

「知佳から……分離しちゃったのかしら?」
 原因は、まったくわからない。自分にも。
 しかし……予期せぬ出来事とはいえ、肉体を手に入れたことは確かのようだ。

「不幸中の幸いといったところかしら……ふふ、ふふふ」
 予定は狂ったけど、とにかく自分の体が手に入ったんだわ。
 私は、寒さをしのぐために、知佳の適当な服を着た。

「知佳。悪いけど、この服はいただいていくわ」
 ……悪い?
 何が悪いと言うのだろう。私は知佳の一部、悪いことなど何も……

 しかし、なぜか引っかかってしまう。
 何なのだろう、この微妙に引っかかる感情は。
 知佳の心の中で、こんな感情を覚えることはなかったのに。

 ……これ以上知佳の横にいると、おかしくなりそうだ。
 そう感じた私は、窓を開け、夜の空へと飛び立った。


時系列と舞台
------------
2006年1月上旬、冬休み終了から数日後の知佳の家。


解説
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知佳の心の中に封じ込まれていた闇が、知佳の体を乗っ取ろうとする。
しかし、そこで予期せぬ出来事が……

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