[KATARIBE 29676] [HA06N] 小説『年明け早々』

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Date: Sun, 15 Jan 2006 01:10:21 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29676] [HA06N] 小説『年明け早々』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年01月15日:01時10分20秒
Sub:[HA06N]小説『年明け早々』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
さっきの話は、あまりに慌てて送ったので、ヘッダミスをしてしまいました。
あれも、06です。
……で、あの、裏というかなんというか。

*********************************************
小説『年明け早々』
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登場人物
--------
  丹下朔良(たんげ・さくら)
     :吹利県警刑事課元ベテラン刑事、現在指導員。犬にたとえるとマスチフ。
  形埜千尋(かたの・ちひろ)
   :吹利県警総務課職員。県警内の情報の元締め
  相羽尚吾(あいば・しょうご)
   :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
  本宮史久(もとみや・ふみひさ)
   :吹利県警刑事部巡査。屈強なのほほんお兄さん
  石垣冬樹(いしがき・ふゆき)
     :刑事部巡査部長、サンズイ石垣。犬にたとえるとミニチュアシュナウザー。
  卜部奈々(うらべ・なな)
   :本宮史久の妻で吹利県警刑事課課長補佐。真っ直ぐしっかり。

本文
----

 年が暮れようが明けようが、世にに盗人の種は尽きまじ……てなもので。
 刑事課は、年頭より……というより年末からずっと続けてフル回転である。
 故に、疲労が溜まっている、というのはわかる。
 わかる、のだが。

「…………うわ」
 昼休みに入ってすぐの時刻。
 午後一番に片付けたい書類を持って刑事課の扉を開けて、数瞬。
 流石の千尋が小さく呟いた。

 原因は……とりあえず原因以外には明らかである(原因に明らかかどうかは
かなり微妙である)。

 先日、彼を含む3人が丸々一日の張り込みの末、犯人を捕まえたのである。
その際、この彼こと原因なる御仁が怪我をしたのだが。
「えーと……石垣さん、これ、ちょっと書き直してもらえますか?」
「はい?」
「ええと、この欄」
 一応目の前に弁当の包みを置いたものの、どこか怯えた目で『原因』を見て
いる石垣に、書類を差し出す。
「ここで書き直して……」
「ええ、お願いします」

 はい、と、頷いて石垣が紙を手に取る。書き直すのを待つ間に、千尋はその
『原因』をこっそりと眺めた。

 怪我の話は聞いている。左手にきっちりと包帯、額にも包帯、頬には大きめ
の絆創膏。ただ、この程度の怪我ならば……まあ、しょっちゅうとは言わない
が、そこまで珍しいものでもない。
 の、だが。

(一体何事)

 昨日の今日で、それも苦手な(得意な奴は居ないという意見もある)報告書
書きである。疲れているのは、まあ多少割り引いたとしても、それにしても尋
常の顔色ではない。それに加えて。

(目は虚ろだし、生気はないし……何か半分魂抜けてる顔して)

 黙って報告書を書いている相手から、千尋は視線を移す。心配そうに見てい
る後輩と、やはり心配そうな古株。

(……ちょっとこれは)

 声をかける隙が無い。というか隙だらけなのだが、声をかけたらそのままく
てーんと倒れそうというかなんというか。

 と。

「……出来ました」
 その、原因がぬうっと立ち上がった。漫画で言うなら周囲に細かい縦線を一
面に配置した状態でずずっと足を引きずるように上司の前に移動する。

「はい」

 大きな目に、どこか不釣合いなほどのきっぱりとした色を湛えた小柄な女性
は、報告書を受け取り、目を通す。そのままやはりずずっと席に戻りかけた相
手に。

「今日は、これでお帰りなさい。」

 え、と、顔を上げた相手に畳み掛けるように。

「命令です、今日は自宅で休養しなさい。体を休めて体調を整えるのも仕事で
す」
「……しかし」
「明日も休暇をとってかまいません、貴方が体を壊すことで刑事課の戦力が大
きく落ちることをしっかり理解しなさい」

 たんたん、と、真っ向から打ち込むような言葉。
 刑事課に居る全員が、思わず息を呑んで顛末を見守ったものだが。

「……はい」
 こっくりと……この御仁にしては異常としか言いようが無いほど素直に頷い
て、そのまま席に戻る。
 ごそごそ、と、机の上を整理して、鞄を手に取り……少し困った顔になった。

「先輩、休憩室行きませんか」
 す、と、視線を奈々から相羽に移して、こういう場合最も的確な気働きを行
う一名が立ち上がる。うん、と、頷いて弁当箱を持ってゆく相羽の後ろから、
やはり弁当箱を持って本宮が出てゆく。
 途端に刑事課一杯に、安堵の溜息が広がった。
 
「……どうしたんですか一体」
「昨日から少々調子は悪そうだったんですが、今朝来たらすっかり……」
「扉を開けたときから、暗雲背負っとったの」
「……上手いこと言いますね」

 やれやれ、と、肩をすくめながら千尋は奈々を見る。奈々のほうも困った顔
で千尋を見やった。

「昨日……捕まえる時に、どじったかなんかしたんですかね」
「ちょっと、そういうことがあったらしいんですけど……でも」
「あそこまでは落ち込まんじゃろ」
「って、ことは」

 何となく。
 残った四人、それぞれが目を合わせて、はあ、と、またもや溜息をついた。

「原因は……」
「奥さんですね」
「間違いなく」
「他にありませんよ」

 打ち合わせをしたように、一拍の遅滞もなく台詞が廻り……そして奈々が最
後にぼそっと一言。

「……判り易過ぎです、相羽さん」

 がっくし、と、全員が肩を落とす。
 
「早く復帰してくれませんかねえ」
「部屋全体、陰気になるからの」
「奥さんも……早いとこ何とかして欲しいもんだわ」

 やれやれ、と、肩をすくめながら千尋は石垣の書き直した書類を受け取った。

 
時系列
------
 2006年1月5日、昼頃。『溶根雪』の部分と重なってます。

解説
----
 真帆の視点で判らない先輩の状態を、千尋の視点にて。
 なんつか先輩……判り易すぎです。
******************************************
 てなもんで。
 ……ほんとこう……何て単純な御夫婦(えう)

 であであ。
 


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