[KATARIBE 29664] [HA06N] 小説『条件付き無期限プレゼント』

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Date: Tue, 10 Jan 2006 00:40:15 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29664] [HA06N] 小説『条件付き無期限プレゼント』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年01月10日:00時40分15秒
Sub:[HA06N]小説『条件付き無期限プレゼント』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
台風の顛末を書く前に、これは仕上げておきたかったのだ。
……ので、とりあえず。
また去年に戻っておりますが。
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小説『条件付き無期限プレゼント』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

本文
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 お昼から夜。
 二人揃って、無茶苦茶な時間に寝て、起きて。

 ……で、起きたら何だか、相羽さんがぶすっとしてる。


「ご飯、何にする?」
「何でも」

 何でもったって……ええと。

「魚がいい?それとも鶏とかでいい?」
「……鶏でいいんじゃない?」

 ええとええと。
 慌てて買い物に行って、ざっと買い物して帰る。
 相羽さんは新聞の前に座り込んでいる。

 ご飯の最中も、どうも仏頂面で。
 何だか、ご飯もあんまり進まないようで。

「……ケーキ食べる?」
「食べる」

 りんりん、と、小さな鈴のついた飾りごと、ベタ達が相羽さんの周りを飛び
まわってる。大得意な顔の三匹を、相羽さんは指先でそっとつついた。

「紅茶にする、それとも緑茶にしようか?」
「……緑茶」

 濃い目に淹れて、ケーキと一緒に隣に持ってゆく。
 こくん、と、一つ頷いただけで、相羽さんはこちらを向かない。
 ……何だろう、ほんとに。

「……相羽さん」
「何?」
「なんか、悪いこと……した?」

 いや、大概、こういうことは訊くものじゃないって思ってる。それは判る。
 でも今回……どうもこの人の不機嫌の理由が判らない。
 有給の途中で呼び出されて、くたくたに疲れて帰ってきて、だから不機嫌。
それなら……それなら、まだいいんだけど。

 つんつん、と、相羽さんはベタ達のリボンをつついた。
 ベタ達は大得意でリボンと鰭を広げている。

「…………プレゼント?」
「え?……あ、うん」

 他に思いつかなかったからなんだけど……。

「鈴、うるさかった?」
「いや、それはいいけど」

 つん、と、青いベタのリボンと星を指の先で跳ね上げて。

「……プレゼント、無いじゃん」

 一瞬、意味が飲み込めなかった。

「ええっと?」
「クリスマスプレゼント」
 ぐい、と、相羽さんが身体をひねってこちらを向いた。
 ぶすっと……まるで小さな子供が拗ねてるような顔で。
「……あー」

 約束。

(プレゼントのかわりに)
(24日の日に、相羽さんが有給取れて、ちゃんと翌日の朝まで休みだったら)

 あ。
 
 笑いそうになって、思わず口を手で抑える。笑っちゃいかん、笑っちゃ。
 ……でも。

 相羽さんはむすっとしてこちらを見てる。
 ほんとに……約束してたプレゼントを、もらえなくなった子供みたいな顔で。
 だから。
 だから、思わず。

「……プレゼント、こちらはあげたのにな」
「……え?」
 一瞬。
 相羽さんはきょとんとしたままこちらを見ていた。
 でもその次の瞬間。
「それって」
 がば、と、それこそ横に置いてあるケーキと湯飲みをふっ飛ばしかねない勢
いで。
「いつ?!」

 ものすごい、真顔で。身を乗り出すようにして。
 言葉と一緒にぺしん、と、テーブルを叩く。それが……いや、怒るってるわ
けじゃないってのが判って、ついでに……なんだか笑えて。

「つか、それいつ?」
 って、笑ってたら、ずいっと相羽さんの顔が目の前に出てきた。
 えっと……ええとええと。

「……クリスマスプレゼントって、普通何時渡す?」
「…………」
 思考。そして何やら思いあたった顔。
「ちゃんと、クリスマスに、渡したよ」
 だから、笑ってそう言った、ら。
 …………。
 わ、笑っちゃいけないんだけど。
 な、なんでそこまでガキ大将が悔しがるみたいな顔をするかなあっ。

「……そういうの、アリ?」

 大笑いしてる頭の上で、むっとした声。
 ああ、ダメだ。何を言われても笑ってしまう。

「だ……だって、起きないんだもの」

 疲れてたんだろうと思う。熟睡していたんだろうと思う。だけどほんとに微
動だにしなかったんだもの。

「……だってね、相羽さん?」
「……なに?」
 いや、こればっかりは笑って言っては駄目だ。
 必死で笑いを収めて、真面目な顔で、憮然とした相羽さんに向き合って。
「死にかけのお姫様も、100年眠る根性入ったお姫様も、普通キスしたら起
きるよ?」
 何とか真面目な顔で言ったんだけど、直後……相羽さんの顔を見てしまって、
爆笑した。
 ……いいんかいな、自分。

「……それにね」
 必死で笑いを収めて、言葉を続ける。
「クリスマスプレゼントって、寝てる間に貰うものだよね?」
「…………」
 ってか。
 さっきから相羽さんの表情が可笑しくって。
 いっつも平然、時に無表情かってくらい表情の変わらない人が、今に限って
何か釈然としないような、それでいて何か言いたいような、けど言葉が無いよ
うな、なんともいえない顔になってて。

「プレゼントなしのほーがよかった?」
 首を傾げると、仏頂面の相羽さんが、ようやく口を開いた。
「……そら、もらったほうがいいよ」
 一応、肯定はするものの……えらい恨みがましい目で。
「……でもさあ、寝てる間って」
「寝てる間は駄目って、相羽さん言ってないよ?」
「そりゃないよ……」
 ああ、さっきから見ててようやく判った。この人、まるでしてやられたガキ
大将みたいな顔してるんだ、今。

「それに……条件、クリアしてなかったし」
 ぐ、と、相羽さんが黙った。

 皆が休む日に休めない。
 そら、刑事さんだから。そういう日にこそ忙しいのかもしれない。でも。
 有給を取った日くらい最後まで休めていいと思うし、休めないのが普通って
いうのが、何よりも……もどかしい。

「……えっとね」
 だから。
「もし、相羽さんが、これから先、理由のある日に有給を取って、その日一日、
朝から翌日の朝まできっちり休めるなら」
 その時は、と。
 その先は言わない。
 相羽さんは黙ってこちらを見ている。

「…………怒った?」
 その沈黙があまりに長かったから。
 少しだけ不安になって……つい。
「いや」
 すいっと、手が伸びる。つくつく、と、指が額をつついてくる。
「絶対に約束ってできないのが、ね」
 それは……そうなのだけれど。
「本音いえばさ、俺も休みたいよ」
「……うん」
 そう言われると……辛い。
「だから、俺ばかりが出張らなくても言いように下を育てるし、指導で頑張っ
てるマメシバンのお手伝いもするわけだ」
「…………うん」
 そして情報網を使えなくしたのは、自分かなって思うと。
「だからさあ」
 下を向いてたら、またつくつく、と、額をつつかれた。
「へたれないように支えてよ」

 どうしたらいいのかわからない。どうやって支えられるのか判らない。
 だから……他にどうしようもなくて。
 手を伸ばして、抱き締めた。
 せめてこの人の近くに居られるように。

「…………相羽さん」
「ん?」
「休みたいのは、ほんとう?」
「ホントだよ」
 何度も何度も、頭を撫でる手。
「のんびりと、さ。お前と過ごしたい」
 それが本当なのだろうか。
 休んで欲しいって言って、この人の負担じゃないんだろうか。
「でも、相羽さん、仕事好きだから……休んで欲しいっての、お節介かなって
思ってた」
 休んで欲しいって言うこと自体、この人を縛っているのかな、って。
 小さな溜息が聞こえた。
「仕事は……好き嫌いっていう話じゃないんだよ」
 ぽんぽん、と、軽く叩くように撫でる手。
「……でもなんていうかね、やらなきゃなんないと思う」
「うん」
 それは、わかる。
「やれることやらんで後悔すんのは嫌なんでね」
「……うん」
 そのことも、わかる。
「でも、そのためにさあ。お前のこと犠牲にしたかないし、俺だって過労死す
る気もない」
「うん」
 過労死なんて、されたくない。絶対に嫌だ。
「……前はさ、そういうブレーキなかったから」

 ブレーキになっていいんだろうか。
 この人を、時に……意図する以上に留めてしまったとしても。

「相……尚吾さん」
 言い直す。この人のブレーキであるなら、あたしは家族だから。
「それなら……やっぱり、待ってる」
「帰ってくるよ、ちゃんと」
 ぽん、と、頭の上で、軽く跳ねる手。
「うん」
 何だか目の奥が熱くなる。誤魔化す代わりに手に力を込めた。
「一日くらい、有給がきちんと取れるように、あたしも待ってますから」
「ああ」
「その時まで、プレゼントも待っててね」

 沈黙。
 ちょっと身体を離して、顔を見上げる。
 …………って。

 憮然。いや、そんなえらそうなもんじゃない。うちの甥っ子が、姪っ子と仲
良くしなさいって言われて(それも姪っこが暴れた挙句に)、えーとふくれて
る、そんな顔。
 思わず吹き出してしまった。

「……わかった」
「待ってますから」
「ああ」

 そんな、大した内容のプレゼントじゃないと、あたしは思う。思うんだけど。
それで、もし、相羽さんが休みたい、休もうって思ってくれるなら。
 少しでも休みを取ろうって気になる、きっかけになるのなら。

 多少……ぶすっとされても、いいかな、と。
 そんな風に……思った。


時系列
------
 2005年12月25日

解説
----
 クリスマスプレゼントの一件、これにて落着。
 ……してないやんという突っ込みはおいといて。
**********************************************

 てなもんで。
 であであ。
 


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