[KATARIBE 29650] [HA06N] 小説『着付けの風景』

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Date: Sat, 7 Jan 2006 00:01:42 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29650] [HA06N] 小説『着付けの風景』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年01月07日:00時01分42秒
Sub:[HA06N]小説『着付けの風景』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
もふもふです(つまり寒いらしい)。
ええと、何か新年早々、いやっていうほどログをこさえたので、それを少しずつ消費。
まずは、前段階です。
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小説『着付けの風景』
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登場人物
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 本宮麻須美(もとみや・ますみ)
  :本宮四兄弟の母。そこに居るだけでまわりを幸せにする。
 六華(りっか)
  :冬女。現在本宮家の一室を借りている。

本文
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「本当、着付けも立ち居振る舞いもお似合いねえ」
 かけられた言葉に、六華は苦笑した。

 周囲には既に、様々な色の布が散乱している。桜色、浅黄色、若草色、朱色。
とりどりの布は、絹特有の艶やかさを示している。その真ん中に座り込んでい
る女性が、にこにこと六華を見上げた。

「着せ甲斐があるわ」
「……有難うございます」
 ぺこり、と、六華は頭を下げる。
 本宮の母……というと何だか『ウルトラの母みたいだね』と真帆に笑われた
ことがあるのだが……こと本宮麻須美。四人の息子、それも全員成人済み、が
居るとは思えないくらいに、若々しくて可憐な女性は、あれもこれも、と、着
物を引っくり返している。
 六華にしても、久しぶりの着物は懐かしいし、やはり着心地がいい。
 時に……以前のことを、ふと思い出してしまうにしても。


「あ、そういえば」
 濃い朱の地に刺繍を施した着物を取り上げたところで、麻須美が首を傾げた。
「桜木さんでしたっけ、ユキちゃんのお友達の」
「…………え」
「ぜひ、一緒におまいりに行きたいとことづかってますけど」
「……はあ……」
 ぱさり、と、朱の生地を六華の肩から掛けながら告げる。
 途端に六華の表情が困ったものになった。

 クリスマスを、桜木家と一緒に過ごした。
 そしてまた……と、なると。
 
 家を飛び出した者としては、遠慮もあるし……また考えるところもある。
(まだ何もしてない)
(まだ……戻れない)
 
「あら、どうしたの?」
 麻須美がちょっと首を傾げて六華を見やる。
「……あ、いえ」
「少々、訳がおありですの?」
「いえその、訳ということも……」
 困ったように呟く六華を見て、麻須美はふっと笑った。
「無理ならば、私の方からお断りをいれますよ?駆け引きも大切ですし、ね」
「いえその、駆け引きとかじゃなくて……」
 くすくす笑う麻須美は、おっとりと優しげで、六華の目には『駆け引き』と
いう言葉と無縁にも映る。けれどもその言葉はさらりと彼女の唇から出てきた。
「あら、そうですの?」
「……どうしよう……」
 困った顔になった六華の、目の前に麻須美はすとんと座った。

「正直に考えればよろしいのですわ」
 穏やかな、賢者の言の重みと共に。
「悩まれるなら、会わなければよし」
「そう、なんですけど」
「それで少しでも後ろ髪惹かれてしまいそうならば、お会いになったほうが後
悔はしませんわ」
「…………はい」

 会いたくないわけでは、ない。
 確かにそう考えると……駆け引きで考えているのかもしれない。
 ならば。

「はい。ご一緒します」
「そう、よかった」
 にっこりと麻須美が笑った。
「じゃ、しっかり選ばなきゃ……この色のほうがお似合いねえ」
 朱の着物を手から落とし、こんどはほんのりとした卵色の生地に、細かい花
の刺繍を施した着物をあてる。
「やっぱりこちらのほうがいいわ」
「そう、でしょうか」
 手を袖に通しながら、六華はやはり苦笑した。
 振袖。未婚の女性が着る、その着物。
(……あたしが着るのも、ねえ)
 長い袖を振ってみる。
 それでもどこか、懐かしい感触。

「見てもらえる人がいますし」
 それをほんのり笑って見ていた麻須美が、ふとそう言った。
「きっと映えますよ」
 にこにこ、と、笑って言う、その言葉はとても自然で、それだけに誉め言葉
であって。
 六華は……少しだけ頬を赤らめた。

「そしたら、この着物、お借りします」
「ええ、元旦にね」
「はい」

 さらりと畳んで、良く合った色合いの帯をその上に乗せて。
 
「ありがとうございます」

時系列
------
 2005年12月末

解説
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 着物を間にしての、やりとり。
 何てことは無い話ですが……これからの暴風雨(?)の伏線だったり。
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 まあ、てなもんで。
 ではでは。
 


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