[KATARIBE 29638] [HA06N]小説『正月の一風景』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 01 Jan 2006 23:53:31 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29638] [HA06N]小説『正月の一風景』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200601011453.AA00145@hikaru-h8akl379.blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 29638

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29638.html

ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
今年一本目は相変わらず大幅に時間オーバーでした。
お題は
23:06 <Role> rg[hukira]HA06event: のろくさい屋台のひとに出くわした ですわ☆

でした。
**********************************************************************
小説『正月の一風景』
====================

登場人物
--------
 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
----
 一月一日は神社にとってかき入れ時の一つである。
 日が変わったあたりから参拝客が増え始め、多少の波はあるものの基本的に
は参拝客がとぎれることはない。
 帆川神社もその例に漏れず、いつもとは違う賑やかな空気に包まれていた。
春日神社ほどではないが、たこ焼きと鯛焼きの屋台が境内に出ている。
 時刻は午前五時。空はまだ真っ暗で、境内のあちこちにたかれたかがり火が
周囲を照らし、境内の一角に設けてあるたき火スペースでは何人かが暖を取り
ながら世間話をしていた。
 神羅は御守りや御札などを売っている小屋からその様子をぼんやりと眺めて
いた。当然、日が変わる前から詰めていて、徹夜である。宮司である猛芳は夜
が明けてから、祈祷やら何やらの行事が詰まっているために今は睡眠を取って
いる。
「ふぁ〜あ」
 神羅はこの日何度目かの大きなあくびをした。防寒対策はしっかりしている
ので寒さに対しては大丈夫だが、こう小屋に詰めっぱなしではどうしても眠く
なってしまう。眠気覚ましに少し散歩でもするかな、と神羅は思った。
 外に出ると、それでもやはり寒く、体が少し震えた。息を吸い込むと、鼻が
つんと痛い。
「……ん?」
 吸い込んだ空気が何だか焦げ臭く、神羅は首をかしげた。辺りを見回すとど
うやら出所はたこ焼きの屋台のようである。参拝客の中にもその匂いに気が付
いて、見回している人がいる。
「おい……」
 問題の屋台の前に行って、神羅は思わず苦笑いを浮かべた。その屋台をやっ
ているのは四十代後半の男性なのだが頭がゆらりゆらりと揺れていて、目が半
分とろりとなっている。それでも、職業精神がなせる技か、それとも単なる癖
か、手は千枚通しを握りたこ焼きを焼いている。ただ、その動きは非常に緩慢
でたこ焼きは半分以上が焦げていた。
「おっちゃん、おっちゃんって」
 神羅が屋台の親父に声をかける。
「……ぁ、ああっ」
 声をかけられてはっと我に返る親父。そして、手元を見て慌ててひっくり返
す。
 しかし、その手元は非常に危なっかしい。
「かなり眠いんちゃいます?」
 神羅が尋ねた。
「……ああ。実はちょっと調子が悪くてねえ」
「交代の人とかいないんですか?」
「いることはいるんだけど……」
「けど?」
「春日の方にいるんだわ」
「はあ……とりあえず、呼んでこられませんかね?」
「呼べると思うけど……」
 そう言って親父は手元に目を落とした。
「こいつらをどうにかしないと」
 まだやっぱり手元が怪しい。
「ちょっと連絡がてら休憩したらどないです? 少しの間なら店番くらいはし
ますよ」
「兄ちゃん、たこ焼きは作れんの?」
「関西人の基礎教養ですから」
「……んー、ほな悪いけど頼むわ」
「はいはい」
 そう言って神羅が屋台の中に入り、入れ替わりに屋台の親父が携帯電話を
持って外に出ていった。
 くるくると器用な手つきでたこ焼きをひっくり返していく。神主姿の男がた
こ焼きの屋台に入っているのが非常に珍しいらしく、前を通る人は皆こちらを
ちらりと見ていく。
「ちょっとはずいな……」
 神羅は口元をゆがめた。
「いやーすまんすまん」
 電話をかけ終えた屋台の親父が帰ってくる。
「交代要員が二十分くらいでこっちに来てくれるから」
「それは良かった」
「すまかったな。ほな、代わるわ」
 そう言って神羅と場所を入れ替わるがまだ少しふらふらしている。
「……大丈夫ですか?」
「あー、ちょっとやばいけどまあ二十分くらいやったらなんとかなるやろ」
 屋台の親父は相変わらずゆっくりとした動作でたこ焼きを作っている。
 神羅は交代の人が来るまで店番を代わろうかと提案したが、彼はその申し出
を断った。
「じゃあ、気をつけてくださいね」
「ああ、何とか頑張るわ」
 頼りない返事に神羅は苦笑を浮かべて、再び小屋へと戻っていった。
 薪の燃える匂いに混じって、まだ焦げ臭い匂いが漂っている。
 これもまた正月の一つの風景である。


時系列と舞台
------------
2006年1月1日。帆川神社にて。

解説
----
正月の一つの風景。

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29638.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage