[KATARIBE 29634] [HA06N]小説『神社でクリスマス』

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Date: Fri, 30 Dec 2005 19:50:53 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29634] [HA06N]小説『神社でクリスマス』
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ふきら@どうせちきんですよ(謎 です。
くりすます話。ラストの部分。間はまだ空いてます(汗
フィルオナの台詞チェックとかお願いします>きしとん

何となく、書き直しそうな予感がしますが、とりあえず一度投げ。

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小説『神社でクリスマス』
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登場人物
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 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

 フィルオナ:http://kataribe.com/HA/06/C/0504/
  神羅をマスターとする意思を持つ人形。

 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

パーティ前
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「まさか、クリスマスを祝うことになるとはなあ……」
 神羅は居間に置かれた小さなもみの木を見て、呟いた。もみの木には電飾や
ふわふわとした飾りが付けられている。この前、駅前の花屋で一白たちが買っ
てきたものだ。
「まあ、ええんじゃないかの」
 こたつに入っていた猛芳がリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を切った。
 家の中が静かになる。
 一白とフィルオナはケーキを買いに出かけていて、家には彼ら二人しかいな
い。
「……いやはや、去年からは想像もできんかったね」
 そう言って神羅は夕食の支度のために台所へと向かった。しばらくしてか
ら、ザクリザクリという音が聞こえてくる。どうやら白菜を切っているらし
い。どうやら今日の夕食は鍋らしい。
「ふん。何だかんだ言いつつお前も楽しみにしてるくせに」
 猛芳はその後ろ姿に聞こえないように呟いた。
「わしゃ知っとるよ。二人にプレゼントを用意しておるのを」
 そして、小さく笑うと手元に置いてあった新聞をこたつの上に広げた。

「ただいまー」
「ただいまなのですー」
 玄関の戸が開いて、買い物に行っていた一白とフィルオナが帰ってくる。ト
タトタと廊下を走る音がして居間への戸が開き顔を赤くさせた一白が飛び込ん
できた。
「さむかったー」
 一白は一目散に居間のこたつに潜り込む。開けっ放しにしてあった戸から
白い箱を持ったフィルオナが入ってきて、その戸を閉めると台所へと消えて
いった。
「そんなに寒かったか」
 猛芳がチャンネルを彼の方に放り投げながら尋ねる。
「うんっ。雪が降ってるんだもん」
 一白がヘヘヘと笑った。
「ほう、雪か」
 そう言って猛芳は立ち上がると、縁側のカーテンを少し開けた。
 外はもうほとんど真っ暗になっている。家から漏れてくる明かりに照らされ
た地面に小さな雪が落ち、染みこむように消えていった。
「積もるかなぁ」
 こたつに首まで埋めた一白が猛芳に尋ねる。
「さあ、どうじゃろうな」
 積もる雪ではないだろうがな、と思いながら猛芳は答えた。
 一白がテレビの電源をつける。
 テレビの音声とそれを見る一白の笑い声、台所からはフィルオナが何か言っ
ているのが聞こえる。先ほどまで続いていた静寂が嘘のように賑やかになっ
た。
「ごはんですよー」
 鍋つかみを両手に填めたフィルオナがこたつの上に鍋を置く。
「おなべー……って、パーティは?」
 一白がこたつから跳ね起き、その上に乗っている物を見て首をかしげた。
 神羅が食器を乗せたお盆を運んできて、不思議そうな表情を浮かべている一
白を見た。そして、苦笑を浮かべる。
「夕飯を食ってからな。別にごちそうを食うのがパーティと言うわけでもない
し」
「えー ローストチキンはー?」
 一白が口をとがらせる。
「……どこでそんな知識を身につけたよ?」
「はねが言ってた」
「……あ、そう。じゃあ、お前はケーキいらないんだ?」
 神羅が意地悪そうな笑みを浮かべる。
「いるっ。いるようっ」
 一白が慌てて手を振った。
「ま、ケーキが待ってるからあんまり食い過ぎんように」
 そう言って神羅は鍋のふたを開けた。
 湯気が立ち上り、居間においしそうな匂いが充満する。
「お……」
 覗き込んだ猛芳が声を上げて、神羅を見た。
「蟹ではないか」
 その言葉に一白も鍋の中を覗き込む。確かに鍋の一角を占めているのは茹で
られて赤くなった蟹の足である。
「わー、ほんとだー」
「さて飯にしよか」
 そう言って神羅は少しだけ得意げな表情を浮かべた。
 
パーティ
--------
「ふう、食った食った」
 猛芳はそう言って後ろ向きに倒れた。
 蟹鍋とくればその後に雑炊が続くのは必然であり、その雑炊も既に鍋から姿
を消している。
 神羅は既に食べ終わっていて、後かたづけに入っている。一白とフィルオナ
もその手伝いで食器を台所に運んでいる。
「もう鍋を運んでも良いですの?」
 フィルオナが尋ねた。
「おう」
 猛芳が返事をするのと同時に居間に置いてある電話が鳴りだした。取りに行
こうとしたフィルオナを左手で制止して、猛芳はこたつからはい出して電話を
取った。 
「はい。火川……おお、何じゃいこんな時間に。……ほう……それじゃあ、
ちょっとお邪魔しようかの。じゃあ、また」
 猛芳は電話を置くと、立ち上がって壁に掛けてあるコートとマフラーを取っ
た。
「おでかけですか?」
「ああ、ちょっと武田の爺さんに呼ばれてな」
「……パーティは良いんですの?」
 フィルオナが首をかしげる。猛芳はそれを見て苦笑した。
「ワシは良いよ。ケーキも入りそうにないしな。神羅にそう言っておいてく
れ」
「分かりましたのです」
 そう言って猛芳はコートをマフラーで身を包み、家を出て行った。
 玄関まで見送りに行っていたフィルオナが、居間に戻ってみると、神羅が
辺りを見回していた。
「ああ、フィル。爺さんは?」
「さっき電話があってお出かけしにいったのです」
「どこに?」
「ええと……確か、『武田の爺さん』のところに行く、と」
「……ああ。飲みに行ったか」
 そう言って神羅は溜め息をついた。
「あの、マスター?」
「ん?」
「パーティにお爺さんがいなくて良いのですか?」
「あー…… まあ本人としては呼び出されて丁度良かったってところやないか
なあ」
 その言葉にフィルオナが首をかしげる。神羅は説明を続けた。
「パーティをするなんて初めてやし、照れくさかったんやろう」
「そうなんですか」
「あと、爺さんはケーキを食えへんしね…… さて、ぼちぼちパーティといこ
か」
「はいっ」
 フィルオナが微笑んで頷いた。
 神羅が台所に戻ると、一白が冷蔵庫の中に置かれているケーキの箱とにら
めっこしていた。
 神羅が入ってきたのに気が付くと、慌てて彼は冷蔵庫のドアを閉めた。
「そんなに食べたいんか」
「……うん」
 俯いた一白が頷く。それじゃ、と言って神羅は冷蔵庫のドアを開けると、そ
のケーキの箱を取り出して一白に恭しく手渡した。
「さあ、これを居間に持っていくのだ」
「うんっ」
 一白は頷いて、その箱を受け取ると慎重な足取りで居間へと向かっていく。
 やけに固くなっているその後ろ姿を見て、苦笑いを浮かべながら神羅はその
後を皿やら何やらを持って続いていく。

「パーティーっ」
 箱を開けて、中からケーキを取りだして一白が嬉しそうに叫んだ。
「……しかし、でかいな」
 姿を現したケーキを見て神羅が呟いた。それを聞いてフィルオナが申し訳な
さそうに頭を下げる。
「このサイズしか残ってなかったのです……」
 こたつの真ん中に置かれたケーキは直径が7号と呼ばれる21cmのもので、な
かなかの存在感である。
「ま、明日も食べればええか」
 そう言って、神羅がケーキに包丁を入れようとする。
「待ってっ」
 一白が慌てて止めた。
「ろうそくは立てないの?」
 彼の右手にはケーキに付いていたろうそくが握られている。
「まあ、誕生日といえば誕生日やけどねえ」
 神羅の言葉にフィルオナは苦笑を浮かべた。
「でもそれだと、2005本のろうそくが必要になりませんか?」
「なるね」
 一白は首をかしげている。つまりな、と神羅は一白の方を向いた。
「クリスマスってのはイエス・キリストの誕生を祝うってのが本当だから」
「イエス・キリスト?」
「キリスト教を作った人」
「ふーん」
「ま、忠実に行こうとしたらそもそもうちはキリスト教やないしね。クリスマ
スを祝う必要はないし」
「えー」
 祝う必要がない、という言葉に残念そうな表情を浮かべる一白。神羅はそん
な一白の頭にぽんと手を置いた。
「ところが、日本ではクリスマスはパーティをしてプレゼントを贈るイベント
となってるからなあ。ま、そんなクリスマスということで」
「じゃあ、パーティをやっても良いの?」
「この前、やったらいいって言うたやん」
 頭に置いた手で一白の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。一白は目を細めた。
「ま、ろうそくはなしということで、ケーキを切ろか」
 そう言って神羅はケーキを六等分した。それを見てフィルオナが首をかしげ
た。神羅がそれに気付く。
「まさか今から三分の一を食べるという気やないやろね?」
 どうやら、勘違いをしているらしいということに気が付いたフィルオナが顔
を朱く染める。
「えっ、違うんですの?」
「いや、別にそれでもええけど。とりあえず、今日は半分、残りは明日でええ
やろ?」
「……はい」
 俯いたままフィルオナは頷いた。

「……そうだ、神羅」
「ん?」
 ケーキを食べ終わった一白が言った。
「さっき、プレゼントがどうのとか言ってたよね?」
 その言葉にぐっと眉を潜めて、小さく「聞き逃してなかったか」と呟く。
「なになに。プレゼントくれるの?」
 一白が身を乗り出す。神羅は仕方なく苦笑を浮かべながら立ち上がって、居
間を出ていった。
 しばらくして神羅が両手に二つの少し大きめな箱を持って戻ってきた。
「まあ、そんなわけでワシからのクリスマスプレゼントや」
 箱を脇に置いて、上に乗っている箱をフィルオナに差し出した。
「ほい、プレゼント」
「ありがとうなのですっ」
 受け取った箱は包装されていて、中が何かは分からない。
「開けても良いですの?」
「ええよ」
 フィルオナがいそいそと包装紙を剥がす。彼女へのプレゼントはプリペイド
式の赤い色をした携帯電話だった。
「最近何かと物騒やしね、何かあったら困るから連絡用ということで」
「……」
 フィルオナが俯く。それを見て神羅は首をかしげた。
 その瞬間、彼女は勢いよく神羅に抱きついた。
「嬉しいのです。マスター、ありがとうですっ」
「わわっ」
 急に飛びつかれて、神羅はバランスを崩して倒れた。彼女はごめんなさい、
と慌てて神羅から離れる。
 その様子を見ていた一白が口をとがらせて、いいなぁと言った。
「お前はいつでもワシと話せるから携帯はいらんやろう? で、その代わり
に……」
 残っていた箱を一白に差し出す。ふてくされていた顔が一気にほころんだ。
「開けても良い?」
「どうぞ」
 起きあがりながら神羅が言うのと同時に、一白は包みをびりびりと破いた。
ふたを開けて中を覗き込んで、うわぁと声を上げる。
「何ですの?」
 フィルオナも彼の箱を覗き込んだ。そして、同じようにわぁと声を上げた。
 中に入っていたのは新しいスニーカーだった。白い靴に青色の紐がよく映え
ている。
「履いても良い?」
 どうぞ、という神羅の返事を待たずに一白はその場で靴を履いてピョンピョ
ンと跳ねる。
「うわぁ、すごいすごい。神羅、ありがとー」
 先ほどフィルオナがしたように一白も神羅に飛びついた。今度は予想ができ
ていたようで、バランスを崩さずに受け止めることができた。
「まあ、とりあえず脱げって」
 神羅に言われて一白は渋々靴を脱いだ。神羅はその靴を片方手にとって、中
敷きを外して、一白に見せた。
「あ、これって……」
「そう。韋駄天の真言。これで一応いつでもブーストがかけられる」
 二人の会話が理解できずに不思議そうな表情を浮かべているフィルオナに神
羅が説明する。
「まあ、機能強化の呪やね。発動すると少しの間足が速くなるってのがこの呪
の効果。ただ、普通の人にやると体が壊れるけど一白はワシの式神やし負荷は
そんなにかからんから」
「そうなんですの…… あっ」
「ん? どしたい」
 フィルオナが急にしょんぼりとなった。
「マスターへのプレゼントを忘れてました……」
「あ、ほんとだ」
 一白もそれに気が付いて同じようにしょんぼりとする。二人の表情を見て、
神羅は苦笑を浮かべた。
「まあ、ワシの分はいらんよ」
「でも……」
「二人がおってくれると、家の中が楽しくなるしな。それで十分」
 そう言って、神羅はフィルオナと一白の頭を優しく撫でた。

時系列と舞台
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2005年12月25日。帆川神社にて。

解説
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帆川神社での初めてのクリスマス。

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