[KATARIBE 29622] [HA06N] 小説『そしてクリスマスイブの日』

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Date: Mon, 26 Dec 2005 23:53:45 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29622] [HA06N] 小説『そしてクリスマスイブの日』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月26日:23時53分44秒
Sub:[HA06N]小説『そしてクリスマスイブの日』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
えーと書いてて、グラニュー糖を吐いてる気分になりまいたので、とりあえずここまで。
えーうー<をひ

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小説『そしてクリスマスイブの日』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

本文
----

 23日。
 相羽さんはやっぱり夜半を過ぎた辺りで戻ってきた。
「明日休めそう?」
「一応ね」
「……んじゃ、目覚まし止めとくから」
「そだね」


 翌日は、やっぱり朝からのんびりしてた。
 ご飯を食べた後は、相羽さんは音楽を聴きながら、本を読んでる。その周り
に三匹のベタが群がって、本やら相羽さんの手やらを突付いている。
 買っておいた小さなツリーを、やっぱり小さな星やガラスの球で飾る。途端
にベタ達がやってきて、星をつくつくとつっつく。ちりちり、と、小さな音に
ちょっと逃げては、また戻る。

 やっぱり三匹とも、何だか浮かれてる。
 お昼間に相羽さんが居て、こうやって如何にものんびりしてて。
 そういうのって……確かに相当珍しいから、なあ。

「……肩叩き、いる?」
 何となく手持ち無沙汰になって、相羽さんに訊く。
「ん?ああ、頼むわ」
「はい」
 がちがちに凝った肩を、叩いて揉み解して。
 相羽さんはやっぱりここに居る。

「…………相羽さんだー」
 手の中の肩は、かっちり凝ってて、なかなか柔らかくならないで。
 だからこそ、本物だな、と思えて。
「そら、いるでしょ」
 苦笑交じりの声が返る。
「……だって珍しいもの」
「そら、まあ……ね」
 妙に複雑な、というか笑い半分苦笑半分な声が返る。
 あ……そか、ある意味厭味になるか、この言い方だと。

 でも。
 窓の外が明るい時間に、それでも相羽さんが居て、それものんびりしてて、
携帯のほうを少しも気にしてなくてって………本当に珍しい。
 休みが無いわけじゃない。でも大概、休みが判るのはその前の日に戻ってき
た時。それも『もし連絡があったらまた仕事』ってのが普通で。

 いや、今日もまた連絡あるかもしれないけど。
 でも、相羽さんの緊張の糸が、いつもみたいじゃない。甘えても大丈夫なく
らい、隙がある。
 だからついつい、背中に張り付いてみた。
 
 シャツの向こうの淡い熱。呼吸の音。鼓動。
「……相羽さんだぁ」
 相羽さんは何にも言わない。ただ、左の手を捉まえてぎゅっと握る。
 ちゃんとここに居る、と合図するように。

 相羽さんがここに居る。
 大丈夫。何もかも大丈夫。
 何だかそう思ったら……安心して、そして何だか笑ってしまった。
「……どしたん?」
「だって、相羽さんがいるもの」

 以前、出張の帰りに大雪に遭ったことがある。
 当時まだ片帆は自宅にいたし、弟もやはり実家の近くに住んでいた。こちら
に住んでいるのは自分だけ。花澄はまだこちらに居たけど、車を持っていたわ
けじゃ無いし、彼女のところに連絡してもどうしようもないことは判ってた。
 降りる駅が近づくにつれて雪は激しくなり、同じ車両に居合わせた人達は、
それぞれ携帯をポケットから出し、連絡を取っていた。
 その時に、つくづくと思った。携帯ってのは連絡を取る相手が居ないなら必
要無いものなのだ、と。

 結局その夜は無事に駅まで着いて、何とか歩いて(かなり距離はあったもの
の)帰ることが出来た。やっぱり同じようにそろそろと歩いている人も多く、
あんまり心細さだの何だのは感じなかったけど(ただひたすら寒くてそれどこ
ろじゃなかったってのも、ある)。
 ただ、思うのだ。
 もし今だったら、あたしは遠慮無く相羽さんの携帯に連絡するだろう。
 仕事中かもしれない。忙しい人だから、伝言の内容を聴く頃には、もうあた
しは家に居るかもしれない。それでも。
 
 連絡を取っていい人が居る。
 今は、こうやってもたれかかることの出来る位置に居て、甘えても怒られな
くて、何も心配する必要がない。
 何だか、本当にほっとして…………



 そして非常に情けないながら、起きたら……何時ものように相羽さんの腕を
枕にしてた。
「もう、起きたん」
「……って、え、どれくらい寝てたっ?」
「一時間、かな」
 相羽さんは頭を少し傾げて時計を見る。
 ……一時間も寝たのか。

「どしたん」
 多分えらく悔しそうな顔に、なってたんだと思う。相羽さんは少し不思議そ
うにこちらを見ている。
「……時間、潰しちゃった……」
「いいよ、俺は」
 くく、と、笑ってる顔から目を逸らす。
「……あたしが、悔しいなってっ」
「なんで?」
「…………せっかく、相羽さんが居るのに」
 せっかくこの人がここに居てのんびりしてるのに。せっかくの休みなのに。
 滅多に無いことなのに。

 と。
 喉の奥からの笑い声。くくくく、と、振動ごと伝わる声。
 思わず目を上げたら、相羽さんが。
 何だか妙に……うん、凄く妙に嬉しげに笑っていて。

「可愛いこというねえ」
 いや、かわいいことは一つも言ってませんが……ってかっ。
「あいば、さんっ」
「何?」
「…………起きたいんですけど」
 返事の代わりにひとしきり笑ってから、相羽さんは手を離した。

 

「あ、ケーキ、食べる?」
「うん」

 出してきたケーキの飾りを、早速メスベタがつつきにくる。どこにどうぶつ
かったのか、ちりん、と、不思議に透きとおった音がした。
 その音に、後の二匹も飛んでくる。競争なのか、えいえい、と、むやみにス
ピードを上げた挙句、二匹してケーキに突っ込みかけるあたり……やっぱりベ
タである。

「……こーらっ」
 手で止めて、二匹を手に乗っける。
「あんまし悪戯してると、ケーキなしだよ?」
 じっと見ると、二匹とも揃ってしゅんとした。手の上でへれんと鰭を落して
いる。
「……ん?」
 耳のあたりをでしでし突っつかれて、振り返る。何だか憤然として見えるメ
スベタが、そこで……うん、何かこうふんぞり返ってるし。
「お友達を怒るなって?」
 ……またそこで突っつくし。
「友達甲斐があるなあ」
 行っておいで、と、手を離すと、二匹のベタは手の上でぽちん、と、一つ頭
を下げて……またぴょいっと飛びあがる。流石に今までほどの突進はしないも
のの、やっぱり気になるらしく、ケーキの周りをくるくる回っている。

「……何だか、模範的なクリスマスだね」
「そう?」
「お子サマが一番はしゃいでるってあたりが」
「なるほど、ね」

 そう言う相羽さんはどこかぼんやりベタ達を見ている。
 やっぱり……疲れてるのかな。

「ほら、これ、あんたたちの」
 ケーキを切り分けて、まずベタ達に渡す。でないとこの面々、相羽さんのを
狙うから。
「ちょっと待ったっ」
 突進しかけたのをすんでのとこで止めて、ケーキの皿をテーブルの真ん中に
置く。食べる前に落っことされてはかなわない。
「珈琲でいい?」
「うん」

 ベタ達がケーキを齧っては飛び上がる。
 ひらひらと、鮮やかな色の鰭が、その度に翻る。
 そのまんま、ツリーの飾りになりそうな……そんな鮮やかな色。

「……あ」
「何?」
「思いついた」

 ケーキ食べたら買い物に行こう。
 ベタ達のクリスマスプレゼントを買いに。


時系列
------
 2005年12月24日
解説
----
 相羽家のクリスマスイブ。
 何とものんびりと。のんびりと。
****************************************

 てなもんです。
 えうえうです。 
 であであ。
 


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