[KATARIBE 29620] [HA06N] 小説『手紙の後で』

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Date: Sun, 25 Dec 2005 21:23:37 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29620] [HA06N] 小説『手紙の後で』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月25日:21時23分37秒
Sub:[HA06N]小説『手紙の後で』:
From:久志


 久志です。
『一通の手紙』の後でみこちのとこに報告にいく豆柴くんです。

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小説『手紙の後で』
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登場キャラクター 
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 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県生活安全課巡査。生真面目さん。あだ名は豆柴。
 如月尊(きさらぎ・みこと)
     :体は女子高生、心は年上お姉さんな人。

晴れた空
--------

 空を見上げる。
 突き抜けるように晴れた青い空。
 頬を撫でる風は冷たいけど、逆にその冷たさがかえって明るい日差しの暖か
さをより感じさせてくれる。

 持田さんと久しぶりに会って、自分の気持ちをはっきりと伝えて。
 彼女から手紙を貰ってからずっと胸に溜まっていた後ろめたさも、重苦しさ
もすっかり消えていて。そして胸に残るのは。

「……尊さんに、報告しないとなあ」

 背中を勢いよく叩いて自分を元気付けてくれた顔を思い出す。
 広げた手の平を見つめる、あの時伸ばしかけて思わずひっこめてしまった手。

「なんだかなあ」

 どうしてそこで手ひっこめちゃうかな、俺。
 思わずため息をついて頭を掻いて商店街を歩く。

 大学南通りを渡り、駅前公園の横を抜けた角を曲がった先にある小さな花屋。
ガラス戸の向こうには鮮やかな色合いの花が並べられて、入り口のドア掛けら
れたプレートに手書きで開店中の文字が書かれている。

「いらっしゃいませ……あら、和久さん。こんにちはです!」
「ああ、こんにちは夾ちゃん」

 開いたドアの向こう、切花を並べていたアルバイトの女の子が元気よく挨拶
してくれる。
「尊さん、奥かな?」
「はいっ、おねえちゃんなら今二階のお部屋で一休み中です。どうぞどうぞ、
和久さんあがってください♪」
「あ、そうなんだ」
「最近、おねえちゃん元気なかったから、和久さんが来てくれたらすっごく喜
びます!」
「えっ」

 それって……ああいや、落ち着け。
 元気なかった、って。やっぱりあの話のせい、かな。

「さ、さ、あがってくださいっ!お店のほうは大丈夫ですからっ」
「うん、お邪魔します」
 夾ちゃんに促されるまま、一礼して階段を登る。

 何を話そうか。
 いや話すことは一つなんだけど。

『俺。今、好きな人がいるんだ』

 って、それ今思い出さなくていいから。
 いや、でもそれが持田さんに話した、自分の正直な今の気持ちで。
 その相手は……

 尊さんの部屋の前、一瞬躊躇してからドアをノックする。

「はい、夾ちゃん?」
「あ」
 問いに答えるより早くドアが開いていた。
「どうしたの夾ちゃ……え?」
「……あ、こんにちは」

 可愛いクマ柄プリントのはんてんを羽織って長い髪を少しゆるめにまとめた
尊さんは、こう、なんというか……精神衛生上よろしくないくらい、可愛い。

「も、本宮くんっ」
「すいません、お邪魔してます」
「い、いらっしゃい、ごめんねちょっとお部屋散らかっててっ」
 小さく頭を下げつつ思わず頬が熱くなる。同じく頬を染めてわたくたと大慌
てで部屋に広げたメモやクッションを片付ける尊さん。
「ごめんね座ってて、今お茶淹れてくるから」
「いえ、おかまいなく。その、報告に来ただけなんで」

 止めるまもなくばたばたと部屋を出て走り出していく。その慌てっぷりが、
なんとなくおかしい。


「紅茶でよかったかな?あとこれ商店街のおすすわけで貰ったクッキー」
「はい、いただきます」
 ひと口紅茶を飲んで、ちらと尊さんを見る。
 視線に気づいてカップを片手にもったままことんと小首を傾げた。

「尊さん」
「ん、どうしたの」
「先日は、相談にのってくれてありがとうございました」
「え……ああ、こないだの」
 かちり置いたカップがソーサーにぶつかる音がする。
「きっちり、決着つけた?」
「はい」
「そう、なら良かった」
 尊さんが小さく息をついて笑う。
「ちゃんと自分の気持ちに整理つけて」
「うん」
「彼女はいい友人で大切な仲間だから、うやむやにしたくなかったし。ちゃん
と自分の今の気持ちをはっきりと伝えました」
「そっか」

 どこかホッとしたように笑う尊さんに小さく頭を下げる。

「尊さん、相談にのってくれてありがとうございます」
「ううん、役に立てたならよかった」
「はい」

 顔をあげて、すぐ前の尊さんと目が合う。微かに首を傾げて見上げる目と小
さくすぼめた唇が視界に映る。

 ふと、思い出す一年前の感触。

「尊さん……」
「ん?」

 待て。
 いや待て!

 そこで不純なことを考えるな、自分。持田さんを断った足ですぐに尊さんな
んて節操なさ過ぎる。

「あ、いえ。なんでもないです。本当ありがとうございました」
「そう?」

 まだまだ、だなあ。


時系列 
------ 
 2005年10月初旬。手紙関連の話が終わった後。
解説 
----
 手紙の話から続く一連の話。豆柴、止まるなそこで。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

豆柴てめえ、こんじょーなしっ(涙目)
コクれるのもぷろぽーづもいつの日になるやら。



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