[KATARIBE 29618] [HA06N]小説:『unbalance 4th 〜風邪っぴきSyndrome〜』

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Date: Sun, 25 Dec 2005 01:36:13 +0900
From: Aoi Hajime <gandalf@petmail.net>
Subject: [KATARIBE 29618] [HA06N]小説:『unbalance 4th 	〜風邪っぴきSyndrome〜』
To: kataribe-ml@trpg.net
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 こんにちは葵でっす。
 unbalanceしりーづ4
 お送りします。
 今回は豆柴君が風邪っぴきでっす。

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[HA06N]小説:『unbalance 4th 〜風邪っぴきSyndrome〜』
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 深い眠りに沈んでいた意識がゆっくりと浮かび上がる。
 寝起きは良い方なのだが、今日はやけに調子が悪い。
 意識が徐々に覚醒するに従い、強烈な寒気と倦怠感が襲って来た。
 それどころか喉も痛いし、頭もスポンジが詰まったように重く痛い。
 これは……。
 やっちまった……完全に風邪引いたな。
 確か……ゆうべ風呂入った後、刑事講習のレポート書いててうっかり……う
たたね……して……駄目だ……頭……痛い。
 こりゃ今日は休まなきゃ……ダメかな。
 頭痛と寒気で飛びそうになる意識と気力を掻き集めてスケジュールを確認し
てみる。
 レポートは週末に義姉さ……じゃない、卜部警部殿へ提出すればいいから大
丈夫、OK。
 今日は内勤でデスクワークの予定だったはずだから休んでも迷惑かける事は
無い筈、OK。
 後は電話で連絡して……そういえば……何か物音? 誰だ? 一体……。
 どこか近いところでコトコト、シュンシュンとなにか物音がするし人の気配
もする。
 本当なら真っ先に気付かなきゃいけない事にやっと気付いた俺は、ゆっくり
眼を開いた。

「う……」

 つけっぱなしの蛍光燈の光が眼に刺さり、熱のせいで眼が潤み視界が滲む。
 大分、ひどいなこりゃ。
 買い置きの風邪薬、あったかなぁ……。
 そんな事を考えながら枕許に置いた携帯電話を見ると、時計は六時を指して
いた。
 良かった、具合が悪いにしても寝過ごして遅刻するのは避けられたみたいだ。
 身動きするたびに響く関節の疼痛を堪えてゆっくり起き上がると、音の主を
探して部屋の中を見回す。
 電気スタンドの載ったテーブル。
 その上に書きかけのレポート。
 部屋の角には武道の教本と小説が並ぶ本棚。
 その横にはCDが上に積み重なったミニコンポ。
 しん、と静まり返った部屋の中には生き物の気配は無い。

 「だ……れだ?」

 神経を尖らせ、気配を探る……ダイニングキッチンにつながる引戸が少し
開いて空気が動く気配がする。
 キッチンに人……?。
 布団の上にかけてあった褞袍を羽織ると足音を忍ばせ、そっと引戸を開けた。
 警官の部屋に侵入するなんていい根性し……。

 「え゛?」

 戸を開けた俺の目前には。

 「み」

 コンロにかかった鍋の前にお玉を持って。
 軽く鼻歌なんか歌ってる後姿は見まごうこと無き。

 「こと……さん?」

 その彼女が。

 「な……んで」

 呆然と突っ立ってる俺の気配に気付いたのか彼女が振り向く。

 「あ、おはよ、もう起きたの? 朝ご飯まだだし、まだ早いからもう少し寝
てればいいのに」

 細く柔らかな髪が顔にかかるのをサラリとかき上げながらふわりと微笑む。
 一瞬、頭痛や悪寒が全部吹っ飛びそうな、心臓に直撃する飾りもなんにも無
い、素顔の……笑顔。

 「み、尊さん……なんで……?」
 「ん?」

 俺の疑問に、彼女が小首をかしげる。
 質問の意味がわからないとでも言うように。

 「なぁに? たまぁに早く起きたから寝ぼけてるの?」

 手にもったお玉をお鍋の上に置いて、くすくす笑う。
 猫のように音も無く擦り寄ってきた彼女が黒々と濡れた眸で拗ねたように見
上げる。

 「それに……尊『さん』って……結婚したら『さん』付けは止めてって言った
じゃない?……あ・な・た」

 この眼……弱いんだよなぁ。
 思わず抱きしめたくなる衝動を抑えるのにどれだけ苦労する……か……。
 ……。
 ……。
 ……。
 って!……結婚っっ!?……あなたぁっっ!?
 ちょっとまって……え? ええええええっ!?
 いま、なんかトンデモナイ台詞言いませんでしたかっ!

 「……どしたの? 顔赤いけど」

 キッチンで水仕事をしたのか、少し湿ってヒヤリとした彼女のしなやかな指
が額に当たる。
 あ……冷たくて気持ちいい……。
 じゃなくって。

 「ちょっあのっ尊さん、それってっ」
 「あ……顔赤いと思ったら……熱あるじゃない!?」

 自分でも情けないと思うけど、あまりの台詞に完全にパニくってる。

 「いや、熱より」
 「いいからっ、しのごの言わず御布団戻るっ!」

 彼女に腕を引かれるまま、問答無用で部屋の布団に押し込められる。

 「あの、けっ、結婚って……」
 「黙って」

 有無を言わさず、開きかけた口に体温計を突っ込まれる。
 カッキリ十秒で電子音を立てた体温計が示したのは。
 八度七分。

 「ああっ九度近いじゃない!……もう、ムリするから……こんなんで出勤し
たら倒れちゃうよ?」
 「あ、はい、で、その……」
 「義兄さんか、義姉さんに連絡入れておくから……ムリしないでよね?」

 え?……兄さん、姉さん?……たしか、尊さんには兄弟姉妹は居ないはずで、
連絡て。
 史兄と義姉さんかっ!?
 ちょっとまて、落ち着け俺、状況を整理してみよう。
 さっきからの尊さんの台詞。
 総合して判断すると……総合しなくてもだけど。
 結婚……して……る……のか? 俺達。
 いや、そりゃ、そうなったら良いなーなんて事を考えたこと無かったりした
ことも無いわけじゃないけどっ。
 むしろ、彼女ならいい奥さんになるだろうな、なんて思ったりしたけどっ。
 元久君なんかに渡す訳にはいかないけどっ。
 でも、まだ、その、ぷろぽーづもしてないわけでっ……の前に付き合って下
さいともいってなくて。
 まとまらない考えが頭の中で渦巻いて、つい、彼女の顔をまじまじ眺めちゃった
りして。
 ホントに尊さんと……?

 「あの……尊さん」
 「ん? なぁに?」

 布団に入った俺の枕元に座った彼女がふわりと微笑む。
 うぅ……だめだ……こんな幸せそうな彼女の笑顔見たら。
 もし、ほんとに結婚してたとして……今更「俺たち結婚してましたっけ?」
なんて……そんな事……とても聞けるわけ無い。
 いや、でも、記憶ないし、でも、彼女がこんな冗談するとも思えないし、ど
うしよう。

 「どうしたの? じっと見て……あたしの顔に何かついてる?」
 「え、いや、そういうわけじゃ……」
 「あ、わかった……早く治るように、また『あのおまじない』して欲しいん
でしょ?」
 「おまじ……ない?」

 悪戯っぽくウインクしてみせる、尊さん、なんだか恥ずかしそうで……でも、
嬉しそうで。

 「もう……このおまじない、あたしも……うつっちゃうんだからね?」

 じっと俺の眼を見つめ……て。
 頬を薔薇色に染めた彼女の顔が、横になってる俺の顔に覆い被さるように近
づいてきて。
 うわ、尊さん眼を閉じてるしっ。
 彼女の唇が、ゆっくり近づいてっ。
 それってっ!。
 あ。
 え。
 う。
 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ

 「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 叫びとともに眼を見開いてガバッと起き上がる。

 ドキドキと踊りまわる心臓を抑えて周りを見回す。
 自分の布団。
 自分の部屋。
 誰も居ない。
 尊さん、は?。
 あれ?。
 寒気と、痛む頭と関節、それは変らないけど。
 彼女の姿は何処にもなくて。

 …………夢……か。
 そうだよな、いくらなんでも。
 でも……ちょっと。
 後、もうちょっと目が醒めるのが遅れれば。

 「……惜しかった……かな」
 「何が惜しかったの?」
 「うわあっっ!」

 突然後ろからかかった声に心臓が止まるほど驚いた。

 「ちょっ! びっくりするじゃないっ」

 振り返ると、部屋の戸口にエプロンつけた尊さんが困ったような顔で立って
る。
 どういうわけか、彼女が付けてるエプロンは夢に出てきたエプロンと同じ柄
で夢と現実がダブったように思える。
 ホントに……夢から覚めてるんだよな?
 熱で頭がぼぅっとするから、なんだか現実感が薄い。

 「尊さん? ど、どうして……?」
 「ごめんね、相羽さんから電話があって和久君が風邪引いて寝込んでるから
様子を見に行ってくれって頼まれたから……勝手に入ったのは謝るけど……そ
んなに驚かないでよ」

 慌てて枕元の携帯電話を見ると、確かに先輩からの電話が入ってる。
 どうやら無意識に電話に出ちゃったらしい。
 そうか、それで先輩から尊さんに……。

 「先輩が? あ、でも鍵は?」

 確か、ドアには鍵かけてあったし、スペアキーは無いはず。

 「あれ? 相羽さんが渡してくれたけど?」

 チャラリと尊さんがエプロンのポケットからキーをつまみ出す。
 それは見たこと無い……いや、アレはたしか大家さんが持ってたマスター
キーだ。
 一体どうやって手に入れたんですか。
 大家さんあたりから借りたんだろうけど……無茶しますね、先輩。

 「でも、良かったぁ……たいした事なさそうで。 相羽さん和久君が死にそ
うだから行って見てやってくれ、なんて言うんだもの、驚いちゃった」

 布団の上に起き上がった俺の横にちょこんと座って、くすくす笑う。

 「ま、まぁ……なんとか、起きられるくらいには」

 強がっては見たけど、かなり熱があるのか、寒気がひどい。
 夢の中と同じように尊さんのひんやりした指が額に触れる。

 「あ、でも、まだ熱ある……ダメだよまだ寝てなきゃ」
 「あ、はい」

 尊さんに促されて、もう一度横になる。
 さっきの夢で見た尊さんと、現実の尊さんが重なって、なんだか気恥ずかし
くてまともに顔が見られない。
 熱のせいか、起きてるはずの今も妙に現実感が薄い。
 なんだかさっき見ていた夢の方がリアリティがあって……いや、今の方が夢
か?
 でも、目覚めたはず……さっきの夢ではあの唇が……。

 「で、何が惜しかったの? それに大声あげたりして……何か夢でも見たの?」
 「えっ、な、なんでも無いですよっ」
 「そう? なんだか名前呼ばれたような気がしたんだけど」

 言えない、まさか夢の中では尊さんと俺が結婚してて、あまつさえ『おまじ
ない』してもらいそうになったなんてっ。

 「いやその、そ、そうです、追っかけてた犯人取り逃がした夢を見てたんで
すっ」

 慌てて誤魔化す。
 けど、追っかけてたのは犯人じゃなくて……。

 「夢の中でまで? 仕事熱心も良いけど……あんまりムリすると、ホントに
体壊しちゃうよ?」

 くすっと笑った尊さんが、俺のおでこをチョンとつつく。
 ふんわり笑う尊さんの笑顔が、夢の中の彼女と重なって……。
 駄目だ、意識が……夢か? 現か? 夢なら……。

 「ま、いいわ、とりあえず栄養付けなくちゃ……昨夜から何にも食べてない
んでしょ? まってて、今お粥作ってるから……って……か、和久……君?」

 つい、立ち上がって行ってしまいそうになる彼女の手をつかんでいた。
 彼女の手を握る、夢なら覚めないで欲しい、行かないで欲しい。

 「もう少しここに居て……くれませんか……もう少しで……いい……から」

 かろうじて、それだけ絞りだす。

 「ん……いいよ、ゆっくり……休んで……」

 尊さんはびっくりした顔してたけど、微笑んで手を握り返してくれて。
 布団の上から心地よいリズムで……トン、トンと……。
 覚えているのは、ここまでだった。
 眠りに落ちる直前、なにか……柔らかな……暖かい物が頬にふれたような。
 気が。
 した。

時系列
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 2005年12月、クリスマスの少し前。
 場所は、本宮君の部屋。

解説
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 べったべたですね(ぉ

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Aoi Hajime  gandalf@petmail.net

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