[KATARIBE 29617] [HA06N] 小説『忙しさの理由』

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Date: Sun, 25 Dec 2005 00:05:00 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29617] [HA06N] 小説『忙しさの理由』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月25日:00時05分00秒
Sub:[HA06N]小説『忙しさの理由』:
From:いー・あーる


てなわけで、またいー・あーるです。
というわけで流します<なげやり

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小説『忙しさの理由』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

本文
----

 どういう魔術を使ったのか。
 相羽さんは24日に有給を取った。

 それにしても、最近本当に心配になる。
 絶対この人、忙しすぎると思うのだ。


「…………なんか、こちらに住み出して……籍入れてから、余計に忙しくなっ
てない?」
 ん、と、相羽さんは湯飲みを受け取りながら首を傾げた。
「そう?」
「いや……それとも前に、無理させてたのかな」
 以前は結構、良く呑みに行ってたと思う。
 もう少し、仕事が忙しくなかったような気がする。

 そうかな、と、相羽さんは首を傾げる。
「こればっかりは、予測つかないからねえ」
「じゃ、別に……そのせいじゃ無い?」

 少し、気にはなっている。
 自分が相羽さんの家族になることで、この人は迷惑してないだろうか、とか。
(いや、心情的にではなく、実質的に)
 5月のはじめ、刺されたこと。その後のこと。
 そう考えると……少し不安になる。

「まあ、年の瀬とかは確かに忙しくなるし」
 それは……新聞を見ているとしみじみと判る気がする。師走のこの忙しい時
に限って、また犯罪も増えるときたものだ。
 ああ、じゃ、気のせいかな、こんなものなのかな……と思ってたら。

「それ以前に情報集めだなんだで」
 湯飲みを手の中で揺らしながら、本当になんでもなげに。
「……それなりに活動もしてるしね」
 ちょっと……それは刺さった。

 おネエちゃん情報網。
 何度もこの人が豪語していた、相当なんてもんじゃなく確かな情報網。
 それを……今この人は、使えない。
 へし折れたから、と、以前言った。突っ走ることを止めた時から使えないの
だ、と。
 ……それは、つまり。

 と。
 つん、と、額を突付かれた。
 
 相羽さんは、必ず言う。それはあたしのせいじゃない、と。
 ……でも実際。あたしはその情報元のおネエちゃん達に……どこかで嫉妬す
る。
 その度に相羽さんは言う。もう二度と出来ない、使えない……って。
 そしてこの人は今まで以上に忙しくなって。
 それを……あたしは少しも判っていなくて。
 でもごめんなさいと言っても、この人は多分そんなことはない、と言うばか
りだから。
 だから……黙って頭を下げることしか、出来なくて。

 相羽さんは黙っている。
 ただ、額に伸びた指が、そのまま何度も額を撫でる。

「…………でも、理由判ったから」
 やっぱりこの人が忙しくなったのは……あたしのせいなのだって。
 迷惑しか、やっぱりかけてないのか、って。

 あ、でも、そしたら。

「……取り消そうか?」
 顔をあげる、と、じっとこちらを見ている視線と真っ直ぐにぶつかってしまっ
て。
 一瞬……どう言えばいいか、迷ったけれども。

「……クリスマスに有給って……凄く無茶、じゃないかなって」
「全く無理なら最初から言うよ」
「…………はい」
 無表情なまま、無表情な声で。
 ……余計なことを、言ってしまったろうか。
「一応、有給は俺らの権利でもあるし」
 それは、本当にそうだと思う。
「まあ……呼び出される可能性はあるとだけ」
「……うん」
 くしゃっと、相羽さんの手が頭を撫でる。

 それでも。
 この人に、ゆっくりしていて欲しいのに。
 仕事をおろそかに、とは思わない。そんなことをする人じゃない。それでも
少しでもゆっくりして欲しいのに。
 多分相羽さんは否定する。どれだけ言っても証拠があっても否定する。
 それでもやっぱりこの人が忙しく駆け回ってるのは……少なくともその一端
は、自分にある。
 だから申し訳なくて、下を向くしかなくて。

 と。
 ふんわりと頬を包む手。少しだけ顔をあお向けるように。
 そして、額に微かに……唇が触れる、感覚。
 目の奥が、熱くなった。

「……どっちにしろさ」
 静かな口調。
「俺がそうしたいから」
「……でも」
 それは嘘だとは、思わないけど。
「でも全然、そんなこと考えて無くて、ただ忙しくなってるって思ってて」
 まるで責任が人にあるかのように。
「忙しくなったならないは、波もあるからね」
 少し、苦笑するような声で、相羽さんは言うけど。
「…………ごめんなさい」
 頬を抑える手に、少し力が篭った。
「情報収集が変わったのも、それはお前さんのことに限らず」
 きっぱりと、揺らがない強さのまま。
「信じ切って他にやり方がなくなるほうが俺には怖い」
「……でも」
「真帆のせいじゃない」

 何でかなと、思う。
 これだけ忙しくなって、仕事も増えて……それでも。
 それでもこの人は、あたしを庇ってくれる。

 だから。
 泣くのものかと思った。

「……休めるといいね、クリスマス」
「そだね」
 ってそこで……にっと……そんな顔して笑うしっ。

「あの、ねえっ」
「ん?」
「でもそれでも、相羽さんが休みなほうが、あたしは嬉しいんですっ」

 そりゃ、一日休みになったら請求されるだろうクリスマスプレゼントって思
うと、やっぱり少し困る。そう来るかなってほんっと思う。
 でも、それでも。

「……ああ」
 相羽さんは頷く。判ってる、というように。
「のんびりしようか」
 少し、笑うような表情のまま。
「一緒に」

 ……てか。
 それは、ほんとに一緒にのんびりしたいのに。
 心おきなく、のんびりしたいのにっ!

「……のんびりしたいのに」
 一日休みになったら、プレゼントって言われるし。
 プレゼント無しってことは、相羽さんに呼び出しがかかるってことだし!

「……尚吾さんの意地悪」
 ぼそっと、そう言ったら。
「…………すまん」
 困ったように、ばつが悪いように。
 相羽さんもぼそっとそう返した。


 それでも、一日。
 寝っぱなしでもいいから。一日膝枕してろって言うならそれでもいいから。
 相羽さんが、ゆっくり出来たらいいなって……それは本当にそう思う。


時系列
------
 2005年12月中頃。
解説
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 相羽家の、クリスマスに至る第二弾。
 色々足を引っ張ってるって事実を……そこでわざわざ掘り出すし。
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 てなわけで。
 であであ〜
 


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