[KATARIBE 29616] [HA06N] 小説『クリスマス種々様々』

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Date: Sun, 25 Dec 2005 00:02:58 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29616] [HA06N] 小説『クリスマス種々様々』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月25日:00時02分58秒
Sub:[HA06N]小説『クリスマス種々様々』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@でんでんクリスマスに行き着かない(へたれっ)です。
というわけで、まずは聡のほーの、クリスマス『前』の風景。
(いーんだいーんだ、どーせ狭間時間だっ<をひ)
あ、ねこやさん、匠くんお借りしてます。チェックお願いしますー。
***********************************
小説『クリスマス種々様々』
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登場人物
--------
  関口聡(せきぐち・さとし)
   :周囲安定化能力者。現在片目は常に意思と感情を色として見ている。
  桃実匠(ももざね・たくみ)
   :桃実一刀流小太刀術の伝承者。ギャップは激しい(?)。

本文
----

 図書室の主、と、実は休学の前から言われていたらしい。
 現在も……ある意味それ以上に『主』と言われている……らしい。
 そしてその図書室の一角、一応会話の(多少ではあるが)許されている『雑
誌置き場』の前のテーブルにて。


「あー、水族館の後に寿司いうんもオツかもしらんなぁ」
 吹利ウォーカーとか大阪ウォーカーをチェックしつつ、えらく能天気な調子
で匠は言った。
「まー、高校生の予算やから回る方になってしまうけど」
 回る方……とちょっと考えて、ああ、回転寿司か、と、聡は納得する。

 学期末のテストも終わったとかで、休みの前、クリスマス(というよりクリ
スマス・イブ)をどうするかが結構あちこちで話題になっているらしい。この、
何故か自分を気に入っているらしく……そしてしょっちゅう図書室にやってく
る同学年の友人も、やはりその一人であるらしい。
「なー、ヌシやんはどー思う?生きた蛸とか鯖見たあとに食べる寿司も美味い
と思うんやけど」
「……それは、ちょっと女の子に嫌われませんか?」
 いや、黙って入るならともかく、匠だと確実に、食べながら『お、これ、さっ
き泳いどったマグロやな』だの『タコもこうなると美味いなあ』だの言いそう
であり……多分そういうのは女の子に敬遠される話題じゃないかな、と、聡は
思うのだが。
(とりあえず桃実君が好きそうな女の子なら敬遠しそうだな)
 無論敬遠しないだろう女の子も一杯いるだろう。ぱっと聡なんかが思いつく
のはまず中山嘉穂やその友人の吉野歩。考えてみると案外蒼雅紫なんかも平気
かもしれない。
(というか……先輩だと「うわ、そうですねー」とか感動してお寿司見てそう
だけど)
 微妙に……誉めてるのか何なのか、みたいなことを考えている聡の目の前で、
匠は首をひねっている。
「うーん──ちょいと洒落が利きすぎやろか」
「うんと親しい人なら、そういう洒落を理解してくれると思うんですけど」
 匠をある程度知っている人であるなら、軽い冗談と判るだろうし……軽い冗
談と取るくらいでないと、匠と友人はやってられない、と、聡は思う。
「でも、あんまり親しくない人にだと、ちょっと……」
「あー、そっか──そうやったら、しゃぁないな」
 えいや、と握ったボールペンで、匠は雑誌に大きくバッテンをつけた。

「デートの計画ですか?」
「そー。センパイとダブルデートや」
「……という、大義名分のもとにひかりさんを誘う?」
 文化祭の後夜祭。その時に匠がえらく強引にダンスに誘っていた女の子。
「そーそ」
 すっぱり訊いてきた聡の言葉に、にたあっと笑って匠が返す。
 それにしても。
「……先輩もなあ」
 よくもあの品行方性、きっちり真面目な先輩が、クリスマス・イブに彼女を
デートに誘う、という離れ業をやってのけたものだ、と思ったものだが。
(つまり匠君が先に計画して、巧先輩を乗せたってとこだな)
 ぶぅうん、と、低音の酷い耳鳴りに、そっと右耳を抑えながら聡は溜息をつ
いた。

「せやったら、無難なところでプロキシマかなぁ」
「……ぷろきしま?」
「でも、それやるとセンパイとだだっかぶりになりそーで」
「レストランか何かですか?」
「吹利市内で、紅茶好きなら知らんヒトのおらん喫茶店や」
 ふむ、と、腕組みをして匠が椅子の背にもたれる。
「……まあ、それなら女性向けですね」
 文化祭のメイド喫茶のメニューを決める際に、英国のお茶うけについてはか
なり綿密なレクチャー(『そんなん聞かされてもわかんないよー』との悲鳴も
あちこちから上がる類の)を受けた身として……そしてその際の女子達の反応
を見た身としては、確かにそのほうが回転寿司よりも良いだろうな、と、判断
出来るものである。

「でも喫茶店で、ご飯、ですか?」
「紅茶とスイーツとイギリス料理が美味い店やからな」
 うむうむ、と匠は頷く。
 彼の舌は確かであるから……それには聡もふむ、と頷く。
「──しっかし、イギリス料理が美味いっちゅうのは大いなる自己矛盾やな」
 おいおい、ってな台詞を、腕を組みながら頷きつつ匠は放ったが、
「あ、メイドはないで?」
 にやっとして付け足した言葉に、聡はやれやれと肩を落とした。
「……それが普通でしょう」
「いや、ヌシやんの顔見とったら、つい」
「……はいはい」
 実際、文化祭での『メイド喫茶の女装メイド達』は大受けに受けたらしく、
聡以外の写真も結構あちこちで売り買いされたらしい。

「──うーん。やっぱプロキシマかなぁ。あそこやったら、ちょっとした悪戯
もできるし、門限もそう気にしなくてもいい時間に出られるし」
 ぶつぶつと匠は呟いている。ちょっとした悪戯というのがひっかかったが、
聡は聞き流しておくことにした。
 尋ねると、またどうせ碌なことが返ってこない。
「なんやったらヌシやんも一緒にどーや?」
「……あ、僕は遠慮します」
 というか普通、デートに他の奴を誘うかな、と思わないではないのだが、ど
うもこの友人はそういう場面に結構聡を誘うのである。
 まあ、考えようによっては、聡もまた、『デート』であることの煙幕代わり
に使われかけているのかもしれないし、もし予定が無ければ、それはそれで多
少付き合っても良いくらいのものなのだが。
「プロキシマやったら、そんなにうるさいコトないと思うで。あそこ、ちょっ
と独特の空間やし」
「いや、そういうことじゃなくて……先約があるんです」
 へえ、と、目を丸くした匠に、聡はにこにこと付け加えた。
「本当のクリスマスを、見せるって約束したんで」

 へえ、と、もう一度呟いてから……何故か匠は大きく頷いた。
「なんや──ヌシやんもちゃっかりカノジョ作っとるやんか」
「彼女?」
 なんでそっちに話がすっ飛ぶんだ、と、目を丸くした聡には全く構わず、匠
は肩をすくめた。
「あーあ、これで俺だけ置いてけぼりやんかぁ」
 なーにいってんだか、と、これは恐らく複数の突っ込みが入りそうな台詞を
吐いてから、匠はおや、と、聡の顔を見た。
「──あれ、ちゃうのん?」
「違いますよ」
「なんや、寂しいなぁ。クリスマスくらい女の子と過ごさな」
 それ、うちのねーさんが聞いたら10分くらいは抗議(もしくは講義)しま
くるぞ、と内心思いつつ……聡は苦笑した。
「……女の人ですけど」
 言って、相手が身を乗り出す、その機先を制するように言葉を継ぐ。
「ただ、好きな人が他にいる人で……ちょっと元気になって欲しい人なんで」

(巧にいさま……)
 真っ赤な毛糸で編んだ異形の手袋(その割に案外編み目が揃っていたりする
から侮れない)を抱えて、しょんぼりしていた一学年上の先輩。
 なまじ顔が巧にそっくりで、不思議なほど透明なその意識や精神も似ていて、
その癖全く自信の無い様子が、時折腹立たしくさえなるのだけれども。
(もうちょっと、元気にしてて……普通だと思うんだけどなあ)

「うわー、ボランティアかぁ。ヌシやん、どんだけ聖人やねん」
 そうくるか、と、聡は笑った。
「……クリスマスは、聖人の中の聖人の誕生日ですよ?」
 故に、切り返す。
「なんせ……自分の誕生日に、他の人がプレゼントを貰うのが嬉しいってくら
いに、聖人の人の誕生日だ」
 すとん、と、視線を向けた先で、匠は肩をすくめる。
「ほら、俺、まっとうな日本高校生男児やから」
 そんなエライ人のことやよく知らん、と言いたげな口調である。
「日本文化のために歪んだクリスマスの演出に沿うってわけですね」
「そーそ」
 充分以上に口の悪い聡の言葉に、匠はしれっと頷く。
「……だから、本当のクリスマスを見せる……って約束なんです。こちらは」
 静かな口調で聡は言った。

 紫には好きな人がいる。
 紫を好きな人もいる(線上でゆらゆらしている人ならもっといる)。
 故に、現代日本推奨(?)のクリスマスには用は無い。
 
「なるほどなぁ。えぇヤツやなぁ」
 ふい、と、匠の手が伸びた。聡の髪の毛をくしゃっとするように撫でくり回
し出す。
「……えぇヤツ、なのかなあ」
 苦笑まじりに、聡は呟く。
「まー、ヌシやんがそうするって決めたコトには口挟まんけど。自分のために
なんかすることも忘れたらあかんぞ?」
 調子に乗ったのか何なのか、髪の毛をぐりぐり撫でくりまわしつつの匠の台
詞である。
「無論、僕のためです」
 自分が気が向かないならば、そんなことはいちいちやるわけもない。
「それより桃実君は、自分のデートのほうをしっかり考えて下さい」
「そりゃぁもう考えとるて。こーんなに真剣やんか」
 ぐるぐると丸めた雑誌片手に、匠は主張する。
「確かに」
 聡は……やはり静かに苦笑した。


 様々なクリスマスの過ごし方があり、多分それぞれに様々な理由があるのだ
と思う。
 それでも……せめて、誰かが喜ぶ為に、そのクリスマスの時を使えたらいい
な、と……

 それだけは、思う。


時系列
------
 2005年12月半ば

解説
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 高校生組の、クリスマスまでの様々。
 ま、予定は未定で……どうなるんでしょ(笑)
**********************************************
 てなもんで、ではでは。
 


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