[KATARIBE 29608] [HA06N] 小説『僕の決断』

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Date: Tue, 20 Dec 2005 22:54:36 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29608] [HA06N] 小説『僕の決断』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月20日:22時54分36秒
Sub:[HA06N]小説『僕の決断』:
From:久志


 久志です。
長々続いてしまった史兄の公安云々のお話これで締め。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『僕の決断』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事部巡査。屈強なのほほんお兄さん。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0263/
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。史久の相棒。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/

答え
----

 人は誰にでも生きる権利を持っている。
 だが、同時に自らが生きる為に努力する義務も負っている。生きる為の努力
を放棄して生きる権利だけを主張することはできない。

 空を仰ぐ。ほんのりと薄く曇った空の向こうから湿った風が頬を撫ぜる。
 公安行きの話を聞いてから、自分の中でくすぶって、迷っていたもの。細い
両腕で抱きしめてくれた奈々さんの腕の中で、ようやく自分の中でわだかまっ
ていた気持ちが洗われていって。

 僕の出した答え。

 思わず苦笑が漏れる。
 僕もまだまだだと思う、今まで僕が奈々さんを守っているつもりだったけど。
でも本当は逆で、もっと昔から今になるまで、ずっと奈々さんに守ってもらっ
ていたのだ。その事に気づかずに、全て自分が背負っているつもりだったなど
思い上がりも甚だしい。

 県警の廊下を抜けて、ドアをノックする。

「失礼します、本宮です」
「ああ、君か」

 深く一礼して、目の前の席に座る人物と目を合わせる。少し骨ばった険しい
顔立ちに揃った白髪を奇麗にバックにまとめた、吹利県警警務部長。

「先日お聞きしたお話について、お返事したく伺いました」
「……考えはきまったか?」
「はい」

 椅子に深く沈み込むように座った体を少し起こして、机の上に組んだ両手を
置く。じっと見上げる目は真っ直ぐで険しい。

「お前は、どうしたい?」
「正直に申し上げます」

 僕は、どうしたいのか。


屋上で
------

 深く一礼して、ドアを開けてもう一度礼をしてから部屋を後にする。
 かすかに踵を鳴らして廊下を歩き、廊下の途中ですれ違う他課の顔見知りと
会釈をしながら、心なしか気分が軽くなってるのを感じる。すぐにデスクに戻
ろうと思っていたけれど、足は別方向へと歩を進めている。なんとなく無性に
外の空気を吸いたかった。

 すっかり昇りなれた階段を上がり、軋む音を立てる年季の入った古めかしい
ドアを開けて、屋上へと出る。時間はまだ昼も前、人影は無く、少しもやのか
かった空の向こうに駅前商店街の賑やかな様子が見て取れる。

 小さく細く、息を吐く。
 胸に溜め込んだものを吐き出すように。

『それでも、俺達は支えねばなるまいよ』

 東の真摯な考えは理解できる。
 彼の想いは僕も共感できるし、その為に自分の力が少しでも役立つならば応
えたいとも思ったし、多少なりとも僕自身にも野心というものはあった。

 抱きしめてくれた細い腕。
 守ってくれると言ってくれた奈々さんの言葉。
 自分が支えるだけでなく、自分もまた支えられてるということ。


「よう、サボり?」
「……あ」

 振り向いた先、口元を微かに歪めて笑う姿。

「先輩」

 空気だけが動くように、ふらりとすぐ隣に並ぶ。いつぞやと同じ、どこか人
を食ったようなどこかつかみ所の無い笑顔。
 つい一週間ほど前に見たのと同じ光景。

 だがもう、自分に迷いは無い。


「史さあ」
「はい」
「決めたん?」

 先輩の顔から笑顔が消えた。

「……ええ」
「そう」
「先輩こそ、どうしたんですか?」
「いや、決めたんならいい……いや、やっぱり言っとこか」
「え?」

 先輩が小さく俯いて苦笑した。

「お前がさ、これから先、県警でどの道を選ぶかは、お前自身が考えて決める
ことだ……でも」
「はい?」

 微かに喉の奥を鳴らして笑う。

「さみしいもんだよ、お前が相棒でなくなったら」
「え?」

 一瞬、呆気にとられた。

「……先輩」
「ガラでもないけどね」

 思わず顔をあげた僕を見て、先輩が肩をすくめた。
 見慣れないその姿に、思わず胸の奥からこみ上げてくる、笑い。

「……笑う?、そこで」
「いえ、ありがとうございます」

 くつくつと湧き上がってくる笑いが止まらない。
 ああ、そうか。自分は嬉しいんだ。

 奈々さんが守ってくれると言ってくれたこと。
 先輩が寂しいと言ってくれたこと。

「……ありがとうございます」

 まだ、未熟だと思う。

「僕もまだまだですよ」
「ほお」

 全て自分が背負っていると思い上がって。
 守っているつもりで、守ってもらっていたことにも気づかないほど。

「だから、まだ僕は刑事でいたいです」
「そう」
「先輩みたいな厄介な人の相棒役を他の人に任せておけませんよ」
「言うねえ、お前」

 拳を握って、先輩の肩を軽く叩く。

「……ありがとうございます、先輩」


時系列 
------ 
 2005年9月下旬。小説『守るもの守られる者』の後。
解説 
----
 公安の誘いから始まった一連の話、史兄の決断。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 ふみゅ、終わってみるとあっけない。



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