[KATARIBE 29607] [HA06N]小説『卒業してはや幾年』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 20 Dec 2005 01:29:56 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29607] [HA06N]小説『卒業してはや幾年』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200512191629.AA00135@hikaru-h8akl379.blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 29607

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29607.html

ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
……掛かった時間は聞かないで(涙

お題は
22:53 <Role> rg[hukira]HA06event: 道行く昔世話になった人が笑い出した
ですわ☆

でした。
**********************************************************************
小説『卒業してはや幾年』
========================

登場人物
--------
 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
----
 12月も後半に入ると、街全体が浮かれた空気に包まれているような感じがす
る。商店街は様々な色の電飾で飾り付けられ、どこからかクリスマスソングが
絶えず流れている。
「クリスマス、ねぇ……」
 夕食の買い出しに来ている神羅はマフラーに顔半分を埋めていた。
 どの天気予報も連呼しているこの冬一番の寒さがもたらしている北風は、寒
いというよりも冷たく、刺すように痛い。
「おう。津久見じゃないか」
 声をかけられて俯いていた顔を上げると、目の前には高校の時の担任がい
た。
「おや、先生」
 神羅は驚いた表情を浮かべる。高校の頃はあまり目立っていたような記憶が
なく、いくら担任であっても卒業してから7年も経っているので覚えられてい
るはずがないと思ったのだ。
「よく、分かりましたね」
 正直にそう言うと、その先生はハハハと笑った。
「さすがに全員をはっきりと覚えているわけではないがな。それでも、顔見れば
思いだすぞ。……で、津久見はもう社会人か?」
 その質問に神羅は苦笑する。
「いえ、まだ学生なんです」
「お、留年でもしたか?」
 率直な質問に再び苦笑。
「いえいえ、まだ大学院に行ってるんですけどね。……ところで、先生はまだ
あの高校に?」
「おう。もう10年だな」
「長いですねえ」
 ハハハ、と先生が笑った。
 強い風が吹いてきて、二人はそろって身を縮ませる。「寒いな」と先生は辺
りを見回した。
「ちょっとあそこに寄っていこうか」
 彼が指さした先にあるのは少し古びた喫茶店。
「そうですね」
 店の中は暖かく、神羅の眼鏡が一瞬にして曇る。客の入りはそこそこで、二
人は店の一番奥のテーブルについた。
 ウェイトレスが注文に来て、二人ともコーヒーを注文する。
「何か変な気分だなあ」
 神羅が注文しているのを見て、先生はしみじみと言った。
「何がです?」
「ほら、俺が知っているお前らって高校生の、まあまだ子供の頃だろ? それ
が今じゃ、いっちょまえにコーヒーなんか注文してるんだからなあ」
 ハハ、と神羅は笑う。
「ああ、そういえば」
 と先生が言いかけたところで、注文していたコーヒーが運ばれてくる。先生
は砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。神羅は何も入れず、一口飲んで、その熱
さに眉をひそめた。
「……生意気にブラックか」
「ええ、甘党なんですけどね、コーヒーはブラックなんです」
「……お前らしいな」
「は?」
 先生はコーヒーを一口飲んで、まずいな、と呟いた。
「いや、どこか頑固なところがあったよな、って思いだしてな」
「はあ。……で、さっきは何を言おうとしてたんです?」
「おお、それよ。いや、この前教え子が結婚報告に来てな」
「え」
 神羅は驚いた表情を浮かべる。
「確かお前らの一個下だったかな、今年で24歳だったら」
「そうですけど…… いやぁ、24で結婚かあ」
「そうだよ。24で結婚だよ…… というか、教え子が結婚だぞ。さすがに俺も
老けたな、って思ったね」
 先生は頭に手をやる。神羅の担任だった頃に比べると、髪の毛は少し薄く
なっている。
「いやいや、そんな先生もまだまだ若いですよ」
「お世辞は良いって。第一、こうやって教え子と喫茶店でコーヒーを飲んでい
るってのにも、ちょっと感慨深いものが」
「そうですか」
 そこでその話は終わる。そして、神羅の近況などを話しているうちにカップ
からコーヒーはなくなった。
「……じゃ、そろそろ出よか」
 先生が先に立ち上がり、伝票を持ってレジに向かう。神羅もその後について
いき、レジ前で財布を出した。
「ああ、コーヒーくらいおごってやるよ」
「いいんですか?」
「コーヒーだしな」
「じゃあ、ごちそうさまです」
 暖かかった喫茶店を出ると、太陽は既に沈んでいて、辺りは薄闇に包まれて
いた。
「うわぁ、寒いな」
 先生が両手を擦りあわせる。
「じゃ、津久見も風邪引かないように元気でやれよ」
「はい。先生もお体には気をつけて」
「おう」
 そう言って先生は片手を上げると、駅の方へと向かっていった。
 神羅は先生のその姿が人混みに紛れるのを見届けると、反対方向に向かって
歩いていった。 


時系列と舞台
------------
2005年12月。商店街にて

解説
----
懐かしい人と会うのはよろしいことです。

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29600/29607.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage