[KATARIBE 29601] [HA06N] 小説『県警茶飲み話』

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Date: Fri, 16 Dec 2005 23:42:46 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29601] [HA06N] 小説『県警茶飲み話』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月16日:23時42分45秒
Sub:[HA06N]小説『県警茶飲み話』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
こー、本篇(というかまあそっち)は進まないのに、こういうちこっとした話は書ける。
……あかんなー。

ってんで、県警内でも怖い人達(ある意味)な2人の会話です。

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小説『県警茶飲み話』
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登場人物
--------
  丹下朔良(たんげ・さくら)
     :吹利県警刑事課元ベテラン刑事、現在指導員。犬にたとえるとマスチフ。
  形埜千尋(かたの・ちひろ)
   :吹利県警総務課職員。県警内の情報の元締め

本文
----

 11月8日。
 なんてことはない普通の日。
 
 ……なのであるが。

 
「……昔から刑事課の奴らはかわらねえなあ」
 休憩室。急須から注いだ緑茶を啜りつつ、丹下朔良が溜息混じりに呟いた。
「強面でヤクザだの何だのの前に出したら向こうが逃げるくらいなのに」
 やはり緑茶の入った湯呑みを両手で抱えるように持ちながら、形埜千尋が一
つ溜息をつく。
 あ、どうぞこれ、と差し出されたかりんとうを、片手で礼を示してから受け
取る。一口齧ってから、朔良は憮然とした顔のまま口を開いた。
「中村も史の字も相羽の奴も、カミさん相手だとテンで駄目ときとる」
 あはは、と、千尋が笑った。

 マル暴の中村、ヤク避け相羽、人間戦車の本宮。
 なまじ強面だからこそ、奥さんを相手にした時のギャップは大きい。

「中村さんもアレだし、本宮君も家では切り替えそうだし、相羽君は……なか
なか笑えましたからね、総務に来た時は」
「……」

 県警内でもそこそこの年季の入ったこの二名、その年季の故に蓄えている逸
話も多い。現在新婚状態の二名は無論のこと、何年も前に新婚状態だった中村
のことも、しっかりと……それこそ噂から事実から、まとめて憶えているから
たちが悪い。

「……まあねえ」
 黒糖のかりんとうは、結構堅い。口の中で転がすようにしながら、千尋が苦
笑した。
「世の中の汚いモン、腐るほど見てる連中だから、綺麗で透明なモノには、て
んで弱いのかもしれませんね」
 同じような表情が、朔良の顔にも浮かぶ。
「そうさの……」
「怖がらないで、裏切らないで、頼ってくれる相手なんて、他にあんまし見つ
けられそうもないしねえ」

 有能なだけに、彼等は最前線に廻される。ある意味人の一番汚い部分を直視
せずには解決のつかない場所へと。
 だからこそ……と。
 
 急須にお湯を注ぎながら、千尋はからからと笑った。
「まー、何にしろ、お蔭さんであたしは大笑いですよ」
 呵呵大笑。県警内で敵に廻すと怖い人物3名のうちの、もしかしたら一番怖
いかもと言われる相手の言葉に、朔良は苦笑した。
「やれやれ、人の悪い」
「なーにいってんです」
 一言の元に切って捨てる勢いである。
「あたしが知ってるくらい、連中だって覚悟してるんだから。それを殊更に、
え、なにそれ、知らないよ、なんて言うよりは、大笑いしたほーが本当でしょ」
「それは、たしかにのう」
 お茶のお代わりを受け取りながら、朔良は笑った。
「お陰で連中、一人も頭があがらんよ」
「そういうのが、職場に一人くらいは居てよろしい」
 三名が三名とも、居なくていい、と、悲鳴をあげそうな意見ではあるが……
まあ、運良くというか悪くというか、三名ともここには居ない。

「それで……相羽君、今日は最後まで休めるんですか?」
「ふむ……」

 湯呑みからの湯気に顎を当てながら、朔良は少々苦い顔になった。

「有給は溜まりまくってるから、こちらは問題無かったんですけどね」
「次の動きがあるまでは……奴さんのヤマも手のつけようが無いんだろうが」
「何時動くか、わからない、と?」
「……今日から明日にかけて、かの」
「ふむ」

 茶渋のこびりついた急須の口を、千尋は睨みつけている。
 湯呑みの中の茶葉がゆらゆらと動くのを、やはり朔良は睨みつけている。

「奥さん……大丈夫ですかね」
「……仕方、なかろうよ」

 そうなんですけどね、と、溜息と一緒に千尋が呟く。
 お茶を飲み干して、朔良が立ち上がる。

「あ、よければこのかりんとう、刑事課に持ってっちゃって下さいな。総務は
今日、何だかお菓子が重なってて」
「ああ、すまんの」

 
 県警内、休憩室。
 それなりによくあるような……ないような話である。


時系列
------
 2005年11月8日。

解説
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「11月8日」の裏話。有給取って外に出てる頃に、こういう会話があったっ
てことで。
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 てなもんです。
 であであ。
 


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