[KATARIBE 29599] [HA06N]小説『災難』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 16 Dec 2005 00:18:12 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29599] [HA06N]小説『災難』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200512151518.AA00134@hikaru-h8akl379.blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 29599

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29500/29599.html

ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
相変わらず三十分を無視してますが(汗

お題は
00:26 <Role> rg[hukira]HA06event: ふたを開けるとねばねばした小人が入っ
ていた ですわ☆

**********************************************************************
小説『災難』
============

登場人物
--------
 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
----
 帆川神社にある蔵。そこには祭りなどで使う道具に混じって、少々訳ありの
品々が仕舞われている。
「冬はさすがに冷えるのお……」
 猛芳が蔵の重い扉を開けると、中の空気が扉の動きに引っ張られて彼の体を
撫でていった。少々ほこりっぽい匂いが鼻をくすぐる。
 蔵に窓はなく、中は真っ暗である。扉の横にあるスイッチを入れて明かりを
付ける。明るくなった瞬間に、カサコソと何かが動く音が聞こえた。
「む、ネズミ……というわけではないな。まあ、どうせ変な物が目を覚ました
んじゃろう」
 猛芳は物音を気にすることなく、草履を脱いで中へと入っていった。
「おお、冷た」
 木の床は冷え切っていて、足袋越しにでもその冷たさが分かる。暖房器具は
無く、室内でも吐く息は白い。
 蔵の一階には祭りや神事で使う道具が仕舞われている。正月になれば、これ
らの出番もあるだろう。
 猛芳はそれらをざっと見て異常がないかを確認すると、入り口の横にある急
な階段を上っていった。
 蔵の二階には主にいわゆる「訳あり」のものが置かれている。人形やら包
丁、壷などその種類は様々だ。
 それらに変わった様子がないかチェックしていく。曰く付きの物には蔵に仕
舞う前に雑霊や鬼を抑える封印を仕掛けているが、それに綻びがないかの確認
である。
「大人しい奴は大人しいんじゃがなあ……」
 運び込まれる物についている霊が全て祟りをなすというわけではない。中に
は祖父、曾祖父の代から使われて付喪神と化した途端に気味悪がられて預けら
れている物もある。
「まあ、普通は勝手に物が動いたら気味が悪い物か」
 そう呟いたときに、再びカサコソと音がした。
「ふむ」
 音の出所はそういった物が並べられている棚の一番上に置いてある茶筒だっ
た。ただ、その茶筒には蓋が無く、上下逆さまに置かれている。
 その筒は左右にコトコトと揺れながら数ミリずつ移動している。
「おっと、いかん」
 茶筒が棚から落ちるのと同時に、猛芳は手を伸ばしてそれを受け止めた。
「ふぅ」
 安堵の溜め息をついて、手に持った茶筒をしげしげと眺める。茶筒からはま
だカサコソという音が聞こえている。どうやら中に何かが入っているようであ
る。
 猛芳は筒を床の近くでひっくり返して、軽く上下に振る。すると、中から小
さな生き物が出てきた。
「……む?」
 それは人の形をしているが頭には角があった。服は着ておらず、腰布を巻い
ているだけだが、体中に茶色のねばねばした物がくっついていた。
 外に出られたのに気が付いて、その小さな生き物は辺りを見回す。猛芳の姿
を見ると、両手を振り上げて何やらキィキィと文句を言っているようである。
「何を言っておるのか分からんなぁ」
 猛芳は苦笑しながら、その小さな生き物を片手でつまみ上げて、じぃと見つ
めた。
「おう。お前は天の邪鬼か」
 それに反応するかのように、小さな生き物はキィと鳴き声を上げる。
「……しかし、なぜにそんなにベトベトしとんのじゃ?」
 天の邪鬼はキィキィと言っているが、相変わらず猛芳には何を言っているの
か分からない。
 年を経た物なら人の言葉も話せようが、如何せんこの天の邪鬼はまだ若い。
理解はできても話すことはまだできないらしい。
「まあ、とにかくそのべとべとしたもんをとってやらないかんのぉ……という
か、そもそもそのべたべたしたもんは何じゃい?」
 天の邪鬼は自分の体に付いているベトベトを見て、蔵のあるところを指さし
た。
 猛芳がその方向を見ると、そこにはひっくり返ったゴキブリホイホイがあ
る。
「……ああ、なるほどな」
 どうやら封印が解けて動いているときに、ゴキブリホイホイに引っかかった
らしい。
「そりゃ災難じゃったな」
 天の邪鬼を見て猛芳はにやにやと笑う。
 バカにされているのが分かったのか、天の邪鬼は両手を上げてキィキィと鳴
いた。
「はは、そう怒るな。ちゃんと洗ってやるから」
 その言葉に天の邪鬼は万歳を繰り返す。
「で、その後にもう一度封印をかけ直す」
 封印、という言葉に天の邪鬼は一転してしゅんと体を丸めた。
「申し訳ないがの、みんなを放してやるわけにはいかんのじゃよ」
 そう言って猛芳は天の邪鬼をつまんだまま蔵の階段を下りていった。
 蔵の明かりが消え、扉が閉められる。
 そして、蔵の中は再び闇と静寂に包まれる。


時系列と舞台
------------
2005年12月

解説
----
天の邪鬼なもんで、放すと何するか分からないんですな

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29500/29599.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage