[KATARIBE 29597] [HA06N] 小説『11月8日(上)』

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Date: Thu, 15 Dec 2005 23:54:36 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29597] [HA06N] 小説『11月8日(上)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月15日:23時54分36秒
Sub:[HA06N]小説『11月8日(上)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
どういうわけか、この長さで難産しまくりのこの話。
とりあえず途中ですが、流します。

****************************************
小説『11月8日(上)』
=======================
登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

本文
----

 そういえば、相羽さんと一緒に外に出る回数は、このところかなり減ってい
たな、と。
 ジャニスガレージに行きながら、ふと思った。

「そうだっけ?」
「うん」

 7月に居着く前は結構良く外で呑んでたし、その時には時々、隣の酒屋と一
緒にここにも来たものだけど。
 それにしてもどうも、何か違う気が……

「……あ」
「どしたん」

 足を止めた横で、相羽さんが不思議そうな顔をする。
 止めた時に、相羽さんが横に居る。

「……何でもない」
「そう?」

 以前一緒に歩いてた時は、結構追いつくのに苦労したんだけど。
 今、普通に歩いていて……隣に居るのに苦労してない。確かに相羽さんに合
わせて歩いているうちに、それなり速く歩くようになったんだけど。
 今、完全に自分のペースで歩いているのに、相羽さんが隣に居るってこと。
 良いことなのか、悪いことなのか。


「Vita Nova?」
「うん、これ探してたんだ」
「どんなの」
「ちょっと声……六華に似てるかも」

 新しいCDと、中古のCD。
 以前と同じように、CDを互いに選んで、試聴して。

「……これ、何?」
「何かこの前、若旦那が苛められてた曲と、ゆっ……幸久君が苛められてた曲」
「なるほど、ね」

 ついでに隣の酒屋に寄って、酒一本買って。

「次、どこ行きたいって?」
「本屋!」

 本屋の中で互いに自分の好きな本を探して、レジのところで落ち合って。
 
「……お仕事の本?」
「も、あるね」

 抱えた本を手で抑えながら、相羽さんは欠伸を一つ噛み殺す。

「大丈夫?」
「勿論」

 忙しかったんだと思う。帰ってきたのは夜中過ぎ。今日、休めるようにと多
分ぎりぎりまで仕事をして。
 起きる時間は遅くて良いね、ということで、結構寝坊した筈なんだけど、で
も、いつもいつも忙しくしてるから。

「相羽さん、どっか喫茶店か甘味処行く?」
「もう少し、ここら見てかない?」

 大丈夫かな、と、相羽さんを見る。
 けろっとした顔で、相羽さんは店のガラス窓の向こうを見ている。

「滅多無いでしょ、こういうとこ見るの」
「……うん」

 文房具店にスポーツ用品店。そして幾つか並んだ喫茶店や食事処の次に。

「あ、もしかしてここかな」
「ん?」
「若旦那が六華の櫛買ったの」

 へえ、と、相羽さんが店を覗く。
 骨董屋の店先には、幾つかの鼈甲細工と細工物の煙管、簪や根付のような純
和風のものと、どこか時代を帯びた懐中時計や指輪、そしてティーカップのよ
うな西洋風のものが、ごたごたと並んでいる。

「翡翠とかあるかね」
「……翡翠?」

 ちょっと驚いた。
 留学時代に買ったペンダントやその後集めたもの、等、時々つけてるんだけ
ど、気が付いたように見えたことは無い。だから多分、興味が無いんだと思っ
てたんだけど。
 
「ああ、割と好きなんだよね」
「へえ……」

 言いながら相羽さんは、どんどんと店に入ってゆく。
 まあ、石として……色や質感が好きってのはありだろうけど、この人だと、
どうやって身に付けるんだろう。

「あと、あれだ。ブラックオパール」
「へ?」
「ネクタイピンで持ってたよ」
 ねくたいぴん?
「……そんな驚かんでもさ」
「…………あ、うん」

 店の中は、一面棚やガラスケースで埋まっていて、それぞれに時代のついた
品物が並んでいる。特に小さな(そして高価そうな)ものが並んだケースを覗
きながら、相羽さんはああ、こういうのかな、と、ケースを軽く突付いた。

「……あ、これ?」
「多分ね」
 黒というより濃紺を基調にして、種々の色がモザイクになったような石。残
念ながら指輪だったけど。
「綺麗な色だね」
「特に……こうやると、いろんな色がみえてね」
 光に透かすような仕草をしてみせる。
「……うん」
「結構気に入ってたんだけど、いつだったか事件でネクタイぶっちぎられてそ
れっきりでさ」
 確かに、そういう石の付いたネクタイピンは、見たことが無い。
「それ以来買ってないね」

 ネクタイピン、かあ。
 ガラスケースの中を見る。
 それらしいものは……あることはあるけど、翡翠もブラックオパールもつい
てないか。

 瑠璃の色のペンダントトップ。トルコ石のスカラベ。鼈甲の鳥の付いた簪。
そしてやっぱり鼈甲の櫛と……

「…………うわ」

 その次に並んだ櫛が、見事だった。
 多分、銀。右肩にぷっくりと膨らんだ蜘蛛の彫刻。そして歯の部分から飾り
の部分にかけての草の、これは浅い彫り。
 その細工も、全体のバランスも見事だ。

 ……と。

「ん?」
 相羽さんがひょいと覗いてきた。
「…………あ、いや」
 値札を見る。
 うん、あたしの見る目は確かだ……と、確認できる値段である。
「これ?」
 いやだから、高いんだってば。
「気に入った?」
「あーいや、細工見事だなー…………ってっ!」
 半分言いかけたあたりで、相羽さんが動いた。何時の間にかそこに居た店員
さんにむかって。
「すいません、これちょっと見せてもらえませんか?」
「はい、これですか?」
「ええ」
 慣れた手つきで、店員さんが櫛を下の濃紺の布ごと取り出す。
 結構、この櫛は大きい。

「これは、細工にしたら安いですよ」
 店員さんがひょい、と、櫛を引っくり返す。裏には細い葉と、その上の小さ
な鈴虫が彫ってある。
「細工が蜘蛛で、結構リアルでしょ。だから駄目な人は駄目みたいで、この値
段にしてるんですけど」
「いい?」
「はいどうぞ」

 ひょい、と取り上げた櫛を、相羽さんは髪に当ててくる。
 ……いや、だからあのね。

「お似合いですねー」
 そういうのを仲人口というのだ。
「どうかね?」
「いあその、どうかね……って」
「こちら鏡ありますけれども」
 問題はそこじゃなくてっ。
「気に入ってない?」
 ……気に入ってるというか、見事なものだと思いますけどっ!
「髪の毛が真っ黒で長い方ですから、良く似合ってますよ」
「ああ、鏡みてみる?」
 あーもうっ。
「てかっ」
「ん?」

 きょとんとこちらを見ている相羽さんの手を掴んで、出来るだけ店員さんか
ら離れたとこに移動。聞こえないように耳元で。

「高いですっ」
「……え?まあ、多少値は張るけど気に入ったんしょ?」
「多少じゃないー」
 だからここに引きずってきてるのにっ。
 と、思ったら。
 ひょい、と、相羽さんの手が伸びた。つくつく、と、額を突付かれる。
「……気に入ったんならさ、プレゼントしたいんだよ」
 言って……にっと笑う。何というか……勝てないというか、何と言うか……
「どう?」
「…………すごくいい細工だと思います」
「……なら、決まりかな」
 くくっと笑って、一度さらりと額を撫でる。そのまま櫛を受け取って。
「じゃ、これ下さい」
「かしこまりました」
 
 店員さんが実に幸せそうに(いやそんな具合に見えるんだ)、櫛を受け取っ
て包装しだす。
 ……まさかと思うけど。
(この櫛に、何か憑いてるとか……無いよね?)

 
「じゃ、甘味処でも行こうか」

 包みを手渡してくれながら、相羽さんがそう言った。

時系列
------
 2005年11月8日。

解説
----
 誕生日のプレゼントは……ということで、一日有給を取った結果……

*************************************************
 てなもんです。
 であであ。


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