[KATARIBE 29591] [HA06N]小説『意地の現れ』

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Date: Fri, 09 Dec 2005 01:18:13 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29591] [HA06N]小説『意地の現れ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:36 <Role> rg[hukira]HA06event: こっちに来るなと意思表示しているのは
すばやい羽だった ですわ☆

でした。
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小説『意地の現れ』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 12月になると急に冷え込みが厳しくなり、かろうじて木にしがみついていた
葉も寒さに耐えきれず、一気に散ってしまった。
 空を覆っている雲は気が滅入るようにどんよりと重く、昼間でも震えるほど
に寒い。
 神羅は一人で神社の境内の掃き掃除をしていた。
 境内を囲っている木にはもう葉は残っていない。
「とりあえず、これで当分は掃き掃除はせんでもええやろな」
 先月なら焼き芋ができるくらい溜まっていた落ち葉も今ではほんの少ししか
集まっていない。
「焼き芋とかできへんのは寂しいけど、掃除するのは楽やからええか」
 神羅は集めた落ち葉から大きめの葉を一枚拾うと、ポケットから取り出した
マジックで「火」という文字を書いた。
「木から火が生じる。これ五行相生の理」
 呟くと持っていた葉が急に燃え始める。神羅はそれを落ち葉の固まりに放り
込んだ。
 しばらく白い煙が立ち上っていたが、やがてパチパチと音を立てて火は他の
葉へと移り、辺りが暖かくなる。
 風はほとんど無く、煙は真上に上がっていく。これだと火が消えるまで側に
いなくても大丈夫だろうと、神羅は思った。
 そのときである。
 後ろから誰かに見られているような気配を感じて、神羅は後ろを振り返っ
た。
 彼の後ろに広がっているのは見慣れた神社の林。奥は多少薄暗くなっている
が、そこに人の姿はない。
「何だ気のせいか……」
 と、顔を戻しかけたところで、視界に何かが入ったのに気付き、再び振り返
る。
 林に少し入ったところで、黒い羽が一つふわふわと浮かんでいた。薄暗かっ
たので、見にくかったのだろう。
「何事?」
 神羅は羽の浮かんでいる方向へと進んでいく。すると、羽は急に根元を軸に
して、「あっちいけ」という仕草をし始めた。
 神羅が足を止めると、羽も動きを止める。
「そっちに行くな、ということか……」
 そう呟いて、神羅は更に足を進める。近づくにつれて羽の動きは激しくなる
が、そんなことはお構いなしである。
 やがて、すぐ近くまで来ると、羽は観念したかのように動きを止め、地面へ
と落ちていった。
 羽が落ちたところを見ると、そこにはカラスの死骸。どうやら、このカラス
の羽が浮かんでいたようだった。
「ふむ……ひょっとして、自分の死体を見られたくなかったからあんなことを
しとったんかな」
 神羅は両手をあわせてその死骸に向かって一礼する。
「だとしたら、悪いことをしたな」
 そう言って来た道を引き返す。
 しかし、数歩進んだところで足を止め、再びカラスの元に行った。
「このままにしておくのもなんやな。何されるか分からんし」
 神羅は近くの大きな木に目をやると、その根元を近くに落ちていた枝で掘り
始めた。
 数分もしないうちに、小さめの穴ができる。カラスの死骸をそっと両手で持
ち上げると、その穴にカラスを入れた。その上に土をかぶせ、掘る前と同じよ
うな状態にする。
「自分の死に様を見られたくない、と思ってる奴やから墓なんかもええよな」
 両手の土を払ってから、手を合わせて再び頭を下げる。そして、その場を後
にした。
 境内に戻ると、落ち葉の固まりは燃え尽き、火はほとんど消えていた。横に
置いていた竹箒で砂をかけ、火を完全に消す。
「ほい。掃除終了っと」
 最後に燃えかすを何度か踏んでから、その場を後にする。
 誰もいなくなった境内に、一度だけカラスの鳴き声が響いた。

時系列と舞台
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 2005年12月。帆川神社の境内にて。

解説
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 カラスの死骸ってあまり見かけませんよね。

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