[KATARIBE 29590] [HA06N]小説『宮司は整体師ではありません』

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Date: Wed, 07 Dec 2005 22:30:48 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29590] [HA06N]小説『宮司は整体師ではありません』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)
宿題編。
お題は
*<Role> rg[hukilabo]HA06event: 寝違えたので困っている探偵がこれからやる
ことについて話しかけてくる ですわ☆

でした。
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小説『宮司は整体師ではありません』
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登場人物
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 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
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「やあやあ、すみませんね。お茶まで出していただいて」
 帆川神社の社務所兼自宅の縁側に腰掛けた男は、にこにことした笑みを浮か
べて湯飲みを手に取った。男の身なりはお世辞にもきれいとは言えず、何とも
みすぼらしい印象を醸し出している。しわがくっきりとついたコートがそれを
さらに増幅していた。
 男は首を左の方に傾けたまま、笑みを崩さないでいる。その目は細く、何と
なく憎めない顔立ちをしている。
「……で、何しに来たんじゃ?」
 猛芳は彼の隣に座布団を置くと、あぐらをかいて座った。苦々しい笑みを浮
かべているところを見ると、あまりこの男を歓迎していないようである。
「いや、特にこれといった用事はないんですけどね」
「じゃあ、単にお茶をせびりに来たという訳か」
「率直に言えば。まあ、将棋の相手になってもいいんですけどね」
 男の答えに猛芳はふん、と息を吐いた。
「お前さんじゃ練習相手にもならんわい。それより、珍しくまともな格好をし
ているということは久しぶりに仕事でも入ったのか?」
 男は驚いて目を見開く。しかし、すぐにさっきほどのようににこにこと目を
細める。その間も首は左に傾いたままである。
「ご名答です。火川さん、探偵になれますよ」
「ふん。そんなんで探偵になれるんじゃったら、世の中探偵で溢れてしまうわ
い」
「ははは。それもそうですね」
 男は堪えた様子も見せず、軽く笑った。そして、ふとまじめな表情になると
顔を猛芳の方に近づけて、小声で囁いた。
「実はですね、これから関西で有名なある社長宅に行くんですよ」
 ほう、と興味を惹かれたのか猛芳も男に顔を近づける。
「社長?」
「ええ。社長です。さすがに名前は出せませんが」
「で、その社長がなんでお主みたいな冴えない探偵なんぞを呼ぶんじゃ?」
 冴えない、という言葉に男は口をとがらせる。
「これでも業界では結構名が知られてるんですよ」
「さよか……で、その社長が何の用なんじゃ?」
「いや、正確に言うと僕を呼んでいるのは社長夫人なんですけどね」
「社長夫人ねえ……どうせ、大事にしていたマルチーズだかなんだかが逃げ出
した、とかで大騒ぎでもしたのかの」
 男からの返事がないので、猛芳は顔を上げて男の顔を見た。
 男はぽかんと口を開けている。
「……どうして分かったんですか?」
 男の言葉に今度は猛芳がぽかんとした表情を浮かべた。
「図星かいな」
「そうなんですよ。いやあ、さすが火川さんだなあ」
 近づけていた顔を離すと、男は感心したように腕を組んで何度も頷いた。首
はやっぱり左の方に傾いている。
「さっきからずっと気になっておるんじゃがの」
 猛芳は男の顔を指さした。
「なぜに首が傾いたままなんじゃ?」
 男がその指摘に照れるようにして頭をかいた。
「いやあ、寝違えてしまいまして」
「これから社長夫人に会うのに?」
「ええ」
「そのままじゃ、困るじゃろうて。こんなところで油を売ってないで整体にで
も行ったらどうじゃ」
「いやあ、そうしたいのですが……」
「ですが?」
「財政が逼迫しておりまして」
 猛芳が苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、そのまま向こうに行くのか」
「いえ。だからここに来たんですよ」
 怪訝そうな表情になる猛芳。やがて、思い当たったのか彼は自分を指さし
た。
「ひょっとして、儂に治せと?」
 男は頷く。
「お前さん、儂の治し方を知らないわけじゃあるまい」
「ええ。知ってますよ。でも、整体に行く金はない、今すぐ治さないといけな
い、という状況じゃあここしか思いつかなかったんですよ」
 男は情けない顔をする。猛芳はため息をついた。
「ほんじゃ、やってもええけど……痛いぞ?」
「承知してます」
「先に言っておくが、怒るなよ?」
「はい」
 男は覚悟を決めて、背筋を伸ばすと静かに目を閉じた。
 猛芳は、やれやれ、と呟いて立ち上がると、彼の後ろに立って左の拳を彼の
頭にコツンと当てた。
 拳が当たったとき、男の体がビクリと反応する。
「行くぞ」
「はい」
 猛芳は心持ち弱く左フックを男の頭にヒットさせる。弱め、とはいえゴツン
という鈍い音が神社に響いて、男の体が横に倒れた。
「おい、大丈夫か」
 猛芳が声をかけると、男は殴られたところをさすりながら立ち上がった。
「……お、治ってますね」
 そう言って首を左右にひねる。さっきまで傾きっぱなしだった首はすっかり
治っていた。
「どうも、ありがとうございます」
 武吉に向かって男は頭を下げる。そして、ふと腕時計を見た。
「いけない。もうすぐ約束の時間だ。じゃ、火川さん、また」
「お、おう。気をつけてな」
 男は湯飲みに残っていたお茶を飲み干して慌てて駆けていった。
 猛芳は縁側に立ったままその後ろ姿を眺めていた。
「……殴って感謝されるというのも変な気分じゃの」
 そう呟くと、湯飲みを片づけ始めた。

時系列と舞台
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2005年12月。帆川神社にて。

解説
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素人の治療は危険です。

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