[KATARIBE 29589] [HA06N]小説『鳩に釣り糸』

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Date: Wed, 07 Dec 2005 00:50:16 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29589] [HA06N]小説『鳩に釣り糸』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
とか言いながら一時間かかってるあたりが何とも。
お題は
23:48 <Role> rg[hukira]HA06event: 絡まりすぎたテグスを持った鳩が眠って
いた ですわ☆

でした。
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小説『鳩に釣り糸』
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登場人物
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 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 鳩は公園の噴水の前で一匹悩んでいた。
 目の前にはごちゃごちゃになった半透明の糸の玉がある。その一部は鳩の右
足に絡まっている。先ほどからずっとその糸の玉が離れずにいるのだ。
 鳩は何歩か歩いてみたが、糸の玉は引きずられて彼の後に続く。それを何度
か繰り返しているのだが、相変わらず糸の玉は鳩の足から外れそうにない。
 鳩は羽を広げて羽ばたいた。体がふわっと浮いて、足が地面から離れる。そ
れでもやっぱり、糸の玉は彼の足にぶら下がっている。
 鳩はそのまま公園を離れ、山の方へと向かっていった。
 足に変な物がくっついているせいか、うまく飛べない。山の中腹にある神社
の屋根が見えた辺りで、鳩は疲れを感じてその神社の鳥居に止まった。
 神社の境内は静かで、風はなく、太陽の光はそれなりに暖かく。いつもと違
う、慣れない状況に疲れたせいか、鳩は珍しくこんな時間に眠気を感じて、い
つの間にかうつらうつらし始めた。
 しばらく静かに時間は流れ、やがて境内に一白が姿を見せた。
「あれ?」
 鳥居に止まっている鳩に気がついてその真下に駆け寄る。そして、見上げて
みた。
 鳩はゆっくりと前後に揺れている。
「わわっ、落ちそうだよう」
 一白は慌てて家へと戻っていく。程なくして、彼に袖を引っ張られて神羅が
連れてこられた。
「何やねんな、一体」
「ほら、あれっ」
 一白が指さした先を見る。
「……鳩やね」
「落ちそうじゃない?」
「でも、鳩やで?」
「むー」
 神羅は苦笑する。
「そない気になるんやったら、助けてやるか?」
「どうやって?」
「そんなんあそこまで行けばええやん」
 あっさりとした口調で言う。
「だから、どうやってあそこまで行けばいいんだよう」
 怒った顔を浮かべる一白。
 にやにやとした表情を浮かべたまま、神羅は一白の頭を叩くと、一白は本来
の姿である人型の紙に戻った。
「……しまった、書くもんがないな」
 神羅はその紙を拾い上げると、丁度肩の辺りに爪で「羽」と型を付けて、紙
に息を吹きかけた。
 吹き飛ばされた紙は宙を舞い、再び人の姿をとる。しかし、先ほどとは違い
型から鳥の羽が生えていた。
「もう、なにすんだよっ」
 一白が神羅に向かって文句を言うが、自分の体が宙に浮いていることに気が
ついて目を丸くした。
「うわっ、なにこれ!」
「羽。それより爪で書いただけやからすぐに消えるで」
 そう言っている間にも一白から生えている羽の輪郭がぼんやりとしてきてい
る。一白は慌てて鳥居の上の方に向かった。
 鳩が止まっているところまで来ると、驚かさないように後ろからゆっくりと
鳩を包み込んだ。
 その瞬間、鳩は目を覚まし羽ばたこうとする。それに驚いた、一白は鳩を捕
まえたまま体のバランスを崩したしまった。
「うわっ」
 姿勢制御がうまくできず、落下を始める。
 ぶつかる、と思って一白は目をつぶった。
 神羅は腕を伸ばし、一白の背中に触れる。再び一白は紙に戻りふわりふわり
と揺れながらゆっくりと地面に落ちた。
 そして、一白が捕まえていた鳩は急に解放されたものの、こちらも姿勢制御
ができず、落ちている途中で神羅が捕まえた。
「やれやれ」
 溜め息をついて、神羅は捕まえた鳩を見た。足に釣り糸が絡まっている。
「ほう」
 両手がふさがっているので、神羅は足で一白だった紙をつついた。
「……わあっ」
 人の姿になった一白が跳ね起きる。肩の羽はもう消えていた。
「起きたところで悪いが、家からはさみを持ってきてくれんか」
「はさみ?」
 首をかしげた一白に、鳩の足を見せた。
「分かった」
 一白は頷くと家へと駆けていった。神羅もその後を歩いて行く。
 玄関からはさみを持って一白が飛び出してきたとき、神羅は既に家の側まで
来ていた。
「持ってきたよ」
「じゃあ、切ってやって」
「うん」
 一白は慎重に鳩の足に絡まっている釣り糸を切っていく。その間、鳩は動く
ことなく神妙な顔つきで止まっていた。
「……終わりっ」
 絡まっていた最後の部分が切れ、糸の玉が地面に落ちると、一白はふうと息
を吐いた。
「ほんじゃま、放してやるか」
 神羅はしゃがむと、鳩を地面に置いてゆっくりと掴んでいた手を放した。
 拘束が解かれた鳩は2、3歩前に進み、止まった。そして、足下を見てから
再び数歩進む。
 どうやら足に絡まっていたものが取れていることを理解したらしい。今度は
羽根を羽ばたかせて浮き上がり、数メートル先で着地する。
 何度かその仕草を繰り返した後、鳩は大きく羽根を羽ばたかせて空へと舞っ
ていった。
「あ、行っちゃった……」
 その鳩の姿が見えなくなるまで一白は目で追い続けた。
「こんなんを捨てる奴がおるから、他の生き物が迷惑したりするんやなあ」
 神羅は地面に落ちていた釣り糸の玉を拾って、溜め息をついた。

時系列と舞台
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2005年11月

解説
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ゴミは自分で後始末を。
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