[KATARIBE 29584] [HA06N] 小説『楽しみで怖い日』

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Date: Mon, 5 Dec 2005 01:17:27 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29584] [HA06N] 小説『楽しみで怖い日』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年12月05日:01時17分27秒
Sub:[HA06N]小説『楽しみで怖い日』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
クリスマスの伏線というかなんというか。
まずはここから片付けよう。
というわけで……この話です。
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小説『楽しみで怖い日』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

本文
----

 誕生日は何時だっけと聞かれた。
 11月の8日、と答えた。

 まあ、自分以外の人に誕生日を祝って貰うなんて、あんまりなかったし(あ、
片帆は別。あの子は毎年きっちり祝ってくれてたから)、この年になると祝っ
てくれるってだけで有難いと思う。だから、プレゼントを貰えるだけで嬉しい
と思う。それは本当に。

 ……だけど。

 だけど、迷いも躊躇いも無く、『ああ、じゃ、酒買っとくわ』って言われる
のはどうかと思うんだよなあ……。



「だって一番喜ぶとおもったし」
 大根と厚揚げの煮物をつつきながら、相羽さんはあっさりと言う。
 そら、喜ぶのは確かなんですけど。
「嬉しくない?」
「いや、嬉しいけど」
 でも。
「多分、本宮さんが選ぶんでしょ?」
「ああ、俺だと飲めんし」
 全くその通り……で、相羽さんは酒が呑めない。ビール一口、日本酒お猪口
一杯で、それこそぱったりと倒れて一時間は起きない。これまでも時折『弁当
のお礼』とのことでお酒を貰うことはあったけど、大概大ザルの本宮さんが選
んだものだった。
 確かに、本宮さんの選んだお酒は、美味しかったけど。

「…………すげー贅沢言うけど」
「何?」
「相羽さんが選ぶものが、ほしーなって思った」
 我侭だって……自覚はあるんだけど。
 里芋の煮付けに伸ばした手を止めて、相羽さんが考え込む。
「……店先で寝るわけにいかんしねえ」
 って……そうじゃなくって。

「…………お酒じゃなくてもさ」
「……ふむ」

 本でも、漫画でも、音楽でも。
 他に色々、あると思うんだけど、なあ……。

「なるほどね」
「………………いいけど、別に」
「いや、わかった」
「…………別に、いいよ?」
「俺が選んでおくよ」
 
 ……まだお酒にこだわってるな、これは。

「お酒から、離れて……てのは、無い?」

 言って気がついた。
 そういえば一つだけ、欲しいかもしれない。
 ……絶対、無理だけど。

 お箸を置いて、相羽さんがしばし考え込んだ。
 
「んじゃ」
「ん?」
 でもどうせ、本とか、SF新刊とか、漫画の新刊かな……と思っていたら。

「プレゼントの代わりに、その日は休みとってとことんお前さんのいきたいと
こにつき合うってのは?」

 ……え?

「空でも、ね」
 
 つい、と、空を指差して、笑って。
 ……うわ、信じられない。

「…………のった」

 本当に、この人ってば信じられない。
 絶対に当てるの無理、と、思ってたことを、どうして一度で当てるんだ。

「ほんとに、それいいの?」
「ああ」

 相羽さんにとって、一番貴重で足りないものといえば、時間じゃないかと思
う。籍入れた時も2日続けての有給を取るのに相当苦労してたし、その後は数
日家に帰ってこなかったから。
 それを一日空けるってのは、贅沢なんてものじゃないって判るから、とても
言えなかったけど。
 うわ、ほんとに信じられない。信じられないくらい嬉しい。

「……ありがとう」

 頭を下げて、上げる。
 相羽さんは少しきょとんとしてこちらを見ている。
 その表情を見ている間に……ふと。

 ……でも、考えてみたら、これって相当に常識からずれてないか?

 相羽さんは忙しい人だ。だからこの人に対してはかなり無茶だ。それは事実。
でも、相羽さんに限らずとも……これって相当……変、じゃないのかな。

 籍を入れて、一ヶ月経ってない。ついでにこの人は、時々心配になるくらい
あたしに甘い。そこで怒って良いんだ、そこは怒るべきだ、そこで怒らないで
我慢してたら、後々愛想尽かされる理由にならんだろうか、と、いらんことま
で考えてしまうくらいには。
 だけど。
 普通、幾ら新婚だからって、相手の誕生日に有給取るって……
 …………やらない、んじゃないかなあ。
 少なくともうちの両親に知られたら、多分、両方から相羽さんに『離婚勧告』
が飛んできそうだ(そんな嫁なら要らんでしょう、の意味。当然)。

「……あの」
「ん?」
「ただ、仕事があったら、そっちを優先は当たり前だからね?」
「ああ、それはそれでね」
「それはそれで、じゃなくて、そっちが優先」
 当たり前のことだけど、念を押しておく。
 相羽さんは、それにはうん、と、軽く頷いた。
「仕事はいったら、休み返上だけど」
「うん」
「できるかぎりは休み取れるように調整するから」
 
 出来る限り……って。

「…………無理は、しないでよ?」
「してないよ」

 まあ、この人の場合、普段がそもそも無茶なんだろうけど。

「まあ、行きたいとことかあったら考えといてよ」
「……はい」

 もし本当に一日休みになるなら、どこかに出かけるのはかえって勿体無い。
出かける先のことが目的ではないから。
 ……でもそれって、休み損になるのかな。

「……相羽さん」
「ん?」
「一日、無為に過ごしても、大丈夫?」
 相当心配だったのだけど。
「そら構わないよ」
 苦笑しながら、相羽さんは頷いた。

 
 誕生日を指折り数えて待つのって、本当にもう、何年振りになるだろう。
 そう思うと同時に……でも、期待しすぎたら間違うな、とも思う。
 本当に忙しい人なんだから。休みが取れるかどうかも判らない人なんだから。

 誕生日。
 本当に、今年ばかりは。
 ……楽しみで、怖い。


時系列
------
 2005年11月はじめ。

解説
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 キャラチャから起こした話。
 相羽先輩、相変わらず極端から極端に走ってます。

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 てなもんです。
 まだまだ続きますええ。

 ではでは。
 


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