[KATARIBE 29573] [HA06N] 小説『お助け戦車』

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Date: Sun, 4 Dec 2005 22:16:33 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29573] [HA06N] 小説『お助け戦車』
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2005年12月04日:22時16分33秒
Sub:[HA06N]小説『お助け戦車』:
From:久志


 久志です。

激震三部作に続いて、先輩が史兄に立会いを頼むの図です。
(珍しくバツが悪そうに) 

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小説『お助け戦車』
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登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事部巡査。屈強なのほほんお兄さん。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

相羽 〜滅入る朝
----------------

 自分の所業というものを思い返してみて。
 いや、思い返さなくても既に大半は知られていることであって、その事実に
ついて否定はしない。自分と言う人間に対して抱くイメージと全く噛みあわな
い結婚という出来事に関して県警内でどう思われてるか。
 総務課での職員一同の視線からして、興味津々、といった感じかね。まるで
希少価値のある珍獣を見たいといった風情なのは良くわかった。まあ今までの
所業からすれば無理ないことだろうけど。

 出掛けに真帆と交わした会話を思い浮かべる。

『何時ごろ行けばいい?』
『ん、ああ。昼過ぎくらいにきてくれる。出る前に携帯に連絡入れてくれれば
いいから』
『諒解』

 答える声はやはりどことなく固くて、妙に神妙な顔で頷いている。

『んじゃ、いってくら』
『いってらっしゃい』


 気が重い。県警への道のりがやたらと遠く感じる。
 あいつが県警に顔を出して総務のお姉ちゃん連中がきゃあきゃあ言わないか
というと、それは無理な相談だ。想像するだに頭が痛い。
 そういうのをあいつがひどく嫌がるのはわかる。

 かといって、俺が頼んだら火に油とすると。

「まいったね」

 奴に当たってみる、かねえ。


史久 〜過ぎた時間と
--------------------

 なんだか時間というものはあっという間に過ぎていたり、ちっとも過ぎてい
なかったり、あいまいなものだと思う。
 去年の年末に六華さんを通じて真帆さんと出会って、今年の初めに相羽先輩
と真帆さんを引き合わせて。正直まだ一年も経っていないのが嘘のような気が
する。逆に言うと、それだけ彼らと一緒に過ごしたこの一年の内容が濃いもの
だったのだとも思う。
 先輩と真帆さん。難儀の二乗というか、似たもの同士というか。
 引き合わせた僕でさえ踏み込めない、強いつながりが二人の間にはあって。
互いに似ているがあるがゆえの反発と、理解しあっているがゆえの斬りあいと。
それでもなお、不思議なくらいに二人は互いに必要としあっていて。

 霧雨の日の事件。
 初夏の5月22日のあの日。

 互いを守る為に相手を斬り捨てようとする二人に対して、何もできない自分
の無力さを感じながら、ただ祈っていた。そして、あの日の出来事を境に憑き
物が落ちたように落ち着いたのを胸を撫で下ろしながら安堵したものだった。

 十月の初め、そんな二人が入籍した。
 最初に真帆さんと結婚すると先輩の口から直接聞かされた時には、あまりに
も唐突過ぎる出来事に唖然としたものの、これでよかったのだと思う。

 心に傷を負ったまま、刑事としてひた走ることでしか自分を保つことができ
なかった先輩。手負いの獣のようなあの人が、唯一必要だと言った人。不安定
で、難儀で、互いに惹きあっている似たもの同士な二人。
 二人の入籍は本当に心から祝福しているし、先輩の為にも真帆さんの為にも
良かったと思っている。

 でも、なんというか。野次馬というものはどこにでもいるものであって。


「……史さあ」
「はい?」

 昼休み。
 少し人がはけた県警の休憩所で、いい歳の男二人が向かい合って弁当を広げ
るというちょっと寒い構図で。
 普段の常に自信に溢れて、常に人を食ったような余裕のある先輩が、小さく
ため息をつきながら困ったような苦笑を浮かべて言いよどんだ。珍しいという
かありえないというか、変なものでも食べたのかと一瞬目を疑った。

「史さあ、ちょっと頼まれてくんない」
「……どうしたんですか、先輩」

 なんというか、先輩には悪いけど思いっきり不審だ。何かとんでもないこと
が飛び出してくるのかと思わず身体を固くする。

「まあ、実は……ねぇ」


 なんというか、まあ。
 県警内の噂の総元締め。総務課形埜大奥に真帆さんを見たいと言われた、と。

「……なるほど」
「なんというか、ねぇ。あいつ連れてっても総務課のおネエちゃん連中がきゃ
あきゃあ騒がないように、ちょっと睨みきかして欲しいんだけど……」
 普段の先輩に似合わず少し調子で、軽く頭を下げた。
 なんというか、思わずため息がでた。なるほど、この人を落ち込ませられる
のはこの世でただ一人。
「わかりました」
「悪いね」
「真帆さんの為でもありますから」
「……ああ」

 先輩がやり込められるのはまあ、普段の県警内での悪行に対する自業自得と
いうのもあるけれど。

「先輩」
「何?」
「悪名高すぎですよ」
「……身にしみた」
「まったく、身から出た錆というか因果応報というか自業自得と言うか」
「ああ……」

 とんだとばっちりですよ、全く。真帆さんも、気の毒に。

「ともかく、今日は総務課の子達は僕が抑えますから」
「…………すまん」

 なんと言うか、先輩がこんな風に殊勝に謝るのも初めてだ。
 まあ、うん。長い目で見ればいいことなんだろうけど。


時系列 
------ 
 2005年10月初旬。小説『変わらないようで変わること』の後。
解説 
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 県警に真帆さんを連れてこいといわれた先輩、史兄に助けを求めるの巻。
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以上。



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