[KATARIBE 29563] [HA06N]小説:『秋雨』

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Date: Sun, 04 Dec 2005 00:03:13 +0900
From: Aoi Hajime <gandalf@petmail.net>
Subject: [KATARIBE 29563] [HA06N]小説:『秋雨』
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 こんにちは、葵です。
 ちーとスランプでしたが、ぼつぼつ復帰を目指して。
 なんか、文がぐだぐだの気が(汗

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[HA06N]小説:『秋雨』
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 しとしとざあざあ、秋の雨は暗くて寒くってとっても憂鬱。
 今日は久しぶりの祝日でお休みなのに、なんにもする気が起きないのを、そ
うやって天気のせいにしてみる。
 昨日の夕方から降り出した雨は止む気配も見せずに一晩中降り続いて。
 憂鬱。
 でも、憂鬱の原因は天気じゃなくて別の所にあるってわかってて。
 わかっててもその原因をどうにもできなくて。
 ぐるぐると、まとまらない思考を転がしながら雨の雫が部屋の窓を伝うのを
ぼんやり眺めていたら、いつの間にか朝になっちゃってた。
 夜明けの薄明かりの中、幾筋も流れる雨滴の軌跡と一緒に電気スタンドの明
かりでガラスに映り込んでる……ひどい顔。
 ボサボサの髪にクマのできた精気のない眼の娘が毛布かぶって膝抱えてる。
 そっか……ゆうべ、髪洗ってブラシ入れるの忘れちゃったのか。
 まじまじとガラスに映った顔を眺める。
 ホントひどい顔、だよね。
 ……まったく、なぁにやってんだろなぁ……あたし。
 瞬きと同時に、ガラスに映った瞳から雨滴が一筋流れた。

 『きっちり、しないといけないのかな』

 キュッと拳を握って、少し先の地面を見つめる本宮君。
 生真面目で、優しくて、どっかおっちょこちょいで、でも一本気な……昔か
ら変わらないまま大人になった和久君。
 彼が決心したなら、ちゃんと彼女と話しをしてくるんだろう。

 どんな話? いいの? 和久君が他の娘に会いに行っても?
 それがどんな結果になるかわかってる?
 ホントは――。

 ――彼が真剣に考えて、悩んで、進もうとするなら、それを邪魔しちゃ駄目。

 胸の奥で騒ぎ出す『あたし』を、頭の中の『私』がねじ伏せる。

 『結論をあいまいに先延ばしにしないで、しっかり答えを出せるなら会って
あげたら?』

 どんな答えでも?
 いいの? それでも?

 ――彼がどんな結論を……出しても……それは……。

 『今、自分がどうしたいか』

 その言葉は誰に向かって放ったの?

 ――和久君に……いえ、あたしに……なのか……な。
 ――どうしたいかなんて、わかんない、わかんないよ……。

 嘘。
 嘘。
 嘘。
 本当はどうしたいか、誰よりも、一番よくわかってる。
 判ってるけど……。
 ……ああもうっ!。

 「う゛ー」

 混乱する頭を抱えて、温くなったヴォトカのロックを、傍らのグラスから喉
に流し込む。

 「まず……」

 飲み残しをそのままテーブルに戻し、ため息をつく。
 ほんと……うじうじと……なにやってんだろ……。
 白黒つけるなら、一言、言えばいいだけなんだよね。
 あたしが。
 良くも悪くもそれで決着つくのに。

 「怖い……のかな」

 彼の顔を見てると……つい、言えなくて。
 今の微妙な距離に甘えちゃって。

 「怖い……んだよね……もし、あの時みたいに」

 あの人。
 手紙一つで旅立ったあの人。
 ほんっっっとに、男って勝手なんだから。
 やっと、思い出にできたのに。
 一人でいいやってやっと思えるようになったのに。
 何時の間にか、こんどは和久君があたしの中にいて。
 また……あの時見たいにあたしの前から風のようにいなくなったら。
 ……それが。

 「みーことさんっ」
 「ひゃんっ」

 突然肩を叩かれて、あんまり驚いたから飛び上がって変な声出ちゃった。
 慌てて振り向くといつの間にか、後ろに片帆さんと知恵ちゃんが立っていて。
 ……不覚。
 彼女達が部屋に入ってきたの気づかなかったなんて……。
 如月流が泣くわ。
 でも何で片帆さん……が……。
 あ……今日は片帆さんを朝食に招待したんだった。
 重ねがさね……不覚。

 「どうしたんですか、一体」
 「落ち込んでいます」

 頭の上から片帆さんがのぞき込んで……知恵ちゃんが相変わらずのトーンで
ぴしりと指摘する。
 ちょっち……ヤバイところ見られちゃったなぁ。

 「え、あ、ごめん、CD聞いてたから……」

 慌ててヘッドホンはずして取り繕ってみたけど……。

 「CDって、コレの事ですか?」

 片帆さんの手の上でキラキラ光ってるのは。
 聞いてたはずのCD。

 「あ、あ、はは……」

 こりゃ……誤魔化しきれない……かな。

 「で、どーしたんですか、一体。 あたし達が入ってきたのも気づかない、
CD止まってるのも気づかない」

 毛布かぶってるあたしの前に回り込むと、ずずいっと迫る片帆さん。
 心配してくれてるのか……その、眼が据わってて。
 うう……駄目だ、今日は迫力負けしてる。

 「本宮さんが、女性からの手紙をもらって、出かけていきました」

 ……!?
 ちょっ、ちょっと待って、あの話はあたしと和久君以外知らないはずなのにっ。

 「ちっ、知恵ちゃんっ!? 何で知ってるのっ」
 「それは……ヒミツです」

 ピッっと人差し指を立ててにっこりと……。
 ……いっぺん、彼女の情報源調べる必要あるわね、大体想像つくけど。
 でも、当面の問題は。

 「……えーと、本宮さんて……ええと、本宮さんの弟さんのほう?」 
 「いや、その、あのね、何でも無くてですね」

 えとえとえと、誤魔化そうにも頭が回らなくて。

 「和久さんです」
 「あ、じゃ、弟さんのほうだ」
 「弟さんなんですね。 覚えておきます」

 って……ヤバイ、置いてかれてる。
 片帆さんの目が。
 だんだん細まって……。

 「ふ……ん……女性って……元の彼女とかそういう類の人なんですか?」
 「昔の友人だということです」
 「ふーん……友人、ですか」

 うわ……片帆さん……その……一丁事あらば斬るって眼は……怖いです。

 「その……昔、付き合いを断った娘、だそうです」
 「ふむ、なら、いーじゃないですか、友人でしょ」
 「友人、なら、ね……」

 和久君と彼女は友人、おそらくそれは間違いないんだろうけど。

 「だって、断わったのは、本宮さんなんでしょ?」 
 「うん……そう聞きました」
 「……で、尊さん、何心配してんの?」

 笑う、いや、嗤う、かな。
 一瞬、片帆さんの頬になんとも鉄火な笑みが浮かぶ。

 「あたし、本宮さんの、お兄さんのほーは知ってますけど、弟さん自身は知
らないです、でも、もし、本宮さんに一度振った子がもう一度『付き合って』
つーて言ってきて、さて、その気になるもんですかね?」

 たんたんたたんと小気味よく、啖呵を切る見たいにたたみ掛けてくる片帆さ
ん。
 そりゃ……。

 「ならない……と、思い……たい……でも、和久君、優しいから」

 和久君の目が、あたしに向いてるんで無ければ……その時は。
 嫌な想像はドンドンふくらむ方向で。

 「あー多分、それ無理でしょ、だって、うちの姉、それでぶっ刺されました
けど、刺した相手すっぱり振られてましたよ。 一旦振ったら、それこそ犯罪
者になっても良いわっ、てくらい好きだって示しても振られるんですから、大
概大丈夫でしょ」

 あっけらかんと。
 結構スゴイ話をサラッと話す、そ、そう言えば真帆さんは確か刺されて……。

 「た……確かに……そーいえば」

 考えてみれば相羽さんと真帆さん、ゴールインまでには色々あったんだっけ。
 いや、でも、その、ちょっと比べる対象が。
 ちがうんじゃ、と思ったんだけど。

 「それに」

 一気に言い切ってから一息ついて。

 「だって、尊さん女性として素敵だもん」
 「ちょっ……あの、片帆さん……」

 ……いやその。
 えと。
 そんなこと。
 正面切って言われたこと無いんで。
 あ、だめだ、顔が火照る。

 「で、でも……あたし……まだ、なんにも言ってない……和久君に」
 「言わなくても、惚れられる場合は惚れられるんですっ……てか、同情でふ
らふらするような軽い人なんですか?」 

 軽い人、その一言に一瞬血が逆流する。

 「そんな人じゃないっ!……とっ……ご、ごめん……なさい」

 いけない……つい……。
 でも、そんなあたしの一言に、片帆さん。
 してやったりと。

 「じゃ、なんで心配するんです?」 

 笑いながら、ことっと首かしげて。
 心配じゃ無かったら何? って。
 か、片帆さん、ほんっきで解らずにやってるのかな。
 こうまで明確に突き詰められたら。
 結論一つしか……。
 ああもうっ。

 「その……心配……じゃ無いのかもしれない」 
 「心配じゃ無かったら?」

 う゛ー……。
 今日は片帆さん、いぢわるだ。

 「耳……かして」
 「?」

 はいはい、って感じの片帆さんの耳に寄って。
 あんまり恥ずかしいからぽそぼそと。

 「や……き…もち…だったの……かも」
 「え?……えーと」

 ぱちくり、瞬き一回。

 「とりあえずそれ、あたしじゃなくて、本宮さんにゆーたほーが早くないで
すか?」

 あたし見つめて……こめかみこりこりと。

 「うう……でもそれ、その前に言うべき事が」
 「じゃ、それを言わなきゃ、だって、あたしが、尊さんがやきもちやいてるっ
て、知ってどーします」
 「……手伝いましょうか」 
 「あ、だめだめ。こういうのは手伝うものじゃないです」 
 「だめですか」
 「そら、きっちり、尊さんが、自分の口で伝えることでしょ?」 
 「そうなのですか?」 
 「こうやって、プレッシャーをかけてもいいけど、言うのは、本人ですよ」 

 うん、自分で伝えるべき事ってのは解ってるんだけど、解ってるんだけど。

 「でもでもっ……」 

 頭の中で色々理由がぐるぐる回って。

 「和久君より大分年上だし……外見こんなだし……」
 「大分て、本宮さんと、幾つ違うんです? 本当なら十歳くらい違うんです
か?」

 そう言われて慌てて計算してみる。
 えーと、たしか彼が高校3年の時にあたしが……。

 「えと……確か五つ……」

 ばんっ、とテーブルが鳴った。

 「ひゃっ」

 片帆さんがガラステーブルひっぱたいて。
 睨んでる……。

 「……すみませんが、それ、うちの姉に対しての攻撃と見なしますよ? う
ちの姉と、相羽さん、4歳違いますもん、ついでに姉のほーが上ですからね」 

 ひくぅい声で
 そういえば、そんなに違わないように見えたんだけど。

 「論理的に行きましょう、尊さん。 本宮さんに、他の女性のところに行って
欲しくない。でも自分は何も言いたくない。 さて、どっちが重要?」

 まっすぐ片帆さん見られなくて。
 どっちかって……そりゃ……。

 「重要なほうを優先するのが、筋というものです」

 静かに、諭すように。

 「何ぞ、論理に欠陥がありましたか?」
 「無い……です」

 そう……なんだよね。
 結局。
 あたしが……。
 言わないと。
 ……そうだよね、うじうじ悩んでても。
 けっきょく後で後悔するんだし。
 行動しなかった時の後悔は行動したときの後悔より深い、って誰の言葉だか
忘れちゃったけど。
 それを思い出した。
 片帆さんの……おかげかな。

 「では、年齢が上、と、駄々をこねられるくらいですので。 その年齢にか
けて、実行して下さいね」
 「ぁぅ……はい」

 でも、やっぱりちょっといぢわるだ。

 「おねえちゃん……やっとその気になってくれたですか」

 ……え。

 「きょっ……夾ちゃんっ、氷我利さんの所じゃ無かったの?」
 「おねえちゃんの様子が変だったから、戻ってきたのです」

 慌てて振り返った部屋の入り口に、ほんとにもう、って感じで腕組みして。
 夾ちゃん、昨夜から氷我利さんの所に泊まりに行ってたはずなのに。
 ……そか、夾ちゃんにまで心配かけてたか……だめだなぁ。

「さて、じゃ、知恵さん、夾さん、プレッシャー係お願いしますね」
「わかりました」
「ふぁいとです、おねぇちゃん」

 片帆さんに、夾ちゃんに、知恵ちゃん。
 三者三様に、まっすぐあたしを見つめて。
 その視線に、なんか……張りつめてぐるぐる回ってた頭が……。
 リセットされたような。
 張ってた肩から力すーっと抜けて。
 ……こりゃ……がんばらないと、ね。

 「やっと」
 「え?」
 「やっと元の尊さんらしい顔に戻った」

 すっと伸びてきた片帆さんの手があたしの頭にポンと乗って。
 ゆっくり撫でてくれて。
 あ……。
 だめだ、なんだか……眼が。

 「そういえば、色々もやもやしたときに、スッキリする良い方法をセンセイ
から聞きました」

 また、知恵ちゃんが人差し指をピッとたてて……。
 前野さんからってのが……ちょっと……怖いんだけど。

 「ちょっと耳を貸してください」

 知恵ちゃんの内緒話に耳を傾ける、あたし、片帆さん、夾ちゃん。
 その内容に、全員の顔が笑み崩れていく。

 「いかがでしょう」
 「いいんじゃない?」
 「おもしろそうですの」
 「じゃ、決まりですね」

 全員で頷きあって。


Epilogue
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 「かずひさくんのぉ……にぶちぃぃぃぃんっ!」
 「あいばさんのぉ……ぶぅぁかぁぁぁぁっ!」

 夕暮の浜辺に響き渡るあたしと片帆さんの絶叫。
 それこそ酸欠で目の前が暗く鳴るくらい長々と叫んで。
 大分寒くなった浜辺、さすがにこの時期の浜辺には誰もいなくて……もっと
も、誰かいたらこんな事出来ないけどね。

 「あースッキリした」
 「たまには……こんなのもいいですね」
 「片帆さん、静姉が秋新酒が入荷したって言ってたんですけど、これから如何ですか?」
 「いいですね、いきましょう」
 「じゃ、帰りましょうかっ」
 「ええ」

 真帆さんと顔見合わせて笑い合う。
 さて、勝負はこっからよね。
 がんばんなきゃ。

了

時系列
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 2005年秋、本宮君から手紙の相談を受けた後。

解説
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 えーと、最近弱弱です(ぉぃ

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