[KATARIBE 29546] [HA06N]小説『爺さん対乾電池』

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Date: Tue, 29 Nov 2005 01:39:14 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29546] [HA06N]小説『爺さん対乾電池』
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
01:43 <Role> rg[hukiloox]HA06event: 目を充血させた郵便配達のおじさんに
液漏れした乾電池がぶつかった ですわ☆

でした。爺さん対決シリーズ。
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小説『爺さん対乾電池』
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登場人物
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 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
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 冬が近づいているにしては、日光が暖かく風もないとある平日の午後。神社
に参ってくる人はなく、ひっそりと静まりかえっていた。
 猛芳は家の縁側に文机を出して本を読んでいたのだが、あまりの静けさと陽
気に、いつの間にか本のページを繰る手は止まり、頭がコクリコクリと揺れる
ようになっていた。
「……さん、……かわさん」
 誰かに名前を呼ばれて、はっと目が覚める。慌てて顔を上げると目の前に郵
便配達のおじさんが立っていた。
「おっと、こりゃ失敬」
 猛芳は照れ笑いを浮かべる。
「いえ、ところでハンコをお願いします」
 そう言う配達員の手には小さな小包がある。
「ああ、はいはい」
 よっこらしょ、と言って立ち上がり、家の奥へとハンコを取りに行く。
「はいよはいよ」
 すぐに戻ってきて、配達員が差し出す伝票の受取人のところにハンコを押し
て、彼に返した。
「……ん?」
 返すときに配達員と目が合い、猛芳はその目がやけに充血しているのに気が
ついた。
「目が赤いけど、寝不足かね?」
 猛芳に指摘されて、彼は苦笑を浮かべる。
「ええ。何か最近眠れなくて」
「ほう」
 そう言って猛芳は目を細めた。その配達員から何かしら妖しの気配を感じた
からだ。
「まあ、急いでなかったらちょっと休憩していきなさい」
「え? いや、でも……」
 言われて戸惑う配達員に座布団を勧める。
「そんな状態で配達続けてたら、事故を起こすぞ」
「はあ」
「お茶でも入れてやるから飲んでいけや」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
 そう言って配達員は座布団に座る。猛芳は奥に引っ込み、しばらくしてから
湯飲みを二つとせんべいの入った器を持ってきた。
「ほい」
 湯飲みを一つ差し出す。中にはほどよい温度の緑茶が入っている。
「あ、すみません」
 彼は一口飲むと、はあ、と溜め息をついた。
「で、寝不足の原因は分かってるのかね?」
 しばらくしてから、猛芳が尋ねた。
「はあ、それが……」
「それが?」
「いや、きっと見間違いだと思うんですけど」
「まあ、言ってみいや」
「……昼も夜も近くで乾電池が出てくるんです」
「乾電池? 乾電池ってあのアルカリとかの?」
「ええ。出てくるのはマンガンですけど」
 微妙に正確な描写にがくっと崩れる猛芳。それを見て配達員は苦笑いを浮か
べた。
「ただの幻覚ですよね」
「……いやいや、幻覚だったとしてもそれはそれで危ないじゃろう」
「……それもそうですか」
「で、その乾電池は今も見えるのかね?」
 そう言われて初めて気がついたかのように、彼は辺りを見回した。
「あれ、そういえばここでは見てません。さっきまではいたのに……」
「さっきまで、というのは神社の石段を上がるまで?」
「はい」
 その答えに猛芳はふむ、と顎に手をやった。
 やがて、配達員はお茶を飲み終えると、ヘルメットに手をやった。
「どうも、ごちそうさまでした」
「おう」
 そう言って、立ち去る配達員。その後ろを猛芳もついていく。
「あ、あの……」
「ん?」
「どちらへ?」
「いや、ちょっとその乾電池を見てみようかと、な」
「はぁ…… でも、他の人には見えないみたいなんですけど」
「ほう」
 そう言いつつ、石段を下りる。
 石段の麓にはよく見かける郵便局の車が置いてあった。
「で、その乾電池とやらは?」
 猛芳が尋ねる。
「あそこですけど……」
 配達員が指さしたところを見ると、確かにそこには黒いマンガン電池がポツ
ンと立っていた。端子部分がさびていて微妙に液漏れをしている。かなり古い
電池らしい。
「これはまた……」
 猛芳が呟くと、配達員は驚いた。
「えっ。見えるんですか?」
「おう。これでも神主じゃぞ」
 答えになっているようななっていないような返事をする。
 乾電池は配達員が近くにいるのに気がついたのか、ぴょんと大きく飛んで彼
の方に勢いよく向かってきた。
 猛芳が配達員の前に進み出て、その進行方向上に立ちはだかる。
「あ、危ないっ」
 配達員が声を上げるのと、ほぼ同時に猛芳は必殺の右ストレートを繰り出し
た。
 ガシャン、と音を立てて乾電池はへしゃげ、落下する。そして、地面にとけ
込むようにその姿を消した。
「よし。これで大丈夫じゃろう」
 そう言って猛芳が配達員の方を向くと、彼はあっけにとられた表情を浮かべ
ていた。
「おい」
 猛芳に声をかけられて、彼が我に返る。
「あっ、はい」
「これでもうあれに悩まされることもないじゃろ」
「あ、ありがとうございます」
 彼は深々と頭を下げる。
「また、何かあったらうちに来るとええ」
 そう言う猛芳にもう一度頭を下げると、配達員は車に乗って次の配達先へと
向かっていった。
「何か、最近へんなもんばかり殴っとるような気がするのぉ」
 車を見送ると、猛芳はそう呟きながら、石段を登っていった。

時系列と舞台
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2005年11月。帆川神社。

解説
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○爺さん vs. 乾電池(右ストレートによるK.O.)


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