[KATARIBE 29539] [HA06N]小説『迷子の人魂』

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Date: Fri, 25 Nov 2005 01:13:50 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29539] [HA06N]小説『迷子の人魂』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
って、もう三十分一本勝負じゃ(略

お題は
00:08 <Role> rg[hukira]HA06event: 一心不乱に呼び掛けてきている気がする
人魂が頭の上に乗っかろうとした ですわ☆

でした。
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小説『迷子の人魂』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 秋の日はつるべ落としとはよく言ったもので、さっきまで夕日が西の空に浮
かんでいたと思っていたら、いつのまにか辺りは薄闇に包まれていた。
 丁度、夕方と夜の境目辺り、明かり無しで十数メートル先の人がはっきり分
かるかどうか瀬戸際の時間帯だ。
「ぼうやー ぼうやー」
 そんななか、学校帰りや会社帰りの人たちで賑わう通りの上空から声が聞こ
えてくる。もっとも、普通の人には聞こえない類の声である。上空を見れば、
何やらほのかにオレンジ色に光るものが宙に浮かんでいるのを発見できただろ
うが、道行く人は冬の寒さのせいか、俯きがちに足を勧めている。
「ぼうやー どこに行ったのー?」
 神羅はイヤホンから聞こえてくる音楽の隙間に混じったその声に気がつい
て、顔を上げた。
 同じようなことを繰り返しながら、オレンジ色の光は、神羅の前を行く少し
背の高いサラリーマンの頭の上辺りまで高度を下げていく。地面に近づくにつ
れて、オレンジ色の光は実は炎の固まりであることがはっきりと見えてきた。
「ちょっと休憩しようかしら」
 その言葉に慌てた神羅は足早にそのサラリーマンの元へ近づくと、頭の上に
着陸しようとする火の玉を素手でかっさらった。見た目は火だが持っている手
は熱くない。
 彼の行動にいぶかしげな表情を浮かべたサラリーマンに対して、神羅はぎこ
ちなく笑みを浮かべると、
「いや、ちょっと大きな蛾がいましてね」
と言って、駆け足でその場を去った。その間、火の玉はジャケットの内側に隠
している。火の玉から「何すんのよ!」とか文句が聞こえてくるが、とりあえ
ず無視。
 いつもの通り道から少し離れた公園にまで来ると、辺りに人がいないのを確
認して神羅はその火の玉を外に出した。
「あぁ、苦しかった……って、何よいきなりっ」
 よく見ると火の玉はときどきぼんやりと女性の顔を形作っている。
「……人魂か」
「そうよ」
 いきなり連れてこられたのが気に障ったのか、不機嫌な表情である。
「まあ、何にせよ、いきなり人の頭に乗ってみいな。端から見たら急に頭が燃
えたように見えて大騒ぎやで」
「……そういや、そうね」
「で、ぼうやって?」
「ぼうやってぼうやよ。アンタそんなものも知らないの?」
 つっけんどんな言い方に神羅は苦笑を浮かべる。
「要は、息子とはぐれたわけ?」
「そうよ」
 親子の人魂というのもいるのか、と神羅は思ったがこの状況だと何を言って
も、突っかかられそうなので言わないでおく。
「で、どこらへんではぐれたん?」
 そうね、と人魂は上を向く。どうやら、思いだそうとしているらしい。
「確か、神社に行こうとしてた時ね。急に風が吹いて、気がついたらぼうやが
いなくなってたわ」
「どこの神社?」
「なんて名前だっけ…… この近くの山の中腹にある」
「帆川神社か」
「そう。そんな感じ」
「とりあえず、そこに行こか」
「行こか……って、ついてくるつもり?」
 神羅の言葉に人魂はあっけにとられた表情を浮かべた。
「ついてくるも何も、ワシの家やし」
「……あ、そう。じゃあ、案内よろしく」
 そう言って、人魂は神羅の頭の上に乗った。端から見たら頭が燃えている人
の完成である。
「いや、頭に乗っかられると普通の人が見たら驚くから」
「あら、肝っ玉が小さいわね」
「肝っ玉の問題ではないやろ」
 人魂はしぶしぶ神羅の頭から離れると、今度は左手に乗った。
「ここならいいでしょう?」
「頭に比べたらな」
 既に真っ暗になってしまった道を歩く。しかし、人魂を持っているために神
羅の周りだけはぼんやりと淡くオレンジ色の光に包まれていた。
 道の途中では特に会話というものもなく、人魂を持って黙々と歩く。今なら
殉教者かなんかに間違えられそうだと神羅は苦笑いを浮かべた。
 帆川神社の石段は中腹の踊り場に蛍光灯があるだけで、普通はそこ以外は
真っ暗である。しかし、今日はその途中にある石灯籠の一つに明かりが点って
いた。
「ん? 今日は特に何もないはずやけど……」
 神羅がその灯籠を覗き込むのと同時に、手に乗っていた人魂が声を上げた。
「あらっ ぼうやじゃないのっ」
 その声に灯籠の中の火が揺らめいて外に出てくる。
「ままー」
「ぼうやー」
 大小二つの人魂は互いにくるくると回りあって再会を喜んでいる。
「見つかって良かったな」
 さっきまで神羅の手のひらにいた大きい方の火の玉が動きを止めて神羅の方
を向いた。
「……特に何かしてもらったわけじゃないけど、とりあえずお礼を言っておく
わ」
「はいはい。どういたしまして」
 そして、苦笑を浮かべた神羅の周りを二つの人魂はくるりと旋回して遠くへ
飛んでいった。
 先ほどまで人魂のおかげで明るかった周囲が一気に暗くなる。踊り場の蛍光
灯がやけに頼りなく見えて、神羅はいつもよりゆっくりと石段を登っていっ
た。

時系列と舞台
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2005年11月。

解説
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人魂も迷子になるのでしょうか?

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