[KATARIBE 29538] [HA06N] 小説『変わらないようで変わること』

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Date: Fri, 25 Nov 2005 01:10:56 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29538] [HA06N] 小説『変わらないようで変わること』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月25日:01時10分56秒
Sub:[HA06N]小説『変わらないようで変わること』:
From:いー・あーる


 ども、いー・あーるです。
 ……よく考えたら、真帆の苗字変えて初めて、真帆の一人称だなーと。
 (で、これかよって突っ込みは無視だ<おい)

****************************************:
小説『変わらないようで変わること』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
 相羽真帆(あいば・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

本文
----
 籍を入れた……と言っても。
 そりゃ、変わったことは、あるけれども。
 それに、確かに扶養家族に入るわけで、そうすると色々変わってくるものは
あるんだろうな、とは……確かに思ったけど。

 …………思った、けども。

         **

「…………で?」
 夕御飯を終えて、お風呂を終えて、その後で相羽さんは新聞を広げる。丁度
こちらも洗い物が終わる頃だから、何となく一緒に本読んだり、何となく話し
たりするんだけど。
 ちょっと今日の場合は……違うわけで。
「…………本人確認がいるらしくて、ねえ」
 暫く口ごもっていた相羽さんが、溜息混じりに言う。
「そんな書類、聴いたこと無いけど」
「…………俺もない」



 日曜日に届を出して、月曜日は普通どおり出勤。
 別に内緒にすることでもない、とは思ったけど、でも。

「相羽さん、籍入れたって……あんま表に出さないでね?」

 今でこそ毎度のことだからなんとも言われてないらしいけど、お弁当を作り
出した時も、相当噂になった……と聞いたから。

「……ああ、うん」
「書類とか、手続きとかあるだろうから……それは仕方ないけど」

 というか。
 そもそも、籍を入れたの何のって、同じ部署で仕事してる面々に言うならと
もかく、そんなに周りに言ってまわるものじゃないと思うし。

「何か相羽さんだと、妙な噂になりそうなんだよなあ」
「気をつけるよ」

 妙に神妙な顔でそう言うもんだから、ああこれは思い当たるところがあるん
だな、でも、だから気をつけてくれるよね……と、思って。

 で。

 帰ってきた時には、何だか妙な顔になってたから、一体どうしたのだろうと
思ったのだけど。



「…………で?」
 自分でも、かなり恨みがましそうに睨んでいるとは思う。思うけど。
「…………そうでもせんと、さ」
 相羽さんは困ったように目をそらしてぼそぼそと答える。
「…………県警全般に広まりそうで、ねえ」

 何だその、『県警全体に』ってのは。

「……相羽さん……」
「…………なに?」
「ほんっと、日頃の行い悪すぎ!」
 睨み据えると、相羽さんは溜息をついた。
「…………それはホント、身にしみた」

 それは、まあ。
 県警内部で刑事課で、それも優秀なんだからそれなり知られているのは判る
けど。
 でも、年齢考えたって、別に結婚するのが変な年齢じゃないし、むしろ普通
だし、そんな取り立てて驚くようなことじゃない筈なのだ。

 ……普通なら。


 おネエちゃんマスターの呼び名を、あたしも知っている。
 知ってるどこじゃない、最初に会った時から、その手口やら何やら、丁寧に
聞いた憶えがある(まさかその時は、その人と家族になるとは思ってなかった
けど)。

 悪辣だったと、相羽さんな自分で言う。
 悪辣には意味があったと、あたしには思えるけど……まあ、手法としては悪
辣にならざるを得ないもので。
 そうやって、綺麗なおネエちゃんをころころ何人も手玉に取っていたこの人
が……ってったら、確かに噂になるだろうけど。

 けど。

(だから尚更嫌だ)

 あんたなんか、と、言われた。
 あんたみたいな女が、と、言われた。
 ……正にその通り。返す言葉なんてない。
 
 普通にこうやって話している限り、少しも気にはならないけど、でも。
『おネエちゃんマスター』と自分、と、考えると、それはもうえらい不釣合い
なのは確かで。

 つい、考える。
 そら、女性失格は今に始まったことではなく、ついでに今初めて言われたこ
とでもない。だからたいしたことじゃない。
 だけど。
 
(相羽さんもあの程度の奴しか選ばなかったか)
 
 そう思われたら……それは一番、辛い。
 何よりも、相羽さんに申し訳無いと思う。

 

「約束、したんだよね」
「…………まあね」

 総務課の人に、言われたのだという。
 入籍したことは秘密にしておく。その代わりにつれて来るように、と。

 信用は、出来る、と相羽さんは言う。
 それならば多分……話は抑えられるのだと思う。
 何より、そうやって約束して……それで今日、情報が流れることを抑えて貰っ
たというのだから。

「……行きますよ」

 溜息が、出る。

「……悪かった」
「ほんっとにそう思ってるっ?!」
 顔を上げて、睨む。
「…………すまん」

 先に出したお菓子に、手がついてない。
 ……何だかほんとに……困らせてるのかもしれない。

「ちょっと顔見せたら、すぐに帰すから」
「それで、いいのね?」
「うん」

 ぱっと見るだけでいいのだ、と、それはそう言われたらしい。

「……きゃあきゃあ言われたら、すぐ帰るから」
「……了解」
「ほんっとに、厭なんだからね!」
「…………悪かった、ホントに」

 溜息まじりに相羽さんは言う。
 だから……大丈夫かな、と思ったら。
 
「変に騒がないように俺から頼んどくから」
「駄目それ!」

 この人も判ってるようで判ってないっ。

「相羽さんが頼んだら、余計悪いじゃないか!」
「そう、かね」

 …………なんかこう……相羽さんて、判ってない、絶対っ。

「お茶、変えてきますっ」
「あ……うん」

 手も付かないうちに冷めたお茶を取り上げて、台所にゆく。
 相羽さんはやっぱり、具合の悪そうな顔をしていた。

 お茶を入れ替えながら、ふと思いつく。

 県警に行くなら。
 県警というより、相羽さんの働いてるとこ見たいとは、思ったことがある。
 総務課に行くついでに……ってのは、無理、かな。

 入れなおしたお茶を持って。

「………………相羽さん」
「ん?」
「あの」

 言いかけて……ふと、言葉に詰まる。
 
 公私混同、になるだろうか。
 いや、よく考えれば総務に行くのも公私混同なんだろけど、でも一応はそこ
に『必要性』がある。
 刑事課に行くのは……本当に何の『必要』も無い。

「どしたん」
「……あの、無理なら無理でいいんだけど」
「うん」
「いあその、無理ならほんと無理でいいんだけどっ」

 無礼だろうか。仕事に関わることに近づくなと言われるだろうか。

「…………刑事課の方に、お会いしたいなって」
「……ああ」

 下を向いていたから、そう言った時の相羽さんの表情は判らない。ただ、決
して怒ってはいない、とは思った。
 ……そう、聞こえただけかもしれないけど。

「あそこらへんには、紹介しておきたいね」

 何でもなげに。
 相羽さんはそう言った。

「えっとあの、無理ならいいし、普通そんなことしないならいいしっ」
「いや」
 湯飲みを片手に、相羽さんは苦笑した。
 ようやくお菓子に手を伸ばしながら、言葉を続けて。
「……俺が学生の頃から世話んなった人とか、いるから」
 何となく、その……意味が、判る気は、した。

「紹介したいけど、いい?」

 あたしには無い『理由』と『必要』。
 それを、相羽さんが差し出してくれている。

「…………はい」

 頷いた頭を、ぽん、と、撫でる手。

「じゃ、そのように、いっとくわ」
「……はい」

 
 今までも一緒にここで暮していて。
 でも、確かにこの人の家族になったんだなと思った。

 紹介し、紹介される。
 そういう家族になったんだな、と。


「お茶、お代わり貰っていい?」

 相羽さんが湯飲みを差し出した。

時系列
------
 2005年10月初旬。『余震波及効果(?)』の夜。

解説
----
 激震三部作(なんだよそれ)の最後。
 まあ……色々あるわけで。
************************************
 てなもんです。
 であであ。
 


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