[KATARIBE 29536] [HA06N] 小説『余震波及効果(?)』

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Date: Thu, 24 Nov 2005 00:24:40 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29536] [HA06N] 小説『余震波及効果(?)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月24日:00時24分40秒
Sub:[HA06N]小説『余震波及効果(?)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ネタはあるんだ腐るほど。
ちゃっちゃと処理してしまいたひ…………
な、わけで。
結構自分では好きな、千尋を引きずり出します。

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小説『余震波及効果(?)』
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 登場人物
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  形埜千尋(かたの・ちひろ)
   :吹利県警総務課職員。県警内の情報の元締め
  石垣冬樹(いしがき・ふゆき)
   :吹利県警刑事課巡査部長。刑事課一番の『一般人』

本文
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 動ぜざること、千鈞の岩の如し。
 その呼び名は……まあ、伊達ではない。

       **

 一応昼休みも後半。
 弁当を片付けて、ついでではないが目の前の処理済の書類を手にとって。
「ちょっと刑事課行ってくるねー」
「はーい」

 仕事休みと言っても、会ってなきが如し、な課である。
 廊下を通って、何度か曲がって。
 軽くノックをして、扉を開ける……と同時に。

「えええええっ?!」

 思わず扉のところで後ろに仰け反るくらいの声が響いた。
 

「また、なんかえらいノリのいい驚き方だね」

 声を、いわばやり過ごすようにして入る。

「どーしましたん、石垣君」
「いえ、あの、あ、あ、あの」

 千尋はちょっと首を傾げて周りを見る。
 驚いている顔が……ひのふのみ、と数えて、ああ成程と納得。

(つまりさっきの情報を、こっちで流した、と)

 恐らく……というより確実に情報源な一名だけは、割合に平然とした顔のま
ま、何やら整理している。揃えて片付けて……こちらを見て。

「書類、ですか?」
「いやまだ、相羽君のは用意してるところ」
 ああそうですか、と、頷くと同時に立ち上がる。

「いこか」
「ええ」

 やはり終始平然としたまま出てゆく後を、頭を抑えながら史久がついて行く。
それでも返事が平然としているあたりは、流石ではある。

 ぱたん、と扉が閉まった途端、何となく一同がほっと溜息をついた。

「つまり……相羽君の爆弾ですか」
「そっちは知っとったのか」
「一応総務で、伏せ情報としてますけどね」
「……ああ、書類があるか」
「そういうことですね」

 刑事課の一番長老が頷くのに、一緒に頷いていた千尋は、ひょいと視線を動
かした。
 驚きながらも、ふむ、と納得した顔。何となく呆れ半分な顔。
 そして……とにかく驚きまくってる顔。

「ってーか、石垣君、何をそこまで驚いてんの」
「いえ、あの、あ、あ、あの、ですが」
 わたわたっと、両手を動かす。とにかく驚いて言いたいことは山ほどあるの
だろうけど、言葉が追いつかない、とでもいうように。

 ……それにしても。

「あのねえ、石垣君」
「は、は、はい」
「相羽君が電話一本でたったか帰ったってのは、君の報告だったよね?」
 七月のはじめ。電話を受けたとたん、顔色を変えて帰っていった、その様子
がただ事ではない、と、わざわざこちらに話してきたのは彼であった筈だが。

「……やはり、あの時の……」
「他に居ないでしょ」
 というか、あれで他の女性と入籍、と聞いたら、そちらのほうが千尋にした
ら吃驚である。

「……でも、よもや結婚とは」
「なーにいってんの」
 確かに。
 一度、かんくさんで見たからこちらも驚かないのかもしれない、とは、千尋
も思う。それにしても。

「毎度毎度、帰る間際に電話してたって言うじゃないの」
 それも彼から聞いた話である。
 考えてみたら、向かいに相羽、横に史久の布陣では、どれだけ驚いても彼は
その驚きを表明出来ない。それでわざわざこちらに言いに来たのか、と、今更
ながら千尋は納得した。
「…………ええ」
「そんなこと、あたしだってうちの子供にしかやんないわよ」
「それは……」
 そうですが、と、声が小さくなる。
「つまり、家族、もしくはそれに準じる人が、家にいるってことでしょうが」
 互いに家族もちである。そこらの感覚は判るのだ。
「……あの相羽さんが」
「そういうことも、あるからね」
 溜息をついて、千尋は書類を持ち直した。

「ってかね、基本、あたしの情報は貴君から得てるのに、どうしてそこまで驚
くかねえ」
「いえ、あの人の色々を考えると……どうにも」
 ぼそぼそ、と、語尾は消える。
 まあ……それはそうかもしれない、と、千尋も思う。というより、思わない
ほうが多分珍しい。
 が。

「石垣君、そいえば、こういう言葉があるのだよ」
「なんでしょう」
「愛とは、美しい誤解である」
「………………」
 がっくりと肩を落とす石垣である。
「……こう、微妙に納得できてしまうのが」
「でしょでしょっ」
 やーやっぱり妻帯者だねえ、と、千尋が笑うのに、石垣は何となく憮然とし
た。

「まあ、だから、いーのよ。相羽君の奥さんが誤解で結婚してたって」
「……ええ、まあ」
「誤解も押し通せば真実になるわな」
「…………」
 もかもか、と、口元を動かす。何か言いたいのだろうが、言い返せない、そ
んな表情をきっちり読んで、千尋は手をぱたぱたと振った。
「そんなもんよ」

 誤解を押し通すだけの気力、そして信用。
 それもまた……一つの真実ではないだろうか。

 はあ、と、石垣が息を吐く。

「つか、相羽君、相手の名前言ってった?」
「いえ、何も」
「貴君からの情報を整理するに、彼女さんの旧姓も名前も、あたしには判る気
がするんだけどなあ」
 ああ、と、流石に石垣が頷いた。
「…………あの、噂の」
「軽部真帆さん。あの、刺された人だろうね」
 くす、と、千尋は笑った。
 確かに、と、神妙な顔になって石垣が言う。
「……あの後から、ですよね。相羽さんが変わったのは」
「あの後、というか、あのさなかというか」

 第一報が入った時には、どちらかというと史久のほうが動揺していた、と、
情報網からは入ってきた。けれどもその後、朝に夜に昼に、と、とにかく時間
が空けば病院に行っていた図というのは……特に相手が相羽であるだけに……
相当噂になったものだ。

「「知り合いが刺されたくらいで、あの相羽君がほこほこ病院で時間を潰すも
んかい」
「……毎日通ってましたからね」
 何となく遠い目をして、石垣が呟く。
「思わず目を疑いました」
「で、そういう相手が、あの相羽君に……一人以上居ると思う?」
「いませんねえ」
 見事に即答した相手に、片手をひらりと上げて見せて。
「以上、証明終わりっ」
「…………」
 途端に、またもや納得してない顔になった石垣である。

「…………相羽さんが、結婚」
 はーっとつく息と同時に、言葉を吐く。
「……それがそこまで不思議?」
「不思議、というか。相手がどんな人なのか、とても興味あります」
「そうでしょ、そうでしょっ」
 思わず乗り出した千尋に。
「…………あの狼みたいな相羽さんを」
「見事に手懐けてるからねえ」
「見てみたいです、一度」
 石垣がふかぶかと頷く。
 ……考えることは、皆一緒である。

(ある意味、奥さん可哀想だよね)

 相羽に恨みはあれども(というか恨みというとあまりに大袈裟なのだが)、
奥さんのほうには一切無い。それでも県警で相羽を知っている人間なら、誰し
も『その奥さん見たい』となるに相違無い(会いたい、でないところがまたミ
ソである)。

(……ま、相羽君のお手並み拝見だわな)
 少々無責任なことを考えながら、千尋は笑った。

「まあ……一度は刑事課には行くんじゃない?同僚だしさ」
「……紹介してもらいたいものです」
 やはりふかぶか、と、石垣が頷く。

       **

(さーて、どうするのかね)

 動ぜざること……というなら、普段は相羽も相当動じない。それはもうこの
野郎と思うくらいに動じない。
 のだが。

(これは相当、弱味だもんねー)

 刑事課から総務課へ。
 足取りも軽く千尋は戻ってゆく。

(さて……と)

 どうしようかね、と、千尋は呟いた。
 それはそれは……楽しげに。


 動ぜざること千鈞の岩の如し。
 この勝負に関しては……とりあえず千尋の勝ちのようでは、ある。

時系列
------
 2005年10月。『地域限定の激震』の続き。

解説
----
『県警で敵に回しちゃいけない人ベスト3』のうちの2名の勝負。
 流石に唯一のウィークポイントを突かれると、勝利は難しいようです。
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 てなもんで。
 ではでは。
 


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