[KATARIBE 29532] [HA06N] 小説『服装と立場と』

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Date: Sun, 20 Nov 2005 00:52:38 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29532] [HA06N] 小説『服装と立場と』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200511191552.AAA15389@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年11月20日:00時52分38秒
Sub:[HA06N]小説『服装と立場と』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
色々書き溜めたのをごそごそあさっておりましたら、何故かこのようなものが、
ほぼ完成状態で発見されました。
どうして完成状態間近なのに忘れていたのかと言えば……多分真帆の呪いじゃないかと(汗)

ってんで。一応、流します。
籍入れる前の、話になります(だからまだ『軽部』です)。

****************************************:
小説『服装と立場と』
===================
登場人物 
--------
 本宮和久(もとみや・かずひさ) 
     :吹利県警生活安全部巡査の生真面目さん。豆柴が定着。
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。相羽宅の現在住人。


本文
----

 某日昼間。
 豆柴君に呼び出しを受けた。
 お願いします、少しの間だけですから、遅くなりませんから、と、何だかと
ても気弱な声で県警前のコンビニの前に呼び出されて。

 …………で。

 何故かどうしてか、手元にあるのがメイド服だったりする。

           **

『何か……ものはとてもいいじゃないですか。布もしっかりしてるし……』
『だから、捨てられないんです』
 何となく涙目のまま、豆柴君は大きな紙袋を見やる。
『ちゃんとクリーニングに出してあります。すぐにでも着れます』
『いやその……』
『丈とか……少し長めですけど、多分手直しとかしたら、着れると思います』
『うん、大きいのを縮めるのは出来るからね……でも』
『……もらってやって下さいませんか』

 ……いや、もらうのはいいんですけどね。
 で、どうしろと。

『真帆さんだったら似合います』
『まて』
『絶対似合いますっ』

 …………ええとつまり。

『本宮君』
『はい?』
『……似合うーって言われて大笑いされた?』

 見事なまでにどっぷり落ち込んだ姿が、印象的な豆柴君ではあったのだが。

 が。


 そうやって下さったからには……こちらもちゃんと着用可能にしないと申し
訳無い気分になるじゃないか。


「うーん」
 家に帰って、袋から出して広げてみる。ベタ達が両側から不思議そうに見て
いる。
 黒の、しっかりとした布のワンピースと、少し生成りがかった色の白いエプ
ロン。ワンピースは単体だとピアノかなんかの発表会に使えそうなAライン。
結構半端じゃなく丁寧に作ってある。
 一応着てみると、肩幅とかあちこち大きいのがよく判る。ただ、これなら多
分手を入れれば着れる……んじゃないかな。
「やってみるか」
 針箱を引っ張り出して、糸があるのを確かめる。手縫いになるけど……まあ
大丈夫だろう。
「あーこら、それ危ないから触っちゃ駄目」
 つくつん、と、針を突っつきに来たベタ達に注意して、針に糸を通す。
 ……何か久しぶりだ。こういうことやるのも。

           **

 途中、夕食の支度をしに買い物に行って、下準備等、出来ることは全部やっ
ておいて。
 そして一気呵成に仕上げる。最後にアイロンだけかけて。
「あ、案外ちゃんと入る」
 袖が少し長かったが、肩口もカフスの部分も綺麗に仕上げてあったので動か
すのはやめて、代わりに少しだけカフスボタンをきつくする。
 襟ぐりを縮める必要があるかと思ったんだけど、そこまで大きくくれてない。
豆柴君にはこれ、ちょっときつかったかもしれない。
 本体はAライン。流石にこれは多少手を入れたけれども。
 そもそも結構これって男子にはきついはずなんだけど。
 ど。
 
 何となく豆柴君の涙目を思い出す。
 ……まあ、あんまり考えるのはよそう。

「……こんなもんかな?」
 黒いワンピースは、着てみると確かに、ピアノの発表会か何かに似合いそう
な出来で。そこにエプロンをつけても、かなり上品なものになる。
 独り言の積りの言葉に、横で見ていた(途中で退屈したのか二匹でおっかけっ
こしてたけど)ベタ達がうんうんと頷いている。
 貰った袋を逆さにする。と、中から白い小さな布の塊が出てくる。広げてみ
ると、レースを寄せた細幅の……
「ヘッドドレス、だっけ」
 どうやってつけるのかと思ったけど、豆柴君が困らない程度に簡単な作りに
なっている。案外これは楽だ。

 ……って。

「昔の人は、こんな服着て掃除して……たわけないよな」
 袖が少し余るのはともかく、スカートの布の量が結構ある。これだけしっか
りした布で、それもこれだけたっぷりしてたら。
「掃除のたびに、何かスカートで叩き落としそう」
 そこは流石に豆柴君が着てただけあって、なんと言っても丈が長い。足首く
らいまで長さあるし。
 しかし。
 これ着て、豆柴君どんな仕事してたんだろうと思うと……
 ……それが一番怖い。

「あ、それで思い出した」

 仕事→事件、と連想。新聞取り込むの忘れてた。取り込んだ新聞は折りをな
だめて置いておくのが普段。相羽さんはご飯の後に必ず読むから。
 ベタを二匹後ろに従えて、玄関に行く。さて、と、つっかけに足をつっこん
だところで。

 かちゃん、と、鍵が回る音がした。

         **
「…………っ」
 思わず二三歩後ろに下がりつつ、腕時計を見る。
 うん、いつもより軽く三時間は早い。
「…………」
 珍しく、明確に『驚いた』と顔に出して、相羽さんがこちらを見ている。
「あーーー…………」

 いや、驚いたとは思う。ワンピースはともかくエプロン、それにヘッドドレ
ス。もう否応も無くこれってメイド服だもの。普通こんなもの着ない。
 驚くと思う。思うけど。
 え……えっとえっと。

「いや……えっと、豆柴君から、貰って、この服」
「あ……ああ、あれ、ね」

 そっか。相羽さんも知ってる仕事だったのか(ってどんな仕事なんだ)。

「布も作りも捨てるのには勿体無いからって、貰ったんで……」
 玄関の扉だけをきっちり後ろ手で締めて、相羽さんは無言でこちらを見てい
る。
「ちょっと縫い直して」
 あの、黙ってじっと見るのは勘弁して欲しいなあとか……てかっ
「…………着替えてくるっ」
 踵を返して、走りかけた……途端。
 ぐ、と、両肩を捕まれた。

「な……」
 思わず振り返った先で、相羽さんは何だか妙に嬉しそうに笑っている。
「な、なにっ」
「いや、違和感ないなあってねえ」
 言葉と同時に、わしわしと頭を撫でる。くつくつと笑い声が続く。
「…………それって日頃からメイド扱いってこと?」
 そら、やってることは掃除洗濯ご飯の用意、メイドつったらそうだけど。
「いや、働き者っぷりがよく似合う」
「…………っ」
 嫌味かそれはっ。
「いいです、似合ってないから、着替えてくるからっ」
 えい、と、掴まれた肩から手を外そうとしたんだけど。
 ……なんでこの人はこうも力が強いんだ。
「似合ってるよ?」
「…………っ」

 何でこの人、こんな嬉しそうな顔してんのかな。

「着替えてきますっ」
「いいって」

 後から考えると……そらまあ嬉しそうにされるのもなんだけど、こちらもそ
こまで意地になるこたなかったよな、とは思う。
 思う、けど。
 えらい嬉しそうな顔してる、相羽さんと視線を合わせて。

「……尚吾様」
 一瞬、虚を突かれたらしい顔に向って、言い募る。
「お着替えなさいませんといけませんわっ」

 確かに、三秒くらい、間があったと思う。
 そして……相羽さんは吹き出した。

「そこまで笑うかっ?!」

 笑い出したと同時に、しっかりと抱きしめられてる。ほんと、そこまで笑う
かいって勢いで笑ってるのが……だから、判る。
「いや、こう、面白くってさあ」
 ……そら、さあ。
 メイド服ってったら昨今のコスプレの一端だし、あたしみたいなのが着てた
らそらー変です。それは認める。
 だけど、ここまでけたけた笑うこたーないだろうがっ。
 思わずそっぽを向きけたのを、手が抑える。何時の間にか両手で頬を挟むよ
うにして、こちらをじっと見て、いるのだけど。
 ……やっぱ目が笑ってるじゃないかっ。

「…………………面白いんでしょ」
「まあ、でも」
 笑いをまだ、目元に浮かべたまま。
「似合ってるよ」
「っ」
 耳元で、小さな声で。
 ……ほんっとこの人って……
「……そら、本来のメイドのやること、やってますからっ」
「立派にこなしてるよねえ」
「…………こなしてないよ」
 何が可笑しいのか、耳元でくっくっと笑い声がした。
「……きちんとできてるよ」

 その声を最後に、ようやく相羽さんは手を離した。

「今日のメシなに?」
「えっと、イカの刺身と、ネギのお味噌汁と……」

 言いかけて、ちょっと相羽さんのほうを見る。
 普通にしてるけど……何かまだ笑ってるしっ。

「着替えていい?」
「いいって、そのままで」
「……よかないー」
「だから、メシ」


 一瞬。
 豆柴君にこの服着せたの、相羽さんの趣味かと思ったけど。
 けど。

 ……流石にそれは、無い…………

 …………よね?

「何?」
「なんでもないなんでもないっ」

 くるくる、と、ベタ達が相羽さんの周りを巡る。
 何だかなあ、と思いながら……ふと、豆柴君の顔を思い出す。

 なーんとなく。
 嵌められた気がするのは、どうしてかなあ。

時系列
------
 2005年9月の末くらい。『Honesty』での豆柴君との会話の、
少し後くらいです。

解説
----
 豆柴君が『差し上げます』とゆーたブツがこれなわけで。
 ええ、一体どんなとこにどんな潜入捜査したんだか(汗)

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 てなもんで。
 ではでは。
 


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