[KATARIBE 29525] [HA06N] 小説『いつのまにやら』

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Date: Sat, 19 Nov 2005 03:19:25 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29525] [HA06N] 小説『いつのまにやら』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月19日:03時19分25秒
Sub:[HA06N]小説『いつのまにやら』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
さっきのを流したら、あとはもー一気。
ひさしゃん、有難うございます(いやほんと色々と)。

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小説『いつのまにやら』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。相羽宅の現在住人。


本文
----

 日曜日には市役所は開いてないと思ってたから。
 まあ……油断は、してたのかもしれないけれど。

 それにしても。

      **

「……あれ?」
 うちの親に会いにゆくのに、念のため、と、二日続けて有給をとったとかで、
ものすごく珍しく、相羽さんが日曜日に家に居る。
 ……いや、居たんだけど。さっきまで。

「相羽さん?」
 洗濯物を干して、ついでに布団も干せるだけ干して。
 部屋に戻ったら。

「どこ行ったか知らない?」
 ふよふよ、と、やってきたベタ達に尋ねる。
 二匹ともぶんぶん、と、身体全体を使って『首を横に振る』をやってくれる。
「おかしいな」
 時計を見ると、そろそろお昼である。
 何食べたいか、聞こうと思ったんだけど。
「お昼、うどんとかにしようかなって思ったんだけど……どうしよう」
 ……いやわかった。食べたいんだね。
「とりあえず……卵焼でも作ってよっか」
 くるくる、と、二匹揃って宙を廻って、ついでに砂糖入れの上で踊って。
 よく思うけど、ほんとベタって、判り易い。


「ただいま」
 卵焼が完成した頃に、相羽さんは戻ってきた。
「あ、おかえり」
 靴を脱いでいる相羽さんの片手に、煙草。
 あ、煙草買ってきたのか。
「ごはん作ってたとこなんだけど、うどんでいい?炊き込みご飯もあるけど」
「両方」
「……諒解」
 そうするとおかずは何にしよう、揚げを煮たのとかだとご飯が食べられない
しな……とか咄嗟に考えて、台所に向おうとした、時に。

「出してきたよ」
 それはもう、さくっと軽く言うもんだから。
「……へ?」
 何か間の向けた問いになったのだけど。
「届け」
「へ………?」

 届け。
 って言ったら、この場合。

「……何時の間に?」
「煙草買いに行くついでに」

 いや、だけど。
 届出って、要するに、入籍するってことで。
 
 いや、判ってた。相羽さんも暇な人じゃない。だから休みの間に届を出すと
か、そういうことはするだろうし、それを予測してなかった自分も問題だけど。
 でも。
 ……一言、そう言ってくれても良かったじゃないかっ。

「…………相羽さん」
 そんなことを思うから、ついつい声が恨みがましくなる。
「どしたん?」
「…………煙草のついでなんだ」

 でも確かに、届を出そうっていうのは決めてたことだから、それをどうこう
ってのは言い難い。
 ……でも。
 
「……真帆?」
「…………いや、いいです」
 せめて先に一言……って思ったけど。
 でも、それも、今更だし。
 ……いいや、なんかもう。
「じゃ、ちょっと」
 ご飯を作るから、待ってて下さい、と、言いかけた時に。

「……真帆」
 両手で頬をはさまれて、そのまま目を合わせてくる。
「気に障った?」
 心配そうに……本当に心配そうに、そう言うから。
「……届出すこと自体は……障ってないけど」

 たいしたことじゃないよ、と、自分でも思う。
 書類出して、家族になる。それは単なる最初の一歩。そこからが長くて、そ
こからが大変で……大切なんだって。
 わかってる、んだけど。

「どうにもね」
 ……と、考えてた内容が、どこまで通じたのかはわからない。ただ、気がつ
くと、視線のすぐ先で相羽さんは苦笑していた。
「俺もガキだからさ」
「……ガキって……でも、どういうことで」
 ガキだから、何も考えないで、届けを出した……ってこと、ではないだろう
に。
 意味が判らなくて、ついつい言い募りかけ……て。
 でも、相羽さんの顔を見たら、言葉が止まった。

「早く、俺のものにしたいって、さあ」

 苦笑してた。
 わがままだから、と。それは判ってるのだけど、と。
 ……そんな、顔で。

「さっさと勝手に届け持ってったのは、悪かった」
 頬を抑えていた手がするりと動く。そのまま頭へ伸びて。

 洗濯物を干していた時だろうか。
 卵焼を引っくり返してた時だろうか。
 
 何時の間に、あたしはこの人の家族になってたんだろうか。

「どした?」
「……もう、相羽、になったの?」

 無論悲しいわけじゃない、でもどうしてか、涙が止まらなくて。
 目をこすりながら、そう言ったら。

「受理してもらったからね」
 ぽつん、と。
「……相羽真帆、だよ」

 一方方向の道。
 そちらに行きたいから、自分で選んだ筈なんだけど、でも二度と戻れない道
で、つい今居る処を確認したくなるけど。
 
 いつのまにか。
 あたしはこの人の家族になってる。
 誰憚る事無く、そう言って構わない……そんな家族になってる。

 なんだか、だから。

「……ご、ごめんなさい」

 悲しいわけでは、無論無い。だけどこうやって泣いてたら、確かに相羽さん
にしたら不本意だよな、とは、頭のどこかで判る。
 何とか目をこすって、涙を止めた、ところで。

「嫌じゃない?」
「へ?」

 ……あ。
 そら、届出して、泣かれたら、そう思われるかもしれない、けど。
 そうじゃなくて!
 
 思いっきり首を横に振ったのだけど。
 でも、相羽さんは、こちらを黙って見るばかりだったから。
 だから。

「えっと、あの」

 2月に、出会って。
 殴られたり、怒られたり。
 暗い病室の中で、小さく呟いていた姿も。
 過労でぶっ倒れて、それでも怒鳴りつけたら苦笑してた顔も。
 必要だ、と、いわれた……そこからの全ても。
 全部含めて。

 あたしは、この人の家族になる。

「…………宜しくお願いします」

 どう言ったらいいか判らなくなって……ただ、そう言って頭を下げた。
 ぽん、と、その頭の上に、手が載って。

「…………これから宜しく」
「……はい」

 ふと、思い出した。
 一度、この人が過労で倒れた時、見舞いに行った先で、相羽さんは手を握り
締めて眠ってしまった。
 本宮さんに手を外して貰って……それはそれで、助かったのだけど。
 でも。

 一晩でも見守っていたかった。
 でもそう出来ないって思った。

 無論、入院して欲しいわけじゃない、そんなことは思ってない。
 でも、今なら、一晩でも見てていいんだなって。
 家族、だから。


「ありがとう」
 何だか……嬉しかった。
「ありがとう、尚吾さん」

 ほんとうにほんとうに、嬉しくて。
 説明どうこうではなく、嬉しくて。
 あんまり嬉しかったから……思わず一礼した、ら。

 ふわ、と。
 相羽さんの手が伸びて。

「ありがとう、真帆」

 その声を、あたしは。
 振動のように聞いた。

         **

 その日、日曜日。
 一体何時だったのかはわからないけど。

 本当に、いつのまにやら。
 あたしはこの人の家族になった。


時系列
------
 2005年10月初旬。
『報告』『家族の絆』の、次の日。

解説
----
『家族の呼び名』から続いてきた、一騒動の、ようやく終わり。
 軽部真帆、の話は、一応ここで終わりです。
…………きゃらしーと書き換えねば(つまりそういう意味です(苦笑))
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 あーーつかれたっす。
 であであー(よろよろ)
 



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