[KATARIBE 29524] [HA06N] 小説『家族の絆』

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Date: Sat, 19 Nov 2005 00:37:24 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29524] [HA06N] 小説『家族の絆』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月19日:00時37分23秒
Sub:[HA06N]小説『家族の絆』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@かけねー です。
てか、こういう話って、実際のところ、一番苦手なんだようっ(えうえう)

……というわけで、ええ。

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小説『家族の絆』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。相羽宅の現在住人。

本文
----

「相羽さん、今晩も栗ご飯でいい?」
「嬉しいね」

 肩を叩かれるまで熟睡していた、新幹線の帰り。
 結局、親が持たせてくれたご飯が、夕飯になってたりする。
(多分、それも見越してのことだったんだろう)

 栗ご飯と秋刀魚の煮付け。小松菜と油揚げのおひたし。
 油揚げと大根のお味噌汁だけ、慌てて作ったのだけど。

「……相羽さん」
「何?」
「さっき……うちの親と、何話してたの?」
「ああ」


 ごはんをよそって、おかずを廻して。
 お茶の用意をして、お皿を下げて。
 お菓子を取り出して湯飲みと並べたあたりで、話は終了した……のだけれど。


「…………は?」

 一通り聞いて……ついついそういうお間抜けな声になってしまう。

「はって、何」
「いや、その」
 差し出された湯飲みに、お茶を注いで。 
「……相羽さんて、時々すごいこと言うよね」
「そお?」

 自覚ないんかいな。

「いつも言ってることでしょ」
「それは、そうだけど」

 傷を、引き受ける。
 ……確かに相羽さんはそう言ってくれている。何度も。
 そして……申し訳無いと、思う。いつも。

 それは、そうなんだけど。

「よく、両親反対しなかったなあ」
 落花生を飴でつないで押し固めた菓子。結構硬めのそれを手で割りながら、
相羽さんが不思議そうにこちらを見る。
「いや、相羽さんがどうこうじゃなくて……そんな不出来な娘を他所に出すな
んて出来ません、とか……」
 傷を何時までも残している自分。そういうう情けない娘を人に渡すかなって
咄嗟に思ったのだけど。

「その時は、言うね」
 妙に自信たっぷりに。
「それでも必要です、どうしても反対されるのなら」
 一拍置いて。
「さらうかね」

 …………いや、だからさ。

「……不服?」
「そうじゃないけど」

 昔から馴染みの菓子を引っくり返しつつ考える。
 何て言えば通じるんだろう。

「あの、さらうったって……あたしの意思とかどこにあるのかなーと」
「……嫌?」
「いやあの、嫌ってんじゃなくて……一応、こっちの意思を一度くらいは聞い
てくれていいんじゃないかなとかこー」

 俺の、と、時折相羽さんは言う。
 不服があるわけでは無い。そういうことじゃない。
 でも……「俺の」と、所有格で呼ばれるほど、相羽さんの意を汲むことって
あたしに出来るのかな、とか考えると。
 時折。

 ……と、考えてると。
 
「へ?」

 二の腕を捕まれて、引っ張り寄せられる。そのまま肩から背中に廻される手。
 
「……相羽さん?」
 返事は、無い。
 ただ、腕にぎゅっと一度力がこもるのがわかる。
 わかる、のだけど。
 何かむっつりとした気配だけが、肩の辺りでわだかまってる。

「……あのねえっ」

 黙ったままだとこちらも困る。ついつい声をあげた時に。

「俺のこと、選べない?」
 ぼそっと、何かえらくふてくされた声で。
「……そうじゃ、なくってっ!」

 選べないわけじゃない。てか、選んでないならそもそも相羽さんを親のとこ
に連れてってない。

「…………相羽さん、信用してないでしょ、あたしのことっ」

 肩の上で、しばらく沈黙が続いた。

「……そら、お前にとっては」
 余程何か言おうかな、と、思い出した頃に。
 ようやく口を開いて……何を言うかと思ったら。
「……どっちも家族、でしょ」
「…………っ」

 涙が出た。

「…………尚吾さんの莫迦っ」
 右の拳で、一緒に相羽さんの肩辺りを殴る。
 微かに息を呑む気配が伝わってきた。
「全然信用してないじゃないか」
 
 どうして、と思う。
 傷を引き受ける、まで言っておいて。

「……さらわなくてもついていく、とは、思ってももらえないんだっ」

 一緒に居たいと思った。
 もしかして裏切るかもしれない。期待だの何だのに応えられる自信は微塵も
無い。それでも。

 ……それなのに。

「……いいです、もうっ」

 肩にかけた手を起点にして、力を込める。そのまま立ち上がろうと……して。
 ぐ、と、背中に力がかかった。
 
「…………悪かった」
 力比べで、まさか相羽さんに勝てるわけもないけど。

 申し訳無いと思うことばかり増える。一緒に居ていいのかなって、思うこと
ばかりが増えてゆく。
 なのに。

「信用してよってあたしには言うのに、信用してないっ」
「……真帆」
 ふと、相羽さんの手が緩んだ。両肩に手を置いたまま、それでも少し身を離
して。

「たとえ、さ。反対されたとして」
 真っ直ぐに見据える目で。
「それでも、俺についてきてくれる?」

 ……この人はっ!

「…………他に、どこに行けっていうの」

 悔しいと思った。
 ついていかないかもしれない……って、思われている。
 その、ことが。
 悔しくて、情けなくて。

「……なんで」
 何度も頭を撫でる手。
「なんで、ついて行かないって思うんですか」
 その手がふと止まって。
「……俺にはさ」
 まるでしがみつくように。
「俺にはお前しかいないんだよね」
 
 どうして、と思う。
 どうして……

「……ついていくんです、あたしは!」

 辛い、と思った。
 お前しか居ない。その言葉が。

「来るなって言われたって行くんです」

 一緒に行くまで、草ぼうぼうだったお墓。
 封印されたような部屋と写真。

「……どうして、それでっ」

 ふわり、と。
 肩口にぶつけた握り拳ごと、抱き締められた。

「ありがとう」


 自分には家族が居て、親族も居て。
 どれだけ不仲でも、一年に一度は顔を合わせていて。
 それがごく当たり前のこととしか思っていなかったけど。

 どれだけ大きな穴が、この人の中にあるのだろうと思った。
 どうやったらその穴を、塞げるのだろうと思った。
 ……それでも。


 もうすぐあたしはこの人の家族になる。


時系列
------
 2005年10月初旬。『報告』の日の夜。

解説
----
 どれだけ仲が悪いと言っても、家族が居る真帆と、家族の居ない先輩と。
 色々とある中での……風景です。

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 てなもんで。
 ではでは。
 (脱兎)
 


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