[KATARIBE 29521] [HA06N]小説『イソメの愚痴』

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Date: Fri, 18 Nov 2005 01:16:26 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29521] [HA06N]小説『イソメの愚痴』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
00:40 <Role> rg[hukirdead]HA06event: 生意気なイソメの霊に遭遇する ですわ☆

でした。

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小説『イソメの愚痴』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 11月も半ばを過ぎた秋の夜である。秋と言うよりは冬に近いこの時期はもう
寒いはずなのだが、何故か吹いてくる風は生温かい。
「何か出るんだよなあ。こんな場合……」
 そう言いながら人通りの少ない道を神羅は一人で歩いている。いつもの研究
室からの帰り道である。
「ちょい、そこの兄ちゃん」
 ゴミ捨て場を過ぎた辺りで後ろから声を掛けられた。振り返ると、そのゴミ
捨て場の隣で五十歳を過ぎた辺りの男性が胡座をかいていた。身なりは、お世
辞にもきれいとは言えない。
 先ほど通り過ぎたときにはその場所に人の姿はなかった。ということは……
である。
「なんです?」
 神羅は尋ねた。
「まあ、そんな怖い顔せんと、おっさんの話でも聞いていってくれんか?」
 神羅は男性の姿を一瞥した。汚い身なりではあるが、何かしてきそうな気配
はない。素直に話を聞いたら消えるタイプだろう、と神羅は思った。
「何の話?」
「兄ちゃん、釣りはするか?」
「いや」
「そうか。ほな、イソメは分かるか?」
「イソメ?」
 神羅が眉をひそめたのを見ると、男は「何やそんなんもしらんのかいな」と
鼻で笑った。
「釣りするときの餌や」
「ほう」
 あまり気乗りをしていない神羅を見て今度は男が眉をひそめる。
「なんか盛り上がらんなあ」
「釣りの餌の話で盛り上がれってのも無理だと思うけど」
「そりゃそうや……でな、ワシそのイソメやねん」
「ほう」
「……何や驚かんのか」
「慣れてますし」
 ふーん、と男は鼻の頭を掻く。
「まあええわ。でな、まあワシもイソメに生まれたからには大物に食われたい、
そう思とったわけや。それである日、釣りに使われるチャンスが来たんや」
「それで?」
「ところがなあ……」
 そう言って、男は頭を振った。
「ワシを餌にしとったおっさんが下手でなぁ。よお釣れる場所におったんやけ
ど深さが全くあってへんからワシの下の方を悠々と魚どもが泳ぎよるわけよ。
まあ、わしもな、それなりに餌としてのプライドっちゅうもんがあるから、
誘ってはみたものの、これがあいつら、ことごとき無視しくさりよるわけよ。
それで、おっさんプッツーンって切れてもうて、竿を上げると針からワシを外
して、ポイや。しかも、海のほうやのうて砂浜にやで。もうワシ悔しゅうてな
あ……」
「で、誰かに話を聞いてもらうために化けて出てきた、というわけ?」
「そうや…… あんたの前にも何人かに声かけてみたんやけど逃げられてもた
しなぁ。で、やっと話を聞いてくれるおもたら今度は釣りを知らへん奴やろ。
……ついてへんなあ」
「そりゃ悪うございましたね」
 座ったままの男はちらりと神羅の顔を見上げると、また鼻で笑った。
「ま、それでもたまっとったもん吐き出してすっきりしたから、帰るわ」
「さよか」
「ほなな」
 男は片手を上げると、そのままの姿勢ですぅと消えていった。
 彼がいたところにはひからびたイソメの死骸がある。
「なんやったんや……」
 そう言って神羅は溜め息をついた。
 いつの間にか風は季節にふさわしい冷たさになっている。神羅は両手をポ
ケットに入れると背中を丸めて再び帰り道を歩き始めた。

時系列と舞台
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2005年11月

解説
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イソメの愚痴を聞かされる奴もそうはいまい。

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