[KATARIBE 29512] [HA06N] 小説『亀の甲達の見立て』

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Date: Sat, 12 Nov 2005 22:21:33 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29512] [HA06N] 小説『亀の甲達の見立て』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月12日:22時21分33秒
Sub:[HA06N]小説『亀の甲達の見立て』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるですー。
なんかちょーしでないですー。

…………とりあえず、流します(さむさむ)

*****************************************
小説『亀の甲達の見立て』
=======================
登場人物
--------
 軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :毒舌大学生。軽部真帆の妹。相当のシスコン。

本文
----

 親子三人水入らず。
 ……というと、うちの場合ちょっと変なことになる。姉や兄とあたしとは相
当年が離れてるから、『親子五人水入らず』だった期間はかなり短い。姉や兄
に言わせると『自分達にとっては「親子四人水入らず」の期間が長かった』と
なるらしいのだけど。
 家族の仲は、決して悪くない。なのに兄弟で『水入らず』な状態の家族の人
数が違う。
 それが、自分でも、何だか変な気分に陥る原因だとは思う。

 しかし。
 今日については、案外実情に沿っているかもしれない。


「二人とも、うちについたかしらね」
 栗ご飯をよそいながら、母が首を傾げる。
「そろそろだろう、なんぼなんでも……片帆、お前栗ご飯いらんのか?」
「あ、いるいる」

 栗ご飯のお代わり。それに秋刀魚の焼いたの。
 サツマイモのサラダを、父はこちらに押しやる。

「……母さん」
「何?」
「何であんなにあっさり、納得したの?」

 いや、母さんに限らない。絶対両方とも文句言うなりもっと詳しく聞くなり、
少なくともこんなにあっさり「はいはい」と言うわけがないと思ってたのに。

「何言ってるの」
 呆れたように、母さんが言った。
「普通に考えて御覧なさい。真帆が見捨てられないのが不思議なくらいでしょ
うよ」
「だってどこの馬の骨かわかんない人だしっ」
「お巡りさんだろうが」
 白菜の漬物をもくもく食べていた父がぼそっと言う。
「お巡りさんが『どこの馬の骨かわからん』ってのは……どうかと思うぞ?」
「現代日本、悪徳警官も多いでしょっ」
「普通の職業よりか少なかろうよ」

 言うだけ言って、父はスプーンに山盛りの大根おろしを皿に取る。

「……そうかもしれないけどさあ」

 それにしたって。
 今まで一切そういう話の無かった姉だ。突然どこの誰とも判らない男が来て
「お嬢さんを下さい」って言ったとしたら……普通まず問い詰めるとか文句言
うとかしないかなあ。

「ちゃんと聞きましたよ」
「……何を」
「御両親が早く亡くなったってこととか」
「いや、そら聞いたろうけど!」

 三人で話していた時に、そういう細かいことは一杯聞いたらしい。
 それはまあ、それでいいんだけどさ。

「その前に、判りましたって母さん言ってたじゃんっ」

 手の内を見せる前に。
 それも、あんなそとっつらでがっつり固めている状態の相手に。

「……あのね、片帆」

 サラダを取ると、母は少し笑った。

「何でこの子なんです、って聞いたでしょうが」
「うん」
「全く理屈が無かったでしょう?」
「……理屈?」

 何て言ってたっけな。

「役に立つかって聞いたら、それより必要だって言ってたし」
「…………」

 そらあ、そうは言ってたけどさ。

「あんたでしょ、教えてくれたのは」
「へ?!」

 あたしが何か、妙なこと教えましたかっ?!

「エックハルトの言葉って、あんた言ってたでしょ?」
「……なんだっけ?」
「嫌ねえ、うちで一番若いくせに、おおぼけだし」
「おおぼけまで言いますかっ」
「そうかー、とか納得してたでしょーに」
「だからー、何て言ってたっけ、あたし?」
「ほんとに忘れてるんだから」
 やれやれ、と母は肩をすくめた。

「言ってたでしょ、『愛には如何なる何故も無い』って」
「……あ」

『何故』好きなのか。『何故』愛しているのか。
 それは恋愛に限るものじゃない。親子の情でも友人関係でも。
 理屈で、その人のここが好きだから、とか言い出したら、それはもう愛でも
何でもない。
 ……そういう文章を読んで……確かにそう言えば母さんに話したっけな。
 でも。

「まあ、あんたに聞いただけじゃなくってね」
 醤油をかけながら、母が笑う。
「見てて、口は相当達者だけど、中身は相当がちがちだったしね」
「えー」
「何より……有難いことですよ。どうしても真帆をって言って下さるなんて」
「…………」

 有難くないって言いたかった。
 有難くない。姉さんなら「どうしても」って人は絶対他にも居る。

 ……そう、言いたかったけど。

「まあ、見てて、悪徳警官には見えなかったからなあ」
 秋刀魚の身を綺麗に骨から外しながら、父さんが言う。
「……ま……良かったんだろうな」

 
 百も二百も、言いたいことはあった。
 でも、先に着いてたあたしを、咄嗟に見た姉さんの目を見たら、何も言えな
くなった。
 
 反対してるのは知ってる、と。
 それでも……と。

「それにねえ」
 栗ご飯を食べながら、母が何だかしみじみと言う。
「一緒に暮してるったって、あれは同居で同棲じゃないし、その状態でずっと
ってのは、真帆は平気だろうけど相羽さんにはひどい話よね」

 …………は?

「それが当たり前、と、俺なんかは思うがね。まあ今の当たり前では無くなっ
てるんだろうなあ」

 ………………いやその、ええと?

「何、お代わり?」
「ちがっ」
「酒か?お前欲しいならあっちからグラス持ってこい」
「いや欲しいけど、じゃなくってっ!」

 ばたばたグラスを取ってきて、父からお酒を一杯貰って。

「……母さん、何それ」
「は?」
「同居で……って当たり前じゃん、姉さんだよ!同棲なわけがっ」
「こればっかりは理屈じゃないから」
「……理屈だよっ!」
「だから、理屈を通す子だから、同居のまんまだったんでしょって」

 そーじゃなくてっ。

「で、でも、母さんなんでそれ判るの」
「はい?」
「姉さんの言葉だけで、相羽さんの言葉だけで、信用できるの?それ」

 いや、信用してたからこそ、自分も驚いたんだけど。
 でも、何だか痛烈に悔しくて。我慢出来ないくらい悔しくて。
 思わず、そう言ったんだけど。

 ……ど。

「……あんたも真帆のこと、判ってないわねえ」

 この一言は、きつかった。

「…………な、な、なんでっ」
「真帆にも聞いたの。で、一緒に住んでるのねって」
「……うん」
 そういえば、あたしもそう聞かれた。
「そしたら真帆はね、『うん、そうなんだけど違うんだけどっ』ときてね」
「うん」
「だから、間借り状態なんだって判ったわけ」
「……やっぱ言葉だけじゃんっ」
「違いますよ」
 栗をつまんだ状態で、母はやれやれ、と、溜息をついた。

「同棲なんてことになってたら、あの子がそもそも言い返せるわけないでしょ」

 ……真帆姉さんという人は。
 理屈が先で。
 恋愛に見事に縁が無くて。
 なのに聞けば聞くほど女ったらしの相羽さんと、どうして……って。

「とにかく」
 グラスの酒を干して、黙っていた父がぼそっと言った。
「よくまあ貰って下さる人が居たよ」
「……ほんとに、ね」
「だから、片帆は、要らんことを言わないことだな」
「なっ」

 一升瓶を取って、とぷとぷ注ぐ。
 それからゆっくり口を開く。

「お前は、姉さんっ子だからなあ」
「…………ち、ちがっ」
「下手に喧嘩を吹っかけたりするんじゃないぞ?」

 …………。

「で、片帆はいつ向こうに帰るの」
「…………明日」
「基之達は知ってるのかしらね」
「……ねーさんが電話忘れてたら知らないかも」
「じゃ、先に言っといて」
「…………」

 亀の甲より年の功。
 よく、知ってるけど。

 ……何もかも、空回りする気がする。
 この、亀の甲の前では。


時系列
------
 2005年10月初め。『報告』の数時間後

解説
----
 えーと、題名どおり……ってのもなんですが。
 亀の甲より年の功。
 無論、正しく年を取った場合にのみ適応。
************************************************
 
 てなわけです。
 であであ。
 


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