[KATARIBE 29508] [KM01N]小説『かつてあった本屋』

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Date: Thu, 10 Nov 2005 01:29:40 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29508] [KM01N]小説『かつてあった本屋』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/KM/?OneGameMatchfor30Min)。
お題はだいぶ前の物ですが、

(Role) rg[Hisa_kak_]HA06trash: 書店の栞 ですわ☆

です。何となくKMで。ちなみに時間オーバーしまくり(汗
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小説『かつてあった本屋』
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登場人物
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来間貴彦(くるま・たかひこ):http://kataribe.com/KM/01/C/0011/
 古本屋「孤隠堂」店主。正体は文車妖妃。

本編
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 朝からずっと雨が降っている。パラパラと軒先を打つ雨の音が古本屋『孤隠
堂』の店内に響いている。
 ただでさえ暇なのに、雨のせいで店を開いてから客は一人も入ってきていな
い。貴彦は店のカウンターに座って溜め息をついた。
 書に関わる妖怪である貴彦にしてみれば、雨は嫌悪すべきものの一つであっ
た。ゴミ捨て場に束ねてある雑誌を見るだけでも心が痛むのに、それが雨ざら
しになって濡れてしまうことを考えると、それだけでいたたまれなくなる。
 壁に掛けてある古めかしい柱時計は二時を指している。
「……今日はもう店じまいをしても良いですよね?」
 貴彦はカウンターの後ろの小さな仏壇に飾ってある先代の写真に向かって
言った。そして、立ち上がると入り口の戸に掛かっている「開店中」の看板を
ひっくり返して「閉店中」にして、カーテンを閉める。
 カウンターに戻った貴彦は横に積んである本の束に目をやった。この前の市
で買ってきた本である。まだ値付けをしていないことを思いだして、彼はとり
あえず一番上の一冊を手に取った。
 表紙カバーは少し煤けている。それでも、大事に扱われていたのか破けてい
る箇所はない。手あかで汚れているところをみると、長い間読まれていたらし
い。そんな本に出会うと、貴彦は幸せな気持ちになり、同時に少しだけ悲しく
もなる。大事に扱われていた本が古本屋にあるということは、大抵、持ち主が
亡くなるか、どうしても手放さなければいけない状態になったかのどちらかで
ある。どちらにせよ、本を手放すというのは悲しいことである。
 虫食いがないかチェックするために、パラパラと本を捲っていると、栞が一
枚挟まっているのに気がついた。
「おや」
 その栞を手に取ってみる。別に何の変哲もない栞だが、そこに書かれてあっ
た本屋の名前に貴彦は見覚えがあった。
「確か、先代の実家がやっていた店でしたっけ……」
 生前、先代は自分のことをあまり話したがらなかったが、教えてくれた数少
ないことの一つに実家が本屋ということがあった。確かその本屋の名前が、こ
の栞に書かれてある名前だったような気がする。
「そういえば、だいぶ前に潰れてたんですよ、あの店」
 先代が死んですぐに、貴彦は一度その先代の実家という本屋に行ってみたこ
とがあった。そこに立っていたのは先代から聞いた名前の本屋ではなく、有名
なチェーンの本屋だった。
 かつて、存在した本屋で売られていた本が、その店が無くなってから関わり
のあるこの古本屋に来たということになる。
「これも縁なんですかね?」
 貴彦は仏壇の遺影に尋ねた。当然、額の中で難しい顔をしている先代は何も
答えない。
 貴彦はその栞を本に戻そうとして、ふと動きを止めた。そして、カウンター
の引き出しから別の栞を取り出すと、代わりにその本に挟み、挟まっていた栞
をその引き出しの奥にそっと入れた。
 雨音は相変わらず一定の音量で鳴り続けている。

時系列と舞台
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 雨が冷たい秋の頃。古本屋にて。

解説
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 一枚の栞から引き出される記憶。

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