[KATARIBE 29503] [HA06N]小説『鬼火の猫』

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Date: Tue, 08 Nov 2005 00:24:08 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29503] [HA06N]小説『鬼火の猫』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:33 <Role> rg[hukira]HA06event: 鬼火が服の中に入り込もうとした ですわ☆

でした。
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小説『鬼火の猫』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 空は雲に覆われているようで、月も星も見えない真っ暗な夜である。
 夜も更けてしまい、人の影はほとんど無く、物音もしない。
 神羅はそんな中をゆっくりと歩いていた。論文の締め切りが間近に迫り、研
究室で悩んでいるうちにいつの間にかこんな時間になってしまったのだ。
「う〜ん」
 帰り道の途中でも頭からは論文のことが離れない。腕組みをして、時折首を
かしげてみる。端から見ると、ちょっと危ない人風ではある。
 片側が竹林になっている道に差し掛かったとき、その竹林の中から何か鳴き
声が聞こえた。
「ん?」
 腕組みを解き、声がした方を向く。真っ暗なはずの竹林がほんのりと赤く
光っている。よく見ると、竹林の奥の方で何かが燃えているようだった。
「……火?」
 こんな時間に、こんな場所で火を見かけると、とりあえず連想するのは放火
である。神羅はゆっくりと物音を立てないようにして、火のある方向に近づい
ていった。林の中から聞こえてきた鳴き声はまだ時々聞こえてくる。
 竹林の中の火は揺らめきながら移動していた。腰よりも少し低い位置を左に
右に、そして、時々大きく跳ねる。
 その様子を見ていて、神羅はあることに気がついた。
「あんな低い位置にあるのに火は移ってへんな……」
 密集しているわけではないが、両手を拡げれば必ず竹に触れるくらいの間隔
で竹は生えている。そんな中を動いているのだから、少なくとも葉に火がつい
ていてもおかしくはないはずだった。
「……ということは、普通の火やあらへんのか」
 普通の火じゃなかったら、火事になることはない。神羅はとりあえず溜め息
をついた。
 しかし、このまま帰るのも何か気持ち悪い。そう思って、更に奥へと進んで
いく。
 火に近づくにつれて、聞こえてくる鳴き声がはっきりとしてくる。
「猫、か」
 確かに鳴き声は猫だった。ただ、問題はその鳴き声が火のある方から聞こえ
てくることである。
 揺らめく火が見えたと思ったその時、その火はニャア、と鳴いて神羅の方に
飛びかかってきた。
「ニャアってっ、あつっ、いや、あつくないっ、いあっ、でっ、ああっ」
 思わず触れたその火は全く熱くないのだけれど、「火は熱い」という一般常
識が神羅を取り乱させる。
 神羅は思わず、懐に潜り込もうとしてきたその火を掴んで放り投げた。
「あつ……くはないんだけど、ええ、と……」
 放り投げられた火はくるりと回転して元の位置に戻る。そして、「フー」と
鳴いた。
「えー……猫?」
 神羅の目の前でその火が猫の形になる。いきなり放り投げられて、怒ったの
か、体を膨らませている。
「あー すまんすまん……って、またかっ」
 神羅が謝ろうとしゃがんだところに、再びその火が飛びかかってくる。さす
がに今度は、その火の猫を両腕で抱きかかえた。
 両腕の中でもがいている猫は、ほんのりと温かく、神羅の着ているジャケッ
トを必死に掴もうとしている。
「ん……あぁ」
 神羅はジャケットの内ポケットに入っている物に気がついて苦笑する。そし
て、そのポケットの中からするめジャーキーを取り出した。研究室の後輩が大
量に持ってきたのを貰っていたのである。
「これが欲しいんか?」
 猫の前でジャーキーを揺らす。それにあわせて、猫も左右に揺れる。
 神羅は包みを開けて、中のジャーキーを猫の前に持っていった。瞬間、凄い
勢いで神羅の手からジャーキーが奪い取られる。
「本物の猫やなくても食うんや」
 ジャーキーにかぶりついている火の猫の頭を撫でると、神羅は竹林を出た。
 数歩進んでから竹林の方を振り返ってみると、既に林は闇に包まれている。
「ふうん、満足したんかね?」
 そう呟いて、神羅は帰り道を急いだ。

時系列と舞台
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2005年11月。どこかの竹林。

解説
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なぜするめジャーキーを大量に買ってきたのかという謎は残っています。

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