[KATARIBE 29494] [HA06N]小説『ねばねばしたものと子犬』

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Date: Fri, 04 Nov 2005 01:48:44 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29494] [HA06N]小説『ねばねばしたものと子犬』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
01:10 <Role> rg[hukira]HA06event: 片隅からねばねばした子犬の霊がこちら
を見ている ですわ☆

でした。
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小説『ねばねばしたものと子犬』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 研究室からの帰り道。太陽は既に西の山にその姿を隠し、辺りはとっぷりと
闇に浸かっている。
 この時期は、昼間が暖かいだけに夜の寒さがやけに堪える。神羅は両手をポ
ケットに入れて、猫背気味に人気のない通りを歩いていた。
 道の途中、ふと両耳に付けているイヤホンから流れてくる音楽に混じって、
微かに犬の鳴き声が聞こえてくるのに気がついた。
「ん?」
 立ち止まって、イヤホンを外す。物音はほとんど聞こえない。しかし、じっ
と耳を澄ましているとやはり犬の鳴き声が聞こえる。
 神羅は辺りを見回してみた。電信柱の下、電灯の作り出す影に紛れて、子犬
の姿が見える。しかも、その子犬の姿は半透明で時々霞んでいた。
「子犬の霊、か」
 その電信柱まで近づき、しゃがんで左手を差し出してみる。子犬は差し出さ
れた手に驚いて、一度身を引っ込めたものの、おずおずと神羅の方に姿を見せ
た。
 明かりに照らされた子犬は周りの景色と少し同化していて、見にくくなって
いる。しかし、それでも神羅の目にはその子犬の周りになにかくっついている
のが見えた。
「何、それ」
 彼はくっついているものを触ってみた。子犬の霊にくっついているのだか
ら、それも霊的なものなのだろうが。
「うわっ、ねばねばする」
 それは犬の体から少しだけ離れて、神羅の指にまとわりついた。
 どうやら、この子犬はそのまとわりついているものに迷惑しているらしい。
「ふむ…… その前に、これをどうにかせんとあかんな」
 そう言って神羅は鞄の中から付箋紙を取り出すと、赤ペンで何かしら呪文を
書いて、左手についているねばねばしたものに触れた。
 付箋紙が触れたところから、まるでほこりを掃除機で吸い込むように消えて
いく。何回か撫でるとそれは跡形もなく消えてしまった。
「さて……」
 神羅は子犬を見た。子犬も半透明の目を神羅に向けている。子犬にまとわり
ついているものは、子犬と半ば同化しているようで、どこからが子犬で、どこ
からがそうでないのかがよく分からなくなっている。
「困ったな……」
 ふむ、と神羅は溜め息をつく。犬はクゥンと一つ小さく鳴いた。
「さっき、ワシが触ったらそれは取れたんだよなあ……ってことは、一度ワシ
が全部取ればええんか」
 そう呟くと、彼は子犬の側に寄って、子犬の体型を思い描きながら、頭から
ゆっくりと撫でていく。
 左手にねばねばとしたものがまとわりついてきているのが分かる。正直、気
持ちの良いものではない。一方、撫でられている子犬の方は気持ちよさそうな
表情を浮かべている。
 やがて全部取り終わり、神羅は自分の左手を見た。ねばねばしたものは水飴
のように左手を包み込んでいる。
 先ほど使った付箋紙で左手のねばねばしたものを撫でる。撫でた部分は消え
ていくが、ほんの少ししか消えていない。
「こりゃ埒があかん」
 そう言って、今度はルーズリーフを一枚撮りだし、先ほどと同じように呪文
を書く。
 右手でそのルーズリーフをつかみ、左手を包み込むようにルーズリーフをか
ぶせる。そして、口の中で呪文を呟いた。
 左手が次第に軽くなっていくのが感じられる。しばらくして、そのルーズ
リーフをどけると、左手には最早ねばねばしたものの姿はなかった。
「これでええやろ」
 キャン、と子犬が鳴く。
「お前、まだおったんかいな。もうどこにでも行けるやろ」
 神羅は犬にあっちいけ、という仕草をする。それが理解できたのか、子犬は
少しの間立ち止まっていたが、やがて向こうへと走っていった。
 電灯の明かりが届かなくなり、犬の姿が見えなくなるのを見届けてから、神
羅は再び家路についた。

時系列と舞台
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2005年11月初旬。

解説
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ねばねばしたものが何だったのかは聞かないでください。

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