[KATARIBE 29487] [UB01N] 小説『愛好家』

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Date: Wed, 2 Nov 2005 22:59:03 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29487] [UB01N] 小説『愛好家』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月02日:22時59分02秒
Sub:[UB01N] 小説『愛好家』:
From:久志


 久志@かぜっぴき、です。 
UBの小説を書いてみた。ちっとも近未来っぽくないのはないしょだ。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『愛好家』
============== 

登場キャラクター 
---------------- 
 ヒモエ・アマガミ(甘神紐衛)
     :元ヤクザの傭兵。煙草好き。 
     :http://kataribe.com/UB/01/C/0004/ 

湿気に煙る路地
--------------

 体中にまとわりつくような熱気。吐き出した息とも区別がつかぬほどに湿気
をたっぷり含んだ空気の中をぬって、アマガミはめざす店へと向かっていた。
歩を進めるたびに背後に渦巻く空気の渦と、着込んだ服が軋むように肌に擦れ
る感触が、遠い記憶の中にある日本の夏を微かに思い出させる。全身にじっと
りとまとわりつくような湿気、通った後に渦が巻く様が見えるような熱気の海。
中東やアフリカのような乾ききった暑さとは一線を画したアジアの夏。
 島々の花輪という名を持ち、日本で楽園の島と呼ばれていたモルディブ群島
の沖に浮かぶメガフロート。群島〈アーキペラゴ〉都市、フラワーポット。今
は雨期に当たるが、一日一度か二度激しいスコールが降る以外は一日中雨が降
り続くのはあまりみられない。
 完全に闇には染まりきらない薄暗がりの中で舞台照明のような街灯が水分に
満ちた路地を鈍く照らし、片隅には雨ざらしにされたままの娯楽用の仮想知覚
共有の筐体がそこかしこに視神経端子〈リード〉をぶら下げたまま打ち捨てら
れ、切れた電源ランプが湿気で曇っている。

 木目調で統一された店内、片隅におかれた生体オブジェのシダが濡れたよう
に青々と茂り、枯葉色の店内で存在感を振りまいている。薄暗い店内に立ち並
ぶ棚には琥珀に満たされた瓶がうっすら埃を浮かべたまま並び、天井には飴色
に光る傘に包まれたランプが点々と設置され、淡いオレンジの光が包むように
照らしている。
 合成樹脂〈フォーマイカ〉張りのカウンターの上に両手をのせた主人が大柄
な身体を折りたたんで座り、その背後にある棚には一ミリの隙間も見当たらな
いほどぎっしりと並べられた世界中の煙草のケース、表向きの舶来品店とは名
ばかりな個人的趣向の為の店主の道楽。

 酒と煙草。
 いつの時代もどれほどの世代を超えても、一定数の愛好者を保つ至高の麻薬。
 フラワーポッドに置いては、これらの本物を手に入れる為には高価な舶来品
で入手するか手はない。もっともどちらも工業用アルコールから生成される合
成酒、脳に直接刺激を与えて喫煙体験をえる擬験〈シムステイム〉が早くから
実用化し民間に浸透しており、よほどの偏執狂的愛好家〈マニアック〉でなけ
れば、わざわざ高価な舶来品に頼らずとも充分に欲求を満たすことができる。

「スナッフ、ウィルソンスーパーメンソール」

 オブジェのようにその場を動かなかった店主がゆっくり顔をあげ、アマガミ
を見上げる。そのまま機械のように正確に迷いなく椅子を後ろに回転させ、隙
間なく並んだ棚へと手を伸ばす。

 嗅ぎ煙草〈スナッフ〉
 かつてヨーロッパで大流行し、多くの貴族に愛されたという。産業革命を機
にパイプやシガーにその座を譲ったが、今でも根強い人気をもつ煙草。

 アマガミにとって煙草は学生時代から続く唯一の楽しみであり、最大の贅沢。
生まれ育った日本ではまずめったにお目にかかれない代物を得る為、何度とな
く店を調べ個人輸入店に足を運んだ。
 今ではスナッフに模した感覚を味わえる擬験も多く開発されている。だがア
マガミの目にはそれは魅力的には映らなかった。スナッフを楽しむことの意味
は吸った爽快感だけでなく、吸うという行為を含めた全てに意味があるからだ。

 フォーマイカ張りのカウンターの上に、先日仕事の報酬で得たドル紙幣を数
枚積みあげ重石代わりの硬貨を一枚載せる。
 ゆっくりと振りむいた店主が無表情のまま、手にした丸いスナッフのケース
をカウンターに置く。

「景気がいいな」
「ああ、いいビズだったものでね」

 紙幣を手にとる店主を一瞥し、スナッフのケースをポケットに落とし込み、
カウンターから背を向ける。

「まいどあり」


解説 
---- 
 煙草を買いに舶来品の店に訪れるアマガミ。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。



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