[KATARIBE 29482] [HA06N] 小説『 Honesty 』

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Date: Tue, 1 Nov 2005 23:18:47 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29482] [HA06N] 小説『 Honesty 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月01日:23時18分46秒
Sub:[HA06N]小説『Honesty』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
史兄公安にいっちゃうの?(;_;)話の続きです(どんなんや)

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小説『Honesty』
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登場人物 
--------
 本宮和久(もとみや・かずひさ) 
     :吹利県警生活安全部巡査の生真面目さん。豆柴が定着。
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。相羽宅の現在住人。


本文
----

「なんか、史兄が悩んでるみたいなんです……」

 困ったように眉を顰めて、豆柴君がそう言った。

         **

 将を射んとすればまず馬から……てんじゃないけど。 
 本宮さんを、あれ以上攻略するのは無理だと思ったから、まずこっちかなと。
 連絡を取ると、割とあっさりと会えるとのことだったので、それなら、と、
呼び出した。
 そして……こちらからどうこう、と言う前に。
 冒頭の一言である。

「悩んでるって、どうして?」
「それが、わからないんですけど」
「……ふむ」

 グラスを傾けてみる。
 無論何が判るわけでもない。
 

「あ、そいえば」
「ん?」
「今度、俺、刑事講習うけるんです」
「へえ」
 グラスから目をあげる。
 豆柴君は、えらくうれしそうにしている。
「講習ってことは……受かったら刑事になるの?」
「……すぐってことじゃないと思いますけど」
 
 それでも望む道の第一歩なのだ、と、豆柴君はにこにこして言う。
 
「……あ、本宮君、ちょっと訊いていい?」
「え、なんですか?」
「県警って……刑事課以外に、どんな部署があるの?」
「えっと、俺のいる生活安全と地域、警備、総務、交通に」

 ひとつふたつ、と、指を折る。
 いまいち聞きなれないというか……自分が知ってるのって、まあ、本だのテ
レビだのの受け売りだから仕方ないけど。

「刑事課って、そうすると、人気ありそうだね」
「ええ、刑事と交通の白バイが一番人気ですね」
「ああ、やっぱり」

 そこら辺は、何となく判る。

「刑事になれる資格を得ても、空きが出ない限りはなかなか……」
「ふーん」

 空きが出ない筈の刑事課に、それでも次を育てる必要があって。
 本宮さんが県警のことで悩んでて。
 相羽さんが県警のことで、しょげていて。

 なーんか見えるよーな気がするんですが、ええ。

「それに、今の刑事部は有能な人多いし……」
 恐らくそこらのことは一切知らないのだろう。豆柴君はむーっと腕を組む。
「そだねえ、ヤク避けやら笑う悪魔やら」
「…………はい」
 また、真っ正直に『それは無理ー』みたいな顔になってるし。
「今からそんな、気弱な顔しててどーします」
 それでもそれが、単なる弱気だの何だのって、負の感触がないのは多分、彼
のどこか透きとおるような正直さのせいかもしれない。
「あ、はいっ」
 ほら、今でも……それこそ絵に描いたように焦った顔になるし。

「でも、なれるならやっぱり刑事がいいなあ、って」
 嬉しそうな顔で、けれどもそう言う表情が。
「叶うよ、願ってたら」
 どうしても応援したくなるような表情で。
「はい……頑張ります」
「……ん」

 とは言え、豆柴君がお兄さんやら相羽さんを目指しても、それは無理って気
がするけれども。

 それに。
 何となく……あの二人のへこむ理由が、判った気がする。
 刑事課。そこの名物二名。

「……あ、そうだ」
 不意に豆柴君がぽん、と手を叩く。
「ん、どしたの?」
「真帆さん……あの、身長どれくらいですか?」
「……えっと、162か3、だけど」
「…………あのっ」
 めっさ真面目な顔で、グラスをテーブルに置いて。
「こ、こんど、貰ってほしいものがあるんですけどっ」
「は?」
「あのっ…………」

 そこで提案されたブツについては、また別の話になるから、置いといて。

 とりあえず、必要な情報は……入手完了、かな。

         **

 困った時のネット頼み。
 県警、課、と書いて、検索をかける。
 生活安全と地域、警備、総務、交通。
 一番判り易い(というか単純な)とこ……と探して、「キッズコーナー」を
発見。この程度のとこがまあ、一番、判り易くはあるだろう。

 さて、どこが確率高いかな。
 地域……違うだろうなあ。警務……つまりこれ総務みたいなものだろうし、
これも多分違うだろうし。
 交通、でもなかろうし。
 生活安全か……警備……?

 検討をつけたところで、また別のサイトに飛ぶ。今度は大人向け(ってのも
変だけど)を辿って。

「……え、警備って……公安てここに入るの?」

 刑事部ってのは、恐らくは一番人気なんだろうと思うし、それは別に不思議
でもない。人気どうこうでもなく、本宮さんは今の仕事に合っていると思う。
 その彼が、もしも、意に沿わないところに移される、としたら。
 悩みはするだろう。でも断わるんじゃないかなと思う。
 必要なことは、上司にもはっきり言う奈々さんの旦那様、だもの。奈々さん
が反対するってことも無いだろうし。

 と、すると。

             **

 何だかんだで、本宮さんに会ってからほぼ一週間。
 尋ねようにもなかなか相羽さんは帰ってこない。帰ったと思ったら、毎度御
馴染み『めし、ふろ、ねる』で。
 疲れてるのか凹んでるのか、どうも読み取り難い状態の、数日が過ぎて。

「ただいま」
「あ、おかえり」

 声の調子のどこだかに、大丈夫の印があったのかどうだか、この数日大人し
かったベタ達がぴゅーっとすっとんで行った。

「今日、何?」
「本で読んだんで、秋刀魚の沖なますって作ってみた」
「へえ」
「あと、生姜煮と、水菜のおひたし」

 ……あ、ほんとに仕事一段落ついたんだ。
 ご飯のおかずを聞く、なんて数日無かったもんな。

 つくつく、と、嬉しそうにベタ達は相羽さんの後を付いてゆく。
 ……やっぱ……さびしかったのかな、と。
 ふと。

 
 ごはんを終えて、お風呂を終えて。
 新聞を広げて。

 ……思わず、ベタ達と顔を合わせてしまう。
 また、目が動いてない。

「…………相羽さん」
「ん?」

 ひょい、と、顔をあげてこちらを見る。
 一瞬どうしようかな、と、思ったけど。

 けど。

「……本宮さんが、部署移動するかもしれないの?」

 一瞬。
 相羽さんの表情が、はっきりと変わった。
 見開いた目は、けれどもすぐに元に戻る。
 小さく、息をついて。

「…………なんでそう思う?」
「推理小説読みをなめるな……と、言いたいとこだけど、な」
 苦笑未満の、妙に苦い表情が、相羽さんの顔に浮かんだ。
「……そう、か」

 そのまま視線は、ゆらゆらと落ちる。
 失敗したとでも……思ったのだろうか。

「だってね」
 だから、ことさらに口調を明るくしてみる。
「相羽さんが、『県警でちょっと』で落ち込んでて、本宮さんが『県警でちょっ
と』でなんか変で」
 指を折って。
「豆柴君が、刑事になる為の講習受けるっていうし」
 指を折る、その先の相羽さんの表情は、変わらない。
「そんで…………なんとなく」
「なるほど、そうくるか」
 溜息交じりの、でもどこか納得したような……笑いを含んだ声。
「そんで最終判断は」
 不思議そうな顔になった相羽さんの目の前で、ぱっと手を開いて。
「今の相羽さんの顔」
 今度こそ、相羽さんは苦笑した。


「俺からは、答えられないんだよね」
 手が伸びて、頭をくしゃっとかきまわす。
「だから、どうなるかは俺にはわからない」

 ああ。
 一応公務員。それも警察官。
 守秘義務だの何だのがてんこもりに相違ない。
 一応そういうのって、確か同僚の間でも秘密の筈だし。

 ……でも、判るんだろうな、相羽さんと本宮さんなら。

「……じゃ、これは、老婆心からのおせっかいだけど」
「ん?」
「言ったほうが良いよ。本宮さんに」
 相羽さんは、つと、口を閉じた。
「理屈でどうこうじゃなくて……相羽さんが、どう思ってるか」

 何か、自分でも、人のこと言えるかなって思ったけど、それはそれ、これは
これ。
「……散々人に言ってるでしょ?理屈じゃないって」
「まあね……」
「相羽さんの仕事のことは、あたしは判らないけれど」
 それでもこの人の仕事は、人と人との間の、やりきれない部分を何とかしよ
うっていうものだから。
「理屈でない部分が、かなり含まれてるはずだから」
「…………」
 相羽さんが、視線を落とした。
 何か納得してるような……へこんだような……
 …………ああもうっ。

「……ずっと昔からの友人だよね?」
 手を伸ばす。力なく伸ばされた手を掴む。
「何でそれで……さびしいって言うのがそんなに大変なんだ?」
 相羽さんは何も言わない。ただ、掴んだ手が握り締めるように握り返された。
「当たり前で当然のことじゃないの」
「…………どうにも、ね」
 のろのろと、口を開いて、少し息をついて。
「意地っ張りなんだね」
「こら」
 空いてる手で、相羽さんの頬の辺りを軽くはたく。
「意地っ張りは判ってる……でも、友人でしょ?」
 妙に気弱な……しょんぼりしたような顔に向って言い募る。
「さびしいって思うのが当たり前なくらいの、友人でしょうが」
「そう、だね」

 淡く、笑う。
 判っているけど、言えない。
 そんな顔して。

「……あの、さあ」

 言いながら、何となく……わかる。
 相羽さんは多分、さびしいんだと思う。
 そして多分……本宮さんも。
 だけど。

「本宮さんが部署変わるって聞いて、もし相羽さんがさびしくないなら、それ
こそ本宮さん泣くよ」

 二人とも、意地っ張りで頑固だから。
 相手の意思を尊重するべきだ、とか、自分でこういうことは決めないと、と
か、そういうことを言い出して黙ってる。
 ……多分、それで二人とも、余計に黙ってるのだな、と。

 相羽さんは、笑った。
 少しだけ……ほっとしたような笑いに見えた。

「言ったら……いいじゃない」
「……そだね」
「それで、本宮さんがどうするかは、本宮さんの問題。でも」
 これだけは、言える。

「言わなかったら……後悔するよ?」
「…………ああ」

 相羽さんの視線は、どうしても下を向く。
 でも。

「……あの時に、会いたいって、言ってくれたよね」
 あの日。電話の向こうで、搾り出すように。
「言ったね」
「相羽さんがそれ言わなかったら、あたしここに居ないから」
 
 言ってくれなかったら。
 多分あたしは、あのまま落ちていったろう。
 そして無論……ここどころかどこにも居なかった。

「…………そう、だね」
「……意地張ってたほうが、良かった?」
「いや」
 
 片手が、掬い寄せるように背中にまわる。
 そのまま抱きしめられた。

「……思ってること、言ったらいいよ」
「ああ」
 笑い声が振動になって伝わる。
「あん時、言わなかったら……一生後悔してただろうし」
 
 一言。
 でも、多分その一言が無ければ、今の自分はここに居ない。
 だから。

「じゃ、一生後悔しないように」
「わかった」

 廻された腕に、一度力がこもる。
 決意のようにも。

「……ありがとう」
「…………どういたしまして」


 どうなるだろうと思う。
 無論、勝手なことだけど……出来れば。
 相羽さんと本宮さんに、いつまでも一緒に相棒やってて欲しいなって思う。

 それが出来て、一緒に仕事が出来る人って、本当に稀有だから。

 でも、どちらを本宮さんが選ぶにしろ、思っていることを言うほうがいい。
 そんなふうに。
 
 …………思った。


 
時系列
------
 2005年9月の末くらい。『予測と予感』の一週間後。

解説
----
 『史兄、公安に?』な話の一連。
 正直に……しかして自分のことは棚の上に蹴り上げて。
 なんかようやく真帆が役に立ったなあ、な話です。

********************************************:
 
 てなもんで。
 話の途中で、豆柴君が、今度真帆に上げるってゆーてるのは
 はてなんでしょう<おい

 ではでは。
 




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