[KATARIBE 29481] [UB01N] 小説:五里夢中

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Date: Tue, 01 Nov 2005 22:59:11 +0900
From: Paladin <paladin@asuka.net>
Subject: [KATARIBE 29481] [UB01N] 小説:五里夢中
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 ぱらでぃんです。


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小説:『五里夢中』
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登場人物
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 ツカサ=ヨーヘイ・クサカワ  :少女型義体に入ったおっさん。
                 http://kataribe.com/UB/01/C/0006/

 エンノイア          :ツカサの嫁。

 ニキアス           :ツカサの悪友。

本文
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 市門を潜った途端、雑多な香料、肉、魚、野菜、布、顔料、体臭。といった
もろもろの雑じりあった城〈キャッスル〉の薫りが脳をくすぐる。この臭いは
今の躰〈ボディ〉にリプレイスするため訪れたテヘランの市場〈バザール〉に
似ていると彼はいつも思う。
「買い取り、頼む」
「や」
 市門の傍にいつもそこで絨毯を広げている馴染みの珍品商。彼にいつも通り
戦利品を見せる。
「火竜の熾、忍者の苦無、道化師〈ジェスタ〉の舌。相変わらずソロ十階か」
「パーティは馴染めんよ」
「そっか。戦利品のほうは全部で金貨十万ってとこだ」
「それでいい。銀行に頼む」
「あいあい」
 キャラクタデータを書き換える情報流〈ストリーム〉を感じ、満足げに頷く
少女。
「それにしても」
「なんだ」
「そんな極まった装備でもまだ金がいるもんかね」
 彼女が纏っている装備は全て最高級。これ以上求める物など無さそうなもの
だが。
「他にもいろいろやってるんでな」
「そっか。それじゃ」
 珍品商に別れを告げ、上広がりに建物が重なり合っている巨大な市場の中へ。
城の薫りが一段強くなる。番地〈アドレス〉を直接叩い〈コールし〉たほうが
手っ取り早いのだが、彼女は歩く。
 城の臭いに混じって、店々が存在を主張する臭いや色、音が脳を刺激する。
竜〈ドラゴン〉のステーキ、星明かりをたっぷり吸った雷石〈ケラウニア〉と、
それが弾ける音。雑踏の中には長槍を担いだ爬虫人〈リザードマン〉の戦士や
聖印を重そうに担う小妖精〈フェアリー〉の僧侶。ありえざるものが情報流と
いう形で脳に流れ込み、五感へ展開された風景。
 香料に肉、酒などを買い込み、手近に泊まっていたゴンドラに声をかける。
ゴンドラはゆっくり市場を支える柱〈シャフト〉に沿った垂直の大運河を降り
下層、そして夕陽が照らす街へと出る。
「到着」
「ありがとよ」
「またどうぞ」
 銀行から金が引き落とされ、音も無くゴンドラは去る。その後ろ姿を見送り、
彼女はそのまま運河べりの家へ。
「ただいま、エンノイア」
「おかえりなさい、ツカサ。今日は砂竜肉の酒蒸しですよ」
 ツカサに似ているが少し長身のメイドが、滑らかな合成声紋とふわりとした
微笑で出迎える。奥からは鶏に似た砂竜肉と香味野菜の香り。それに黒い肌と
白い髪の男が茶を啜っている。
「今日は遅いな。死んでたか」」
「いつもたかってんじゃねえ。たまには金出せ」
「軌道からのアクセスはラグくて狩りは辛いんだよ」
「それならもう少し謙虚にそこの藁で寝てろ。せっかく買っといたんだ」
 勝手に上がり込んで椅子にふんぞり返っていた来客と悪態をつきあいながら
着替えを済ませ、食卓へ。食事にナイフを入れ口へと運ぶごとに、肉や香草の
情報〈データ〉からチェインが調律した食感や風味が擬験〈シムステイム〉を
通して脳に受容される。
「今日のお味はどうですか」
「うん、完璧。随分上手くなった」
「ありがとうございます」
「はあ。ツカサも好きモンだなあ」
 ツカサに褒められ頬を赤らめるエンノイア。来客はそれを冷めた目で眺める。
「エンノイアは俺の嫁だからな」
「まあ。ニキアス様がいますわよ」
「AI相手に恋愛ごっこかよ」
「聞き捨てならんな」
 エンノイアの目が潤むと、切れ長なツカサの目がきっと鋭くなる。
「いやすまん。俺はどうもお前さんの持論を受け容れ難くてな。その、なんだ。
魂なんて存在しないって奴がな」
「ああ、魂〈ゴースト〉なんざ無い。経験によって学習して適切な回答を出す
仕組み〈システム〉が人間はちょっと発達してるだけだ。魂てえのは人間だけ
高級な存在でいたがってた頃の方便だな」
「その証明が彼女か」
「証明なんて酷いことのために生んだんじゃねえよ」
 ニキアスを睨んでいた瞳を和らげてエンノイアの目を見、ツカサは言う。
「嫁だって言ってるだろ」
「はは。つき合ってられんな」
 客人は苦笑して勝手に何十杯目かの茶を注ぐと、大きな目玉に手足と翼膜が
生えた遣い魔の持ってきた新聞を目で追いながら茶を啜る。
「うつし世は夢、夜の夢こそまこと」
「なんじゃそりゃ」
「乱歩だよ。江戸川乱歩」
「エドガア・アラン・ポオか。黒猫なら読んだ事がある」
「違う。江戸川乱歩だ。パノラマ島でも読んでみろ」
 中空に指で綴った文字をニキアスに投げつける。
「で、そのエドガワ・ランポが何なんだ」
「俺の感覚器だと擬験で体験したほうが現実〈リアル〉で体験するよりリアル
なんだよ」
「あはあ。そういえば義体にリプレイスしてんだったか」
「ああ。だから最終的にはこっちをうつし世にできればと、な。エンノイアを
現実に引っ張るってのも手っちゃあ手だが、彼女が覚えるべきことやら無駄な
倫理が多すぎる。俺がこっちに適応したほうが早い」
「なるほどな。ま、俺は義体じゃねえからよくわからんのだがっと、時間だ」
 そう言うとニキアスは席を立つと遣い魔を肩に乗せ、玄関へ向かう。
「ええ。そうだと思ってニキアス様のポットにはお茶を入れてませんでしたわ」
 ティーセットを片付けながら悪戯っぽく笑うエンノイア。
「一本取られた。こいつは確かに人間臭い」

$$

 それでは。


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SIC MUNDUS CREATUS EST
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