[KATARIBE 29476] [HA06N]小説『咳をする金木犀』

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Date: Tue, 01 Nov 2005 01:02:24 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29476] [HA06N]小説『咳をする金木犀』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
00:17 <Role> rg[hukira]HA06event: 眠そうな和服の女性が咳が止らない ですわ☆

でした。何げに金木犀シリーズ
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小説『咳をする金木犀』
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登場人物
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 金木犀の少女:金木犀の精。

 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
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 けほけほ、と居間からか細い咳が聞こえる。
 一白が廊下から中を覗くと、ちゃぶ台に突っ伏した金木犀の少女の姿があっ
た。
「お、おねえちゃん?」
 恐る恐る声をかける。彼女はゆっくりと顔を上げた。目がとろんとしてい
て、前髪に変な寝癖がついている。
 彼女は一白の方を見て、もう一度けほけほと咳をした。
「風邪?」
 一白が心配そうな顔で尋ねる。彼女は少し笑みを浮かべて、顔の前で右手を
振った。
「うちらが風邪を引くわけあらへんやん」
 言いながらも、相変わらず咳をしている。
「あ、そうか」
 姿形は人間であるものの、一白の正体は人型の紙、少女は金木犀の精であ
る。人間がかかるような病気になるはずなどない。
「じゃあなんで?」
「……それが分かったら苦労せんわ」
「うーん。別に熱がある訳じゃないよねえ……って、温かくないっ」
 一白が彼女に額に当てた手をひっこめる。
 少女が苦笑する。
「そもそも体温があるわけでもないやん。けほ」
「むー…… 何でだろうねえ?」
 首をかしげる一白。誰かに相談しようにも今は夕方。神羅はまだ大学から
帰ってきていない。祖父は神社の方にいるだろうが、こういうことにはあま
り頼りにならない。
 居間の窓から入ってくる夕日が、部屋を橙色に染める。
 少女が着ている金木犀の花の柄の和服も同じような色をしており、一白は
彼女の輪郭がぼやけているように見えた。
 ひょっとして、このまま消えてしまうんじゃないだろうか、と一白は思っ
た。そして、そう思い始めると何か急に落ち着かなくなった。
「どしたん?」
 相変わらずぼんやりとしたままの表情で少女が一白に向かって首をかしげ
る。
「……消えないよね?」
「は?」
 あっけにとられた顔の少女。しばらくしていつも見せる意地悪そうな笑み
とは違う種類のふんわりとした笑みを浮かべた。
「そう簡単には消えへんって」
 そう言いながらも、まだ咳は続いている。
 一白が心配げな表情を一層濃くしたとき、玄関が開く音がして「ただい
ま」という神羅の声がした。
 一白はまるで犬のように玄関へと駆けていく。
「おおう。どないしたん?」
 いきなり出てきた一白に神羅は驚く。
「あのねっ、お姉ちゃんの咳が止まらないのっ」
「……は?」
 いまいち要領を得ない表情をしている神羅にも、けほけほという咳の声が
聞こえてくる。
 やがて廊下から少女が姿を見せた。
「おかえり」
「ただいま……って、どうしたん?」
「さあ。よお分からん」
「ふむ……」
 一白が神羅の袖を引っ張った。
「どうにかならないの?」
「まあ、とりあえず本体を見てこよか」
「本体?」
「金木犀。あっちに何かあったから、そんな症状になってるんやろ」
 そう言って神羅は鞄を玄関に置いたまま、境内へと向かっていく。しばら
くして、少女と一白も追いついてきた。
 境内に近づくにつれて、ぱちぱちという音と白い煙が漂ってくる。
「ははあ……」
「けほけほ……なるほど……」
 その煙を見て、神羅と少女は何か分かったかのように頷いた。一白は相変
わらず不思議そうな表情を浮かべている。
「どういうこと?」
 一白の質問には直接答えず、神羅は金木犀の木の方向を指さした。
「あ」
 そこには木の近くで落ち葉焚きをしている猛芳の姿があった。
「爺さん、そんなところでたき火やってるからこいつが咳こんどるやんけ」
 神羅の言葉に、猛芳は慌てて落ち葉の火を消す。しばらくして、ほぼ完全
に煙が立たなくなった頃には少女の咳も止まっていた。
「はは、こりゃ全く気付かなんだわ」
 猛芳は済まなさそうに頭を掻いた。
「……よかったあ」
 一白が安心した顔で言う。金木犀の少女はそんな一白の頭をポンポンと軽
く叩いた。
「心配してくれてありがとう」
 その言葉に照れくさくなって俯く一白。それを見て、他の三人はほほえみ
を浮かべた。


時系列と舞台
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2005年10月。帆川神社にて。

解説
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金木犀の精は何か煙たいことに気付かなかったのでしょうか?

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