[KATARIBE 29466] [HA06N] 小説『微かな野心』

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Date: Sat, 29 Oct 2005 21:09:06 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29466] [HA06N] 小説『微かな野心』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月29日:21時09分05秒
Sub:[HA06N]小説『微かな野心』:
From:久志


 久志です。
史兄の公安云々のお話続き。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『微かな野心』
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登場キャラクター 
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事部巡査。屈強なのほほんお兄さん。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0263/
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。史久の相棒。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/

屋上にて
--------

 すっかり日の落ちた県警屋上。
 汚れたコンクリートは薄紫色に染まり、頬を撫でる風は微かに湿気を帯びて
いて妙にまとわりつく。
 ふと視線を上げると、すっかり人通りの無くなった駅前の吹利本町商店街が
立ち並ぶかすかな街灯の明かりに照らされて不気味な影を落としている。

 答えを出さなければならない。
 誰のためでもなく、自分自身の答えを。


 どのくらい時間が経ったのか。
 ふと、背後に馴染みの気配を感じた。

「いよう、史」
「……相羽先輩」

 普段の人を食ったような笑顔を浮かべて、軽く足音を鳴らして隣に並ぶ。

「お前、仕事あがったんじゃなかったん?」
「ええ、一応は」

 先輩、多分知ってるんでしょうね。
 警備部異動の話が内々にという事になっていても、あの情報に敏感な相羽先
輩のアンテナにひっかからないはずがない。先輩自身も、何度となく東とつる
んで陰謀をめぐらせていたり、暗躍していること僕も知っている。前々から東
が僕を公安に引き入れたいと思っていたのも薄々感づいていたのだろう。

 無言のまま、ふと目の前に差し出される煙草。

「……吸う?」
「一本だけ」

 差し出された煙草をを一本くわえる。
 胸ポケットを探すより早く、先輩がライターを目の前に突き出した。

 ゆっくり吸い込んで、赤く燃える火を見つめる。

 深く、息を吐き出す。
 白い煙が糸を引くように夜の空に消えていく。
 かき消えるように、儚く。頼りなく。

 世の中とは、案外脆いもので。

『それでも、俺達は支えねばなるまいよ』

 東の言葉が頭をよぎる。

 こつんと、ふいに肩を拳で叩かれる。

「先輩?」
「…………」
 先輩は屋上から遠く景色を眺めたままで。

 いや、だめだ。
 今は先輩に頼るべきじゃない。

「……すいません、そろそろ帰ります」
「そう?お疲れ」

 半分ほど減った煙草を下に落として踏み消す、つぶれた吸殻を拾い上げて、
先輩に小さく頭を下げた。

「それじゃ、お先に失礼します」
「おう、じゃあね」

 背を向けたまま、先輩が小さく手を振るのが見えた。


 家までの足取りが妙に重い。

 何を悩むのか。自分はどうしたいのか。
 正直、警備部へ行くのが嫌ならば、こんなに悩みはしない。

 公安への異動にどこかしら魅力を感じているからこそ、どちらともつかない
気持ちで迷いを感じている。
 責任を果たさずに権利は得られない。そして義務と責任を負う立場につくと
いうことは、その組織内において相応の権限を得るということだ。
 僕自身は県警内部のパワーゲームに参加する気など毛頭無い。だが周囲に対
する影響力を得た者が弱者を気取るのは許されない。

 自分にどれほどの責任が負えるか。
 自分に揮える采配でどれほどのことができるか。

「参ったな」
 思わず苦笑する。
 僕も案外野心家のようだ、権力志向の本宮本家の大叔母様を笑えない。


時系列 
------ 
 2005年9月上旬。小説『これからの立場』の続き。
解説 
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 自分の中の野心を感じる史兄と知りつつ何も言わない先輩。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



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