[KATARIBE 29464] [UB01N] 小説『燃え滓』

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Date: Fri, 28 Oct 2005 20:43:00 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29464] [UB01N] 小説『燃え滓』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月28日:20時43分00秒
Sub:[UB01N] 小説『燃え滓』:
From:久志


 久志@かぜっぴき、です。
UBのアマガミをちょっぴり動かしてみました。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『燃え滓』
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登場キャラクター 
---------------- 
 ヒモエ・アマガミ
     :元ヤクザの傭兵。煙草好き。
     :http://kataribe.com/UB/01/C/0004/

閃光
----

 青白い閃光。

 アマガミの見つめる先、粉々になったフロント硝子をばら撒いて、ひしゃげ
たボンネットがめくれ上がり前半分がつぶれたセダンが燃えている。後部座席
に積み込んでいた思われる発火物が強烈な青白い光をあげて車を焦がし、生暖
かい雨の注ぐ中、湧き上がる白煙が半分濡れた道路に刻まれたブラックマーク
を不気味に照らしている。燃えているのはよく使い込まれたトヨタの乗用車、
アマガミがまだ学生だった頃からある見慣れた車種だ。サングラス越しに青白
い閃光と炎に包まれたセダンを眺めたまま、小さく息をついた。

 再開のめどのつかない再開発予定区画、フラワーポッドでも特に治安が悪い
血の気の多い占拠住民〈スクワッター〉達が溜まる、昼間も銃を懐に忍ばせず
にはおちおち歩けない界隈。追い詰めた手負いの獲物は、逃げ切れぬ焦りから
ハンドルをとられたのだろう。仕事〈ビズ〉の目的である連続企業放火は阻止
できたものの、乗っていた奴はほぼ即死だろう。

 薄汚れた街並みと淀んだ夜空を焦がす強烈な青白い光。
 ふと、その光景に不思議な懐かしさを覚えていた。

 車に引き返し、右手の銃をそのままに周囲の占拠住民たちを警戒しながら胸
ポケットの携帯を取り上げてダイアルする。
『アロー』
「イェン、アマガミだ」
『ファイアーマンを捕らえたか?』
「いや……自滅しやがった」
『自滅?』
「ハンドルを切りそこなったようだ、自らの発火物で黒焦げになってる」
 電話の向こうで大きく舌打ちをする音が聞こえる。内容として任務は成功し
たものの、犯人を生きたまま捕らえられなかったのは不覚だ。
『今どこにいる?』
「チェイサー・バング」
『わかった、一旦そちらへ向かう』
 電話を切って胸ポケットにしまう。さっきまで薄汚れた夜空を照らしていた
眩しいかがり火もすっかり消え、あたりは薄暗がりに包まれている。片手でハ
ンドルを掴み、足をアクセルに軽くあて、手にした拳銃の引き金に指をかけた
まま息を潜める。ひんやりした銃の金属部の感触を確かめながら、今回の相棒
の到着を待つ。

 黒く燃え尽きたセダンはさっきまでの眩い白い光に包まれた面影は微塵もな
く、へしゃげた無残な姿をさらしていた。

 眩い一瞬の燃焼と。
 虚しく残る燃え滓。

 何故か、その落差がアマガミの記憶の底に沈んだなにかを刺激した。

 そこかしこが飴の用に捻じ曲がったフレームを足で蹴りつける。元は白かっ
た塗装が爆破物による高温に炙られて半ば溶け落ち、運転席があったはずのス
ペースはひしゃげたボンネットとダッシュボードとで半分以下のサイズになり、
抱え込むように体を丸めて炭化した運転手が微かに煙をあげている。慎重に手
にした銃底で軽く頭部を叩いた。鈍い音を立てて高温で黒く焼かれた頭部が小
さく揺れた、そのまま全身を注意深く観察するが義体化はしている様子はない。
もっとも義体化をしていたとしても、よほどの代物でなければこれだけの高熱
で焼かれてタダですむとは思えないが。
「これはお手上げだな」
「ああ、記憶を抜くのも無理だ」
 黒焦げの死体と僅かに残った爆破物の破片を回収し、チェイサー・バングを
後にする。後に残ったゴミは先住者達が好きに処分するだろう。
 フィクサーと落ち合うため、車をスタートさせる。
 ハンドルを握りながら。ふと、さっきからどこかにひっかかっていた不思議
な懐かしさに思い当たった。


 はるか昔。
 アマガミがローティーンだった頃に化学の実験でやったマグネシウムの燃焼
実験。白煙を上げて強烈な光を放ちながら激しく燃焼する光景と、一瞬で燃え
尽きた後の白い無残な燃えかすと。
 その対照的な様は当時のアマガミの目にはとても印象的に映った。
 同時期に着工されたフラワーポット。
 あの頃は、アマガミだけでなく覚えがある全ての者達の胸に激しく燃える炎
のように、未来への希望や、宇宙に向けた夢のようなものが溢れていたように。


 赤信号。
 車を停め、アマガミはちらりと腕の時計に目を走らせる。チェイサー・バン
グでのゴタゴタで多少時間を取ったが、待ち合わせた目的地はすぐ目と鼻の先
だ。セダンの主の遺体はスポーツバッグに無造作に押し込まれたまま後部座席
に転がっている。奴が何を憎んで、何を思って連続放火を行ったかはアマガミ
の知るところではない。

 信号が変わる。
 夢の燃え尽きた街、アマガミは車をスタートさせた。


解説 
---- 
 仕事してるアマガミ。ふとかつて見た光景を思い出す。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。


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